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映画レビュー『ハケンアニメ!』(2022)アニメ界の覇権を取る!

アニメ界の「覇権」を取る!

2022年に日本のアニメ市場は
世界市場で過去最高の
2兆7400億円に達しました。

今や日本のアニメは
海外でも通用するコンテンツに
成長しているんですね。

一方で、日本のアニメ業界は、
製作費の高騰、人材不足に
悩まされている業界でもあります。

安定した受注があっても、
やはり、それぞれの業界には
その業界なりの問題点が
あるものなんですね。

本作はそんなアニメ業界を
舞台にした作品です。
(原作は辻村深月の同名小説)

(※以下は劇中の設定)

王子千晴(中村倫也)は、
『光のヨスガ』という
アニメをヒットさせた
監督でした。

その王子監督に憧れ、
「王子監督を超える作品を作る!」
と息巻いてアニメ業界に入ったのが

主人公の斎藤瞳(吉岡里穂)です。

瞳はもともと、
役所勤めの公務員でしたが、

ある時、王子監督の
『光のヨスガ』を観て、
アニメ業界への転身を
決意しました。

そんな瞳がはじめて監督を
務めることになったのが、
連続テレビアニメ
『サウンドバック 奏の石』です。

このアニメには、
夕方の17時からの放送枠が
与えられましたが、

なんと、その裏番組として、
憧れの王子監督、待望の復帰作
『運命戦線リデルライト』も
同時期にはじまることになりました。

果たして、どちらの作品が
視聴率をとるのか、
天才と新人の対決が
世間の注目を集めます。

ちなみに、タイトルが「ハケン」と
カタカナになっているので
「派遣」と誤解されることが
多いですが、

ここでの「ハケン」は「覇権」です。

つまり、どちらのアニメが
アニメ界の覇権を取るのか、
その勝負のゆくえを描いた
作品となっています。

アニメはどのように作られるか

特定の業界の裏側を
描いた作品のことを
「内幕もの」と言います。

こういったタイプの作品は、
実際の業界のリアルさが
感じられる場合、

多くの人にとって、
興味深い内容になることが
多いでしょう。

ましてや、本作で描かれているのは、
多くの人が関心を持ちそうな
「アニメ業界」の話です。

そういった内幕ものとして、
本作の出来栄えは、
素晴らしいものでした。

アニメという作品が
どのようにして生まれ、
どのように届けられるのか、

細部にわたって、
わかりやすく表現されているので、
何も知らない人が観ても、
すんなり理解できるはずです。

なんといっても、
アニメ業界において、
主役の存在は「画」ですよね。

その画がどのように描かれて、
どのような過程を経て、
動くようになるのか、

くどすぎず、あっさりと
わかりやすく解説しているのが、
本作のすごいところです。

しかも、言葉や文字ではなく、
映像主体で伝えてくれます。

こんなにわかりやすいことは
ないでしょう。

そして、劇中に登場する
アニメの完成度が高いのも、
注目すべきポイントです。

主人公の瞳が手掛ける
『サウンドバック』
王子監督の『リデルライト』

いずれも、実際にアニメとして
観たくなるほど、
魅力のある映像になっていました。

それらのアニメが
実写の現実世界とうまく融合し、
違和感のない世界が作られています。

「エゴ」と「協調」のバランス

アニメ業界に夢を抱いて
転職した瞳でしたが、
初監督作品で待っていたのは、

そんな夢がかすむほど、
現実的な問題ばかりでした。

アニメ作りのみに集中し、
作品の完成度を少しでも
上げたいのに、

監督ともなれば、
作中のことだけではなく、
その外の世界にも
目を配らなければなりません。

作品を宣伝するための
取材や広告、
他企業とのタイアップ、
会社と制作現場の折衝、

などなど、
作品作り以外の仕事量も
膨大なんですね。

そして、裏番組として、
世間の注目を集める
王子監督の復帰作が
待ち構えています。

新人監督として、
瞳が受けるプレッシャーは
相当なものです。

そういう状況の中で、
瞳の視界も狭くなっていきます。

作品が思うようにならない、
その怒りを他人に
ぶつけてしまうこともありました。

このようなクリエイターの
ジレンマがしっかりと
伝わってくる作品で、

観る人によっては
共感できる部分もあれば、
「独りよがり」と感じる部分も
あるかもしれません。

しかし、アニメに限らず、
ものづくりとは
こういうことだと思うんです。

誰にでもエゴはあります。

エゴがあるからこそ、
その人らしい個性的な作品が
作れるのです。

自分の「エゴ」と
他人との「協調」、

この二つのバランスを
どのようにとっていくのか、

そのプロセスが
リアルに感じられるのが
本作のおもしろいところでした。


【作品情報】
2022年公開
監督:吉野耕平
脚本:政地洋祐
原作:辻村深月
出演:吉岡里帆
   中村倫也
   柄本佑
配給:東映
上映時間:128分

【原作】

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※トップ画像は公式サイトより
 お借りしました。

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