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映画レビュー『ジャコメッティ 最後の肖像』(2017)二日で完成するはずだった肖像画

ジャコメッティの彫像が細長い理由

本作に登場する
アルベルト・ジャコメッティは、
スイスの彫刻家です。
(1901~1966)

1922年にフランス・パリに移住し、
’27年前後に作品を
発表しはじめました。

彼の作品で有名な作品群は、
大戦後に作られたもので、

身体が針金のように
細長く引き伸ばされた
人物彫刻ですね。

ジャコメッティ2

なぜ、彼の彫刻は
極端に細長いのでしょうか。

ある時、
「なぜ、あなたが作る彫刻は
 極端に痩せているのですか」
と聞いた人がいて、

彼はこう答えたそうです。

「人体の空虚さを表すとこうなるんだ」

劇中でも彼は、
自分の眼に映るものが、
そのまま表現できないことに
憤りを見せていました。

つまり、彼は目に映る実像に
作品を近づけるべく、
無駄を削ぎ落していった結果、

あのような作品群を
作ることになったわけですね。

二日で完成するはずだった肖像画

物語の舞台は、
1964年のパリです。

アメリカの美術評論家、
ロード(アーミー・ハマー)は、

旧友であり偉大な芸術家である
ジャコメッティ
(ジェフリー・ラッシュ)に
肖像画のモデルを頼まれます。

(※ジャコメッティは彫刻だけではなく、
  絵画や版画も手掛けた)

ロードはアメリカに帰国する
予定でしたが、
それをキャンセルして、
依頼に応えることにしました。

ジャコメッティがロードに
約束したのは、二日間、

「二日あれば、肖像画が完成する」
というのが彼の見立てです。

ロードは約束通り、
ジャコメッティが住むアパートを
訪れました。

ジャコメッティ6

そこには、ジャコメッティの
妻と弟も一緒に住んでおり、
時折、娼婦の愛人もやってきます。

ボロアパートでの不思議な
暮らしぶりも見ながら、

ロードはモデルとして、
キャンバスの前に座り続けました。

ところが、ジャコメッティの
筆は遅々として進みません。

一筆振るごとに、
「クソッ!」と悪態をつき、
作業がたびたび中断されます。

ジャコメッティ8

そして、間もなく、
「今日はやめにしよう」
「お酒でも飲みに行こう」

ジャコメッティは、
アパートから出ていこうとします。

ところが、
なんの拍子にか、再び部屋の中に
戻って作業を再開する時もあります。

ある時は、自分の絵筆のタッチに
最高の気分を味わいながら、
有頂天で描き出し、

かと思えば、最悪の気分で、
筆を置いてしまいます。

そんな秋の空のような
芸術家の気分に合わせて、
モデルのロードも
右往左往させられるんですね。

結局、約束の二日間は、
いつの間にか、
1週間、1か月と伸びていき、

遂には、ロードが帰国する目途が
まったく立てられなくなって
しまいました。

役者の名演、冷たい質感の映像

ここまでの解説を読んで、
いかにジャコメッティが
気性の激しい人物であるかは、
おわかりになったでしょうか。

しかし、不思議なのは、
劇中のジャコメッティを思い出す時、
とりわけ彼の穏やかな印象が
強く思い出されるところです。

まさしく、芸術家というのは、
そんなイメージですね。

内面に激しいものを抱えつつも、
その立ち振る舞いは、
どこか整然とした印象を
強く感じさせます。

そう思わせてくれるのは、
ジャコメッティを演じた
ジェフリー・ラッシュの名演に
よるところが大きいでしょう。

ジャコメッティ3

彼は、本作ではじめて観た
俳優でしたが、

ジャコメッティが
創作活動をする時の
せわしない感じや

顔に現れる苦悩や葛藤の演技が
抜群に上手かったです。

それに対する
モデルのロードを演じた
アーミー・ハマーの落ち着いた演技も

対比が効いていて、
ドラマがより一層、
魅力的に感じられました。

ジャコメッティ5

本作はパリの美しい街並みや
室内の映像の雰囲気も素晴らしいです。

特に、私が好きなのは、
やはり、ジャコメッティが
ロードをモデルに
絵を描くシーンですね。

ジャコメッティ4

ロードの顔や身体を
撫でまわすようにカメラが
捉えていくのですが、

この映像の質感が、
とても冷たい印象で、

ジャコメッティも
こんな眼差しで対象物に
接していたのだろうかと思うと、
なんだかゾクゾクしました。

芸術家の視点を疑似体験できる、
そんな素晴らしい作品に
なっています。

果たして、ロードの肖像画は
完成するのでしょうか。

どんな結末が待っているか、
注目してください。


【作品情報】
2017年公開(日本公開2018年)
監督・脚本:スタンリー・トゥッチ
原作:ジェームズ・ロード
   『ジャコメッティの肖像』
出演:ジェフリー・ラッシュ
   アーミー・ハマー
   クレマンス・ポエジー
配給:ヴァーティゴ・リリーシング
   キノフィルムズ
上映時間:90分

【原作】

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※画像は公式サイトからお借りしました。

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