見出し画像

書籍レビュー『漢方水先案内』津田篤太郎(2015)じっくり向き合う東洋医学



知る人ぞ知る
「シリーズ ケアをひらく」

「シリーズ ケアをひらく」の
一冊です。

同シリーズは、
医学専門出版社である
医学書院が

一般の人にも読める
読みものとして、
さまざまな「ケア」のことを
取り上げた書籍です。

2019年にはシリーズ全体として、
毎日出版文化賞を
受賞していますし、

シリーズの中でも、
大宅壮一ノンフィクション賞、
新潮ドキュメント賞、小林秀雄賞、
大佛次郎論壇賞など、

名だたる賞を
受賞した本がいくつも
あります。

そのシリーズの一つとして、
刊行されたのが本書です。

以前、私のレビューでも
取り上げた

『病名がつかない
「からだの不調」と
 どう付き合うか』

と同じ著者が書いた本に
なっています。

西洋医学と東洋医学

著者は10代の頃に、
「免疫」に興味を持ち、

医師になってからは、
おもに「膠原病」という
免疫疾患の病気を診る
医師になりました。

膠原病(こうげんびょう)
免疫システムに異常が起きて、
自分自身の身体を攻撃してしまう。
具体的な症状としては、
関節リウマチや臓器に炎症が起こる
などの障害がある。

西洋医学の世界では、
免疫疾患の病気に対して、
免疫を抑える薬を
処方して対処します。

しかし、それでは、
免疫力が落ちてしまい、
他の病気にかかる可能性が
高くなるのです。

著者はもともと
東洋医学に興味を持ち、
学生時代から
漢方の世界も学びました。

しかし、東洋医学の教えを受けた
大学の師には、
「西洋医学も一通り学びなさい」
とアドバイスを受け、

そちらの世界のことも学んでから、
再び東洋医学の世界に
戻ったそうです。

そんな方が書いた本なので、
とにかくバランス感覚に
優れた本になっています。

「漢方」の入門書でありながら、
それだけですべてが
解決するような話は
していません。

ただ、西洋医学では
解決しがたい問題が

漢方を使うと、
徐々に解決に近づく場合が
あるという話なんですね。

本書では、
なぜ、そうなるのか、
(漢方が役に立つ)

という話について
詳しく、わかりやすく
書かれていました。

じっくり向き合う東洋医学

西洋医学の世界は、
問題のある部分に対して、
直接的に作用して、

その症状を抑える
という解決方法が
とられます。

身近なのは風邪薬ですね。

熱を下げたり、
咳や鼻水を出にくくしたり、
下痢を止めたり、

さまざまな症状に
速く効くので、
重宝されます。

一方で、
よく効く薬ほど、
副作用は強いものです。

これが「眠くなる」
くらいのものならば、
大した問題ではないでしょう。

しかし、前述したような
著者がよく診ている
膠原病のような病気の場合、

免疫を抑えることによって、
別の病気にかかる可能性が
高くなるというリスクがあります。

もっとも恐ろしいのは、
ガンですね。

私たちの身体では、
日々、ガン細胞が生まれています。

正常な身体であれば、
自己免疫がそれを
やっつけてくれるのですが、

薬で免疫を抑えてしまった場合、
うまく働かず、
ガンが身体をむしばんで
しまうわけなんですね。

一方の漢方は、
一つの部分に強く
作用することがありません。

本書の中では、
「系に効く」と書かれています。

「部分」に対して、
強く働きかけるのではなく、

身体全体の「系」の流れを
よくするような働きが
あるのだそうです。

また、漢方は万が一、
摂取し過ぎたとしても、
その効果には上限があるので、

西洋医学で処方される
薬のように、
それで亡くなることは
ないそうです。

副作用が比較的少ない、
というのも漢方の
メリットの一つですね。

ものすごく広範な話が
書かれているので、
とても全体については
書くことができないのですが、

要点をざっくり書くと、
こんな感じになります。

医学に限らず、
西洋の科学的な視点に
(答えは一つ、みたいな)
偏ってしまうと、

別の問題が起こるようですね。

何事においても、
東洋医学のように、
じっくり時間をかけて
問題と向き合いながら、

その「問題」と
気長に付き合っていく姿勢も
大事な気がします。


【書籍情報】
発行年:2015年
著者:津田篤太郎
出版社:医学書院

【著者について】
1976年、京都府生まれ。
医学博士。日本リウマチ学会専門医。
日本東洋医学会漢方専門医。

【関連記事】


この記事が参加している募集

読書感想文

サポートしていただけるなら、いただいた資金は記事を書くために使わせていただきます。