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映画レビュー『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991)何気ない日常に惹きつけられる

ジム・ジャームッシュ監督との出会い

ジム・ジャームッシュ監督の
作品を観るのは、20年振りです。

私が二十歳くらいの頃に唯一観た、

ジム・ジャームッシュ監督の映画が
『コーヒー&シガレッツ』(’03)
という作品でした。

それぞれの登場人物が
コーヒーを飲みながら、
タバコを吸っていて、
とりとめのない会話している、

そんな映画でした。

いくつかの短いパートに分かれている
オムニバス映画のような作品で、
全編モノクロです。

脚本があるのかないのかもわからず、
ドキュメンタリー映画にも
近い感じがしました。
(出演者の役名がすべて実名)

派手なストーリー展開が
あるわけでもありませんし、
ものすごくおもしろかった
わけでもありません。

ただ、他の映画にはない
独特な感じがあって、
記憶に残る作品ではありました。

当時は、この監督の名前も
知らずに観ていたのですが、

そこから十数年経って、
30代の頃に映画や音楽が好きな
編集者の方と知り合いました。

その方と映画の話をしている時に、
ジム・ジャームッシュ監督のことを
教えてもらったんですよね。

映像が良くて、音楽もいい、
そんな印象を聞いて、

気になったので、調べてみると
『コーヒー&シガレッツ』の監督
だったというわけです。

魅力的な映像の数々

今回観た本作も
前述した『コーヒー&シガレッツ』に
似ているところがあります。

それは複数の異なる場所と
登場人物たちによって、
とりとめのない会話が展開される

オムニバス形式であるところです。

『コーヒー&シガレッツ』と
本作が違うのは、
それぞれの舞台がタクシーなので、
画面が展開するところでしょうか。

20年前の記憶なので、
定かではありませんが、

『コーヒー&シガレッツ』は、
一つの室内から
移動する場面がない映画だったので、

割とカメラは固定に
近かった気がするんですよね。

それに比べると、本作は、
外が舞台なので、

登場人物が話している間にも
車が動いて、画面は動きますし、
外の情景も差し込まれます。

そういう点で、
本来のジム・ジャームッシュ監督の
編集が楽しめる作品なんでしょうね。

とにかく、映像がおもしろいんです。

車内にいる人物のやりとりを
観ているだけでワクワクさせられます。

何気ない日常に惹きつけられる

劇中には、全部で5つの
異なる場面が登場します。

オープニングでは、
宇宙に浮かぶ地球が映し出され
(CG)

カメラの視点が徐々に
地球に寄っていきます。

そして、画面が宇宙から
地球儀に変わり、
さらに、5つの壁かけ時計に
切り替わります。

時計の上には、
「ロサンゼルス」「ニューヨーク」
「パリ」「ローマ」「ヘルシンキ」

と、都市名が書かれており、
それぞれの時計が現地の
時間を指しているのがわかるでしょう。

その後、画面は世界地図に切り替わり
地図上を這うように
カメラの視点が動きます。

地図上にさきほどの都市名が
出てくると、今度は画面が
その舞台へと切り替わるんですね。

この演出方法が、
物語の切り替え部分に必ず登場し、
スムーズに場面を転換してくれます。

何げない演出に
見えるかもしれませんが、
こういう部分に粋な感じが
表れていますね。

なんだったら、この部分は
文字だけ表示すれば
いいのかもしれません。

でも、楽な方にいかないところが
いいんですよね。

こういった一工夫で
「観たい」という気持ちになりますし、
何より世界の広さが感じられます。

そして、それぞれの本編で
展開されるのは、
いずれも夜のタクシーでの出来事です。

車中で忙しく電話をする女性客と
車の整備工になる夢を持つ
若い女性ドライバー。
(ロサンゼルス編)

タクシーがなかなか捕まらず、
やっと捕まえたタクシーが、
ドイツからきたばかりの
移民で道が全然わからない。
(ニューヨーク編)

コートジボワールから来た
移民のタクシードライバーと
盲目の女性客。
(パリ編)

客の神父と猥談好きなドライバー。
(ローマ編)

酔っぱらった三人の労働者と
どこか物憂げなドライバー。
(ヘルシンキ編)

それぞれのドラマはあるにしても、
特別な出来事ではありません。

どこにでもありそうな
日常を描いた作品なんです。

でも、その何げない日常に
妙に惹きつけられます。

映像の魅力、役者の演技、
そして、その背景を彩る音楽、
それ以外の無駄なものは
一切ありません。

これはまさに、
大人のための映画ですね。


【作品情報】
1991年制作(日本公開1992年)
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:ウィノナ・ライダー
   ジーナ・ローランズ
   アーミン・ミューラー=スタール
配給:フランス映画社
上映時間:129分

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