808 State 名曲ベスト10(私選)
※2500字以上の記事です。
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808ステイト(エイト・オー・エイト・ステイト)は、イギリスのテクノユニットです。
マンチェスターのレコードショップの店員だったマーティン・プライス、そのお店の常連客だったグラハム・マッセイ、ジェラルド・シンプソンによって結成されました。
彼らがデビューしたのは’88年です。
当時、シカゴで流行っていたアシッド・ハウスがイギリスにも伝播し、808ステイトもその影響を色濃く反映したトラックを作っていました。
▼デビューアルバム『Newbuild』
※残念ながら配信にはない
アシッド・ハウスは、ローランドのシンセサイザー「TB-303」のウネウネした音色を大胆に使用したダンスミュージックで、当時のクラブを席巻したサウンドです。
ちなみに、アシッド・ハウスには、同じくローランドのリズムマシン「TR-808」(通称・ヤオヤ)も使われており、808ステイトの「808」は、ここからとったものでもあります。
▼TR-808 に関する書籍のレビュー
『Newbuild』は、以降の808ステイトの作風とは大きく異なるアシッドハウスになっています。作風が変化したのは、『Newbuild』発表後に脱退したジェラルド・シンプソンの影響も強いと言われています。
ジェラルドが抜けた後に発表した EP が『Quadrastate』(’89)です。
『Quadrastate』には、のちに多くのリミックスバージョンが作られるグループの代表曲『Pacific』のオリジナルトラック『Pacific State』が収録されています。
この曲では、アシッドハウスから一転し、メロディーを前面に出したテクノが展開され、のちにアンビエント・ハウスにも影響を与えました。
’90年代に入ると、808ステイトはレーベルを ZTTレコーズに移籍し、さらに活躍の場を広げることになります。ボーカルのいないインストグループなので、歌もののトラックには、さまざまなゲストを招くスタイルも確立しました。
この頃に共演したボーカルには、ソロ活動前のビョーク、バーナード・サムナー(ニュー・オーダー)、イアン・マッカロク(エコー&ザ・バニーメン)、UB40 などがいます。
▼その時代のヒット曲。これらの曲は「ハードコアテクノ」と呼ばれた
一般的には、3枚目のアルバム『ex:el』(’91)までが、楽曲の発表のペースも早く、グループの全盛期とも言われます。それ以降は、アルバム発表が数年間隔になり、活動が停滞気味になりました。
途中で新メンバーが追加され、グループのオリジナルメンバーであったマーティン・プライスは『ex:el』を最後に脱退、以降は、グラハムの主導で活動が続いているようです。
(アルバムの発表は10年に1枚くらいになっている)
▼2019年(17年振り!)にリリースされた7枚目のアルバム
そんな彼らの楽曲の中から、私のお気に入りの10曲を選んでみました。
10.606(’02)
収録アルバム:『Outpost Transmission』
6年振りとなった6枚目のアルバムの1曲目。
女性ボーカルをフィーチャーしたダンサブルな曲で、健在ぶりをアピールした。キレのあるリズムトラックと冷たい質感の声の組み合わせが絶妙。
9.Kohoutek(’96)
収録アルバム:『Don Solaris』
5枚目のアルバムより。リズムトラックは、ダンスフロア仕様ではあるものの、短くも美しいメロディーが際立った曲になっている。曲の展開が起伏に富んでおり、ドラマ性が感じられる。
8.Bird(’96)
収録アルバム:『Don Solaris』
シンセによる電子音、サンプリング(人の声やノイズ)、ギターを組み合わせたドラムンベース。透明感のある音色が美しく、広がりのある音響がタイトルのとおり「鳥」の羽ばたきを連想させる。
7.808080808(’89)
収録アルバム:『Ninety』
2枚目のアルバムより。この時代の808ステイトは、もっともダンスフロアと密接な時代で、刺激的な音に溢れたダンスミュージックになっている。のちのハードコアテクノの萌芽が、すでに垣間見える。
6.Lift(’91)
収録アルバム:『ex:el』
’90年代初となった3枚目のアルバムより。シンセによる澄み切ったストリングスと軽やかなリズムトラックを組み合わせた秀作である。この辺りの曲から、ダンスミュージックだけでなく、リスニング系の曲も充実してきた。
5.Olympic(’91)
収録アルバム:『ex:el』
この曲でもシンセによるストリングスが大胆にあしらわれている。
リズムトラックは、デトロイト・テクノに通じるダンスフロア仕様だが、その上にある音の音色やメロディーが秀逸で、ダンスミュージックに留まらない魅力がある。
4.Plan 9(’93)
収録アルバム:『Gorgeous』
4枚目のアルバムの1曲目。当時、アコースティックギターからはじまるこの曲を聴いて「どうした808ステイト!?」と思ったリスナーは多いはず。
本盤から808ステイトは、ワールドミュージックも取り入れはじめ、次作『Don Soralis』では、さらにその色が濃くなっていく。そんな端境期の1曲。
3.Azura(’96)
収録アルバム:『Don Solaris』
イギリスのバンド・Lamb(ラム)のボーカル(ルイーズ・ローデス)をフィーチャーした曲。スティールパンのような音色のリズムトラックが印象的なドラムンベースになっている。
スティールパンという南国色の強い音色を使いながら、こんなに冷たい質感になるのが不思議。そんなミスマッチさが癖になる曲でもある。
2.Bond(’96)
収録アルバム:『Don Solaris』
アメリカのオルタナティヴ・ロックバンド、Soul Cofing(ソウル・コフィング)のボーカル(M・ドーティ)をフィーチャーした楽曲。
激しいリズムトラック、シンセ、ギター、サックスと渋いボーカルの組み合わせが絶妙で、静かな躍動感が心地いい。終盤の狂気を感じさせるサックスの音色も尾を引く。
1.Pacific 202(’89)
収録アルバム:『Ninety』
若々しい初期の808ステイトの代表曲。デトロイト・テクノ的なストリングス、リズムトラックにジャジーなサックスを載せたのが斬新だった。
聴く者をワクワクさせる展開と、サックスの音色のせつなさは、時代を経ても色褪せない魅力を感じさせる。
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