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林真理子「小説8050」

物語の力はすごい、と思いました。

令和3年度に江戸川区がひきこもりに関する大規模な調査を行い、その結果、76人に1人がひきこもりであるという結果だったとのことです。ひきこもりでいられるということは、家族がいる可能性が高いと思われるので、〇世帯に1世帯にひきこもりの家族がいる、と考えるともっと多くなるし、さらに、家族にひきこもりの人がいる、という見方だともっと多くなると思います。
でも、関わりのない人にとってみれば、全く関係のない話です。
この数字が行政に関わる人間から見れば衝撃的であったとしても、関わりのない人から見れば、何の意味もなさない数字になるのだと思います。

けれど、物語の力はすごい、と思いました。そして林真理子さんってすごい作家さんだな、と思いました。

どんなに自分が、ひきこもりとは関係のない生活を送っていたとしても、先が気になり、ページをめくる手を止められません。
私も、あっという間に読んでしまいました。ひきこもっている息子さんの変化に、一喜一憂してしまいました。

私も子どもがいるので、他人事だとは思っていないつもりです。学校に行きたくない、と言われることもたまにあります。私がリモートできる日などであれば、先生に事情を説明してお休みさせることもあります。それでリフレッシュできて、ありがとう、また学校に行くよ、と言ってくれていますが、それで済まないこともあるのではないかな、と考えたりすることもあります。でもこんな7年も社会から離れる想像はなかなかできませんし、むしろそこまで心配するのも違う気もします。

小説の中では、母親の言葉、父親の言葉の中に、はっとさせられるような言葉がありました。言ってしまいそうな言葉だけど、ひどいな、と思ったり。けれど、他人事だから、私ならこんな風に言わない、と客観的に見られるのかもしれませんが、実は自分も、そんな冷たい言葉を言っていることもあるのかもしれない、と思いました。

とても印象に残った言葉があります。

「君が君を味方にしないと、他に誰もいないんだよ」

本書

別にこれは、冷たい言葉ではありません。何か問題を抱えている人がいたとしても、それを課題を明確にして、どう対策をとればいいのか、というところまで持っていくためには、周りが解決しようと躍起になっても仕方がないのだと思います。
良かれと思ってやったことが見当違いになったりすることもあるわけです。
だから一番大切なのは、本人が、自分のことを話すということになるのだと思います。簡単なことではないと思うのですが、本当の意味で周りができること、というのは、そこから始まるのだと思います。

8050問題、と一言でくくられますが、こういう状態になってしまうのは、様々な理由があると思われます。ただ、共通するのは、親が面倒を見なければいけない、と強く思い込み過ぎることからなのではないかなと思ったりもしました。
親がやるべきことは、面倒を見ることではなくて、自分で自分を面倒見なければいけないということを伝えていくことなのだと思います。
それは自分で稼ぎ、自分で生活するということに限定されるわけではなくて、様々な制度を利用しながら生きていくということも含まれると思います。

ふと思ったのですが、大人になって働いているから、といっても、ひきこもりになることはないという安心はできません。いい歳して、そんな甘ったれたことを言っている場合じゃない、と言われるかもしれませんが、自分だって、外に出られなくなることがあるかもしれない、とも思いました。
江戸川区の調査でも、40代女性、家族ありの引きこもりが最も多かったということです。

子どもの頃より傷つきにくくなっているかもしれないけれど、大人だって、自分の限界を超えてしまうことがあるかもしれません。色んな責任を背負っている分、ちょっとやられただけで、よろめいてしまうことがあるとも思いました。

だからこそ、「君が君を味方にしないと」という言葉を大事にしたいと思います。



追記
この記事を書いた後で、ひきこもりに関する記事を見つけたので、ご紹介します。8050問題という視点から見ると、ひきこもりは将来的に問題になりますが、普通じゃない(?)ことにフォーカスするのではなく、もっと広い視点で、「幸せにひきこもりきる生き方を支援する」という視点が大事なのかなと思いました。


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