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書籍レビュー『ユニクロ潜入一年』横田増生(2017)天下のユニクロで働いてみた


止まらぬユニクロの快進撃、
その影には……

ユニクロの快進撃が止まりません。

3年連続で過去最高益を更新し、
2024年は初の3兆円を超える
売り上げを見込んでいる
とのことです。

こういった輝かしい
業績を上げる一方で、
ユニクロには「労働問題」に関する
問題点も指摘されています。

本書は、こういった問題点と
向き合うために、
ユニクロの実態を探るべく、

著者自身がいくつかの店舗で
アルバイトとして働き、
その内容をまとめた
ルポルタージュとなっています。

是非はどうあれ、
こういう噂、気になりませんか?

著者はこれよりも前に書いた
『ユニクロ帝国の光と影』
という著書がもとで、
ユニクロから訴えられていました。

しかし、ユニクロ側の言い分に
法的な正当性は認められず、
棄却されています。

このことがきっかけで、
著者はユニクロへの取材を
一切受けてもらえず、

決算報告会にすら、
出入り禁止と
なってしまいました。

その頃に、
ユニクロのトップである
柳井正氏がとあるインタビューで
こう語ったそうです。

「我々は『ブラック企業』ではない
 と思っています。」
「会社見学をしてもらって、
 あるいは社員やアルバイトとして
 うちの会社で働いてもらって、
 どういう企業なのかを
 ぜひ体験してもらいたいですね」

『プレジデント』2015年3月2日号

これを挑戦状として
受け取った著者は、
法的な問題を勘案したうえで、
名字を変え、

(妻と離婚、再入籍し、
 妻の旧姓になった)

都内のいくつかの店舗で、
アルバイトとして
働いたのです。

こういった潜入取材を
もとにしたルポは、

海外ではよくあるスタイルだそうで、
本書の中でもいくつか例が
挙げられていました。

このことに対する
「是非」はどうあれ、

そういう噂がある企業の
実態はどうなのか、
気にならないでしょうか。

私はそのことが
とても気になって、
本書を手に取りました。

そこに綴られていたのは、
想像を絶する過酷な環境でした。

柳井さんも働いてみればいい

正直なところ、読んでいて、
とても心が重くなる本です。

ナチスドイツのアウシュビッツから
奇跡の帰還を果たした方が
書いた本を読んだことがあるんですが、

その時と同じような、
読んでいて
心が苦しくなる感じがありました。

非常に読みやすく、
興味深い内容ではあるんですが、
思いのほか、
スラスラとは読めませんでした。

国内の労働環境もひどいですが、
それよりもさらに深刻なのは、
アジアの国々にある工場の
労働環境ですね。

(海外では自殺者も出ている)

こちらは、著者の潜入取材ではなく、
現地のシンクタンクを
介しての取材ですが、

実際、海外でもユニクロは
労働環境を改善するように、
訴えられているのにもかかわらず、
改善する姿勢がないようです。

同じアパレルでも、
訴えられたところは多いようで、
ユニクロ以外の企業は、
改善する姿勢がまだあるようですが、

ユニクロの場合は、
「ほとぼりがさめれば…」
という感じがあるように
思いました。

国内でもこういった問題が
あまりクローズアップされないのは、

ユニクロが大手マスコミの
スポンサーになっているのが
原因のようです。

また、従業員は、
アルバイトであっても、

入社時に「守秘義務」付きの
誓約書に署名させられるのも、
ネックになっています。

その「守秘義務」がどこまでの
範囲までのものなのかが曖昧で、
退職後も内部事情を
外部の人に話しにくいのです。

そして、ユニクロは、
法的にも正当性のある
見解を述べただけの著者を

「ユニクロ批判をした」
と訴えるような企業です。
(こういうのを
 スラップ訴訟(※)という)

(※スラップ訴訟:Slapp
 =strategic lawsuit against public participation
  批判や反対運動を封じ込めるために、
  企業や団体が起こす訴訟。
  「恫喝訴訟」「いやがらせ訴訟」
  とも言われる)

そういった意味でも、
著者がこうして潜入取材をして
本を書いたことは
とても大きな意義があります。

企業はいくら業績が良くても、
従業員を「モノ」のような扱いで
事業を続けていれば、
いずれしっぺ返しがくるはずです。

と言いつつも、
私もユニクロの製品は
日常的に使っているわけで、

あまり大きなことを
言えたクチではないんですが、

なんだか、この本を読んでから、
ユニクロの製品を手にするたびに、

「過酷な労働のもとに
 成り立っているのか……」
と、悲しい気持ちになります。

果たして、これが企業の
正しい在り方でしょうか。

そのご判断は、
それぞれの読者に委ねます。


【書籍情報】
発行年:2017年(文庫版 2020年)
著者:横田増生
出版社:文藝春秋

【著者について】
1965年、福岡県生まれ。
ジャーナリスト。

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