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映画レビュー『ビバリウム』(2019)夢のマイホームのはずが……


夢のマイホームのはずが……

若いカップルが
新居の購入を検討しており、
不動産屋を訪れます。

そこには清潔感のある
淡いグリーンの
住宅模型が整然と並んでいました。

店主によれば、
今もっとも人気のある物件
「ヨンダー」という住宅地で、

今買わなければ、
あっという間に
なくなってしまうそうです。

場所を聞くと
「遠いようで近い場所」
「近いようで遠い場所」
とのことで、

カップルは半ば無理やりに、
店主に連れられて、
住宅を見に行くことになります。

ヨンダーを訪れた二人は
困惑します。

そこには人が歩く気配もなく、
ただひたすらに同じ外観の
建物がびっしり並んでいるのです。

店主に連れられて、
家の中を見せてもらうと、
作りはそれほど悪くはありません。

そうしてゆっくり見ている内に、
いつの間にか、不動産屋の店主が
いなくなっていました。

慌てた二人は、
ここから抜け出そうと、
車を走らせるのですが、

どの道も同じ外観の建物ばかりです。

どこへ進んでも、
同じ場所に戻ってしまいます。

やがて日が暮れて、
二人は諦めて、
その家で休むことしました。

すると、次の日には、
家の前に見慣れぬダンボールが
あったのです。

そこには真空パックされた
食料が詰められています。

さらに気持ち悪くなった二人は、
いろいろな方法で脱出を
試みますが、
どれもうまくいきません。

どうやっても、
同じ家に戻ってしまうのです。

途方に暮れている二人のもとに、
また新しいダンボールが届きます。

その中には赤ん坊が入っており、
「この子を育てれば解放される」
と書いてありました。

二人はこの子どもを
どうするのでしょうか。

果たして二人は本当に
解放されるのでしょうか。

明るい気持ち悪さは、
今のホラーのトレンドか?

鳥の巣の映像からはじまる本作は、
ちょっと変わった風合いの
作品になっています。

アイルランド、デンマーク、
ベルギーによる合作です。

2019年にカンヌ映画祭で
プレミア上映されました。

なんと言っても、
本作の見どころは、

同じ外観の建物が
ひたすら並ぶ
生活感のないヨンダーでしょう。

この辺りの映像を観ていると、
セットで撮影された感じなんですが、
それをうまく活かした
演出になっています。

空にある雲まで、
全部同じ形で、
均等に並んでいるのです。

映像的には明るいものなんですが、
その光景がものすごく
気持ち悪いんですね。

以前紹介した『ミッドサマー』も
本作と同じように
「明るい映像なのに気持ち悪い」
ホラー映画でした。

そういう意味では、
こういった手法は、
今のトレンドなのかもしれません。
(どちらも2019年公開)

そして、このなんとも
薄気味悪い空間にやってくるのが、
見ず知らずの子どもです。

この子どもは普通の人間よりも
成長が速く、劇中では
「犬並みの成長だね」
というセリフもあります。

(犬の1年は、人間の7年に相当する
 と言われている)

この子どもがまた、気持ち悪いんです。

全然、子どもらしくないんですよね。

いや、見た目は子どもなんですが、
感情がないというか、
話す言葉や表情にも人間らしさが
感じられません。

まるで、ヨンダーの建物を
そのまま人間にしたような
人工的なキャラクターです。

このような
匂いも味もしない空間に
閉じ込められた主人公たちは、

次第に追い込まれることに
なっていきます。

その精神的な辛さが
リアルに伝わってきて、
観ているこちらまで、
苦しくなってくるんですよね。

この上ないモヤモヤ感を楽しむ

本作は一応、制作側は
「SF」と謳っているようですが、

科学的な考証は、
ほぼでてきません。

あくまでも、設定に、
「ほのかな SF 感がある」
といった方が適切です。

なので、物語上も
「どうしてこうなったのか?」
というような部分には、
あまり触れられません。

「触れられいない」
というか、掴みようがないんですね。

そういった意味では、
観る人によってはただただ、
モヤモヤしてしまうかもしれません。

でも、これはモヤモヤを
楽しむ作品だと思います。

オチも期待してはいけません。

謎を謎のままで
終わらせるタイプの作品です。

それでも、劇中には、
不可解なものがいろいろ出てくるので、
考証の余地はあります。

なので、いろいろと想像するのが
楽しい作品でもあるのですが、
明確な「正解」はないのです。

ちなみに、公式サイトにも
本作を読み解くための
キーワード集が掲載されており、

そのページを見るには、
パスワードを入れる
必要があるのも、

ネタバレを防ぐうえで
親切な設計だと思いました。

もちろん、
それを読んだとしても、
明確な答えは得られません。

それを踏まえたうえで、
本作を楽しむとすれば、

やはり、難しいことは考えずに
「映像」を楽しむのが
ベストだと思います。

映像的に魅力的な作品なので、
そういう部分をよく観察すると、
とてもおもしろい作品です。

また、本作の妙な薄気味悪さは
「共産主義的なもの」に対する
風刺にも感じられます。


【作品情報】
2019年公開(日本公開2021年)
監督:ロルカン・フィネガン
脚本:ギャレット・シャンリー
原案:ロルカン・フィネガン
   ギャレット・シャンリー
出演:イモージェン・プーツ
   ジェシー・アイゼンバーグ
   ジョナサン・アリス
配給:ヴァーティゴ・リリーシング
   パルコ
上映時間:98分

【劇中で使用された楽曲】

※トップ画像は公式サイトから
 お借りしました。

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