見出し画像

書籍レビュー『さよなら、シリアルキラー』バリー・ライガ(2015)連続殺人鬼の息子に生まれて

シリアルキラーの息子

シリアルキラー(英: serial killer):
一般的に異常な心理的欲求のもと、
1か月以上にわたって
一定の冷却期間をおきながら
複数の殺人を繰り返す
連続殺人犯に対して使われる言葉である。

『weblio』

子どもにとって
「親」という存在は
絶大なものです。

時には、
自分を支えてくれる
バックボーンの一つであり、

時には、
乗り越えなければならない
脅威としても存在します。

本作の主人公の父は、
圧倒的に後者の存在でした。

なぜならば、彼の父は、
21年間で3桁におよぶ
殺人を犯し、

「21世紀最悪の連続殺人鬼」
と呼ばれる男だったからです。

主人公の頭の中には、
父が殺人をレクチャーした時の
記憶が残っています。

父の声は、
今そこにいるかのように、
脳裏に響くのです。

主人公は、この声に
悩まされ続けました。

自分も父と同じ殺人鬼に
なるのではないか、
という不安と恐怖が
常につきまとっています。

母を殺したのは自分かもしれない
という恐怖

主人公の「ジャズ」こと
ジャスパー・デントは、
アメリカの田舎町に暮らす
高校生です。

奇しくも
「21世紀最悪の連続殺人鬼」の
母となってしまった
祖母と二人暮らしでした。

祖母は、高齢のため、
認知症になっており、
常に錯乱状態です。

脳に異常はあっても、
身体は元気で、
時にはショットガンを振り回す、
手を付けられない祖母でした。

それでも、祖母は、
ジャズにとって、
唯一の家族です。

祖母の病状が進んでいることが
バレると祖母は施設送りに
なってしまい、

ジャズと離れ離れに
なってしまうので、
周りにバレないように、
懸命に介護をしています。

母は、ジャズが幼い頃に
亡くなってしまいました。

母もまた、父の連続殺人の
被害者の一人なのです。

そして、ジャズには、
忌々しい記憶があります。

父にレクチャーされて、
人肉と思われる肉を
ナイフで切り刻んだ記憶です。

かなり古い記憶なので、
その記憶はおぼろげですが、

父に言われた
「鶏肉を斬るのと一緒だ」
という言葉は鮮明に
残っています。

ジャズは、
この記憶があることによって、

「もしかしたら
 母を殺したのは
 自分かもしれない」

という恐ろしい疑念が
常につきまとっています。

父の犯行をなぞる、ものまね師

連続殺人鬼の息子
ではあるものの、
ジャズは、普通の高校生として
学校に通っています。

親友と恋人もいて、
彼らもジャズの過去を
知っていますが、
よき理解者です。

親友も恋人もジャズが
父と同じ殺人鬼にはならない
と信じています。

「父が連続殺人鬼である」
「認知症の祖母と二人暮らし」
という二点を除けば、

いたって普通の高校生として
暮らしていたジャズですが、

そんな彼を「殺人」
という生臭い事件に
引き込む騒動が勃発します。

地元の空き地で、
女性の遺体が発見されたのです。

女性の指は
切り取られていました。

ジャズは直感的に、
これは連続殺人に違いない
と考えます。

この殺人の背景に、
父と同じような人間が
関わっていると、
感じたのです。

父の逮捕に関わって以来、
ジャズを見守ってきた
保安官にも、
そう訴えましたが、

まともに取り合っては
もらえませんでした。

そこで、ジャズは、
独自の捜査をはじめます。

その中で、この殺人犯が、

ジャズの父の連続殺人を
模倣して殺人を
行なっていることが
わかっていくのでした。

果たして、この模倣犯が、
父のマネをしているのには
どういった意図が
あるのでしょうか。

そして、ジャズは
父と同じような
道を辿ってしまうのでしょうか。

その真相は、
この物語を最後まで読むと
わかるでしょう。

陰惨な殺人をテーマにした
作品ではありますが、

ジャズと親友、恋人との
深い関係が描かれている
青春小説でもあります。

テーマに反して、
爽やかな読み応えの作品でした。


【書籍情報】
発行年:2015年
著者:バリー・ライガ
訳者:満園真木
出版社:東京創元社

【著者について】
’71年、アメリカ生まれ。
’06年、『The Astonishing Adventures 
of Fanboy and Goth Girl』でデビュー。

【シリーズ作品】

※トップ画像は Amazon より
 お借りしました。

この記事が参加している募集

読書感想文

海外文学のススメ

サポートしていただけるなら、いただいた資金は記事を書くために使わせていただきます。