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映画レビュー『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)栄光など手にしなければ

栄光など手にしなければ

人間は一度栄光を手にし、
それが失われると、
なんとも惨めな気持ちになるものです。

大スターでなくとも、
世間から見ればどんなに
ささやかな栄光であっても、

その栄光が過ぎ去った時、
誰もが同じような心境になるでしょう。

そんな人間の惨めさを
見事に描いたのが本作です。

本作は2014年に公開され、アカデミー賞、
ヴェネツィア国際映画祭などで、
多くの賞を受賞しています。

主人公は、リーガン・トムソン、
(マイケル・キートン)

彼はかつて『バードマン』という
ヒーロー映画のシリーズで主演を務め、
大スターになりました。

ところが『バードマン』シリーズは、
20年前に途絶え、
今では、彼のことを憶えている人は
ほとんどいません。

この物語は、人々から忘れ去られた
元・大スターの苦悩と挑戦を描いた
映画なのです。

踏んだり蹴ったりの主人公

人々から忘れ去られ60代に突入した
リーガンが再起をかけて挑んだのは、
ブロードウェイの舞台でした。

それも彼自身がなけなしの資金を出し、
脚本・演出・主演を務める舞台です。

しかし、同じ俳優の世界でも
「映像」と「舞台」の間には、
深い溝があります。

映画では一度、
成功をおさめたリーガンですが、
舞台経験はないため、
無謀な賭けでもありました。

評論家は公演がはじまる前から、
彼の舞台をこきおろすつもりで
待ち構えていますし、

舞台経験のある共演者、
後輩の俳優からも
ボロクソに批判されるのです。

おまけにリーガンは、
家庭もうまくいかず、
妻とは離婚、娘は薬物中毒で
少し前まで施設に入っていました。
(娘はリーガンの付き人をしている)

リーガンの頭の中では、
いつももう一人の自分が
自分を嘲笑しています。

「もうお前は落ち目だ」

しかし、リーガンは、
その声に必死で抗います。

頭の中でもう一人の自分の声が
聴こえるたびに、
劇中のリーガンは超能力的な力を
見せてくれます。

手を触れずに、
物を動かしたり、投げつけたり、
身体が宙に浮いたり、

彼は本当に超能力者なのでしょうか。

全編が1カットで撮られたかのよう

とにかく、リーガンが
あまりにも惨めなので、
多くの人が同情してしまうでしょう。

ですが、彼も決して、
言われっぱなしではありません。

生意気な後輩俳優に
殴りかかったり、
自分をハナから批判する
批評家に噛み付いたり、

彼は必至でもがき続けます。

しかし、何もかもが、
なかなかうまくいかないのです。

本作のこういうところは、
非常にリアルにできているなぁ
と思いました。

そうなんです。

人生って、うまくいかないものですよね。

作中では、ほとんどのシーンが
リーガンを中心に描かれおり、

基本的には、ブロードウェイの
小さな劇場とその周りだけが
画面に映ります。

さらに、本作のすごいところは、
全編が1カットで撮られたかのように
ひとまとまりの映像として
巧みに編集されていることです。

観ている間、休む暇がありません。

こういう映画は非常に珍しく、
本作の個性を際立てている特徴ですね。

また、ジャズドラマーを起用した
かっこいい音楽が、映像のテンポと
バッチリ、ハマっていて、
それがまたかっこいいんです。

ドラムの音だけで、
これだけ魅力的な映画音楽になるのは、
すごいことですね。

落ちぶれたスターが、
最後はどうなるのか、
絶妙なテンポで
描いて見せてくれる作品でした。


【作品情報】
2014年公開(日本公開2015年)
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
   ニコラス・ジャコボーン
   アーマンド・ボー
   アレクサンダー・ディネラリス・Jr
出演:マイケル・キートン
   エドワード・ノートン
   エマ・ストーン
配給:フォックス・サーチライト・ピクチャーズ
   20世紀フォックス
上映時間:119分

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