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書籍レビュー『小悪魔アザゼル18の物語』アイザック・アシモフ(1988)「語り」で描かれるブラックジョーク


「小悪魔アザゼル」が生まれた経緯

作者のアイザック・
アシモフについては、
以前、この記事に詳しく書きました。

SF 界の「ビッグ3」と称される
作家の一人でした。

そんな大作家ですが、
私自身はアシモフの作品を
はじめて読みました。

しかも、著者自身の
前書きによると、
本作は著者の作品の中では、
異質な作品のようです。

本作の執筆に至った経緯は、
'80年にとある雑誌から
ミステリー小説の連載依頼を
受けたのがはじまりでした。

(アシモフはミステリーも手掛けた)

その雑誌は月刊雑誌で、
毎月、短編のミステリーを
連載することになったそうです。

その中で、登場したのが
本作の元となる
身長2センチの小悪魔が
登場する物語でした。

アシモフはこの設定が
気に入ったのか、
その続編も書いたのですが、

出版社からは
「ファンタジー要素を抜いてほしい」
という注文があり、
ボツになったとのことです。

その後、この小悪魔の物語は、
別の雑誌に発表の場を移し、
'88年にはそれらをまとめた
単行本が刊行されました。

気軽に読めるアシモフ作品

先ほども書いたように、
私自身はアシモフの他の作品を
読んだことがないので、
正確なところはわかりませんが、

なんとなく、この作品は、
アシモフの本流の
作品ではないのだろう
という感じがしました。

本書の前書きで本人も
おっしゃっているのですが、
文章は軽めの文体で、

これでもかというくらいに
ジョークが散りばめられています。

アシモフが書いた
作品歴を見ても、
本来はもっと硬い文章を
書く人だと思うのです。

しかし、逆に言うと、
誰にとっても読みやすく
親しみやすい文体ではあります。

そういう意味では、
アシモフの入門編としては、
最適な作品なのかもしれません。

「語り」で描かれる
ブラックジョーク

本書にはタイトルの通り、
18篇の短編が収められています。

どの作品も
10~20ページ程度の長さで、

この軽いボリューム感も
読みやすさに一役買っていますね。

体裁としては、
同じ人物が登場する
連作短編ではありますが、

それぞれの物語としての
繋がりは希薄です。

どの作品から読んでも
支障がないような
作りになっています。

おもな登場人物は、
ジョージとわたしです。

本作における「わたし」は、
著者のアイザック・アシモフのことで、
ジョージとは友人関係にあるようです。

物語の大半は、
ジョージの語りによって
構成されており、

毎回のように、途中から
「(以下、ジョージの話)」
という決まり文句が入るような
形になっています。

そこからは完全に
ジョージのひとり語りの
スタイルになっており、

その軽妙な語り口が、
さらに読みやすさを
引き立てていますね。

多くのエピソードで、
わたし(アシモフ)が
ジョージと会食し、

わたしはほぼ一方的に
ジョージの話を聴いている
というシチュエーションです。

ジョージのわたしに対する
態度がとても横柄で、

自らが生み出したキャラクターに
自分を罵倒させる様子を
作者自身が嬉々として、
描いている感じがします。

ジョージの話には、
必ず小悪魔アザゼルの話が
出てくるんですね。

冒頭にも述べたように、
身長2センチの小さな悪魔です。

この小悪魔は、
ジョージの話によれば、
あちら(悪魔)の世界では、
大した存在ではないんですね。

しかし、人間界に来ると、
その能力を発揮して、
人間の願いを叶えてくれます。

ジョージはアザゼルに対して、
下手に出て、おだてにおだて、
何かにつけて自分の願いを
叶えさせるのですが、

最後には失敗に終わる
というのが、
お決まりのパターンです。

構図としては
『ドラえもん』に似ていますね。

しかし、本作は大人向けの
コメディーなので、
ブラックなジョークも
多く含まれています。

(ジョージは
 女性にモテる紳士で、
 軽い下ネタも多め)

一見すると、軽いタッチの
コメディー作品ですが、

本作のミソは、
実際には小悪魔アザゼルが
わたしの前に登場することはない
という部分です。

どのエピソードも、
ジョージが過去にあった
話をしているだけなので、

実際に小悪魔を見た人は、
ジョージしか登場しません。

彼の話が、
本当なのかウソなのかは
誰にもわからないんですね。

描き方としては、
ここが本作の
一番おもしろいところでしょう。

そして、毎回、
ジョージはわたしに食事代を
「おごらせる」という
オチまで付いています。

たとえホラ話でも、
こんなにおもしろい話を
してくれる人なら、

おごってもいいかな
と思う人もいるかもしれません。

とはいえ、ジョージは、
かなり高慢な人物なので、
私なら遠巻きに
見ていたいですね(^^;


【書籍情報】
発行年:1988年
    (日本語版1996年)
著者:アイザック・アシモフ
訳者:小梨直
出版社:新潮社

【著者について】
1920~1992。
ロシア生まれ。
3歳の頃にアメリカ、
ニューヨークへ移住。
1939年、『真空漂流』で
作家デビュー。

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