見出し画像

映画レビュー『レ・ミゼラブル』(2012)パリ、激動の18年

※2500字以上の記事です。
 お時間のある時に
 お付き合いいただけると嬉しいです。

『レ・ミゼラブル』とは

「映画」と一口に言っても、
そこには、さまざまなタイプの
作品が含まれます。

上映時間の長さは、
どれもおおむね2時間から
2時間半といったところですが、

中身の濃い大作だと、
時間的には同じ長さでも

体感としては、
長大に感じられる作品も
多くありますね。

本作もそんな作品の一つです。

こういう贅沢な作品は、
心にゆとりのある時にしか、
観ることができません。

そういった意味でも、
今のような年始の休みに
楽しむにはピッタリな作品
といえるでしょう。

『レ・ミゼラブル』といえば、
古典の小説をよく読まれる方、

あるいは、
舞台がお好きな方には
おなじみの作品ですね。

原作の小説は、
1862年にフランスの
ヴィクトル・ユーゴーが
執筆しました。

ユーゴーは、
詩人、小説家であるとともに、
政治家でもあった方です。

1959~1965年には、
彼の肖像画が、
フランスの紙幣になるほどの
偉人でした。

小説の『レ・ミゼラブル』は、
出版されてすぐに大ヒットし、

それを原作とした
ミュージカルが上映されるに
至りました。

ミュージカル版
『レ・ミゼラブル』は
1980年にパリで上演され、
これも好評を博します。

1985年にはロンドンでも
上演されました。

ロンドンで上演された
『レ・ミゼラブル』は、
パリ版のものを改定したもので、

現在でも上演されている舞台は、
ロンドン版の方を
ベースにしているようです。

そして、舞台のみならず、
『レ・ミゼラブル』は、
ドラマや映画で、
何度もリメイクされ続けています。

つまり、同じ作品が
40年以上にわたって、
無数の演者が演じ、
観客を魅了し続けているわけです。

このレビューを通して、
そのゆえんを
少しでも解き明かすことが
できればと思います。

パリ、激動の18年

本作の原作である
『レ・ミゼラブル』は、
大河小説です。

「大河小説」というのは、
個人の生涯や組織の歴史を
社会的な背景も含めて描いた

壮大なドラマのことを
指します。

本作では、主人公、
ジャン・バルジャンの人生、
(ヒュー・ジャックマン)

最後の18年が、描かれています。

18年というと、
「大河」の割には、
短く感じられるかもしれませんね。

しかし、この18年の間に、
舞台となるフランスでは、
激動の時代が流れていました。

1815年 ワーテルローの戦い
    (ナポレオンが敗北)
    ブルボン朝復古
1830年 フランス7月革命
    (オルレアン朝成立)
1832年 6月暴動
    (パリ市民による
     王政打倒を目的とした反乱)

大袈裟ではなく、
この18年が

100年に感じられるほど、
濃密な時間の流れを
感じさせるでしょう。

物語は、主人公のジャンが
19年の監獄生活を終え、
仮出獄をするところから
はじまります。

この時、すでにジャンは、
46歳になっていました。

なぜ、ジャンは
19年もの長きにわたって、
監獄に入れられなければ
ならなかったのでしょうか。

それは、ジャンが
1本のパンを盗んだことが
きっかけでした。

それも姉の娘を
飢え死にさせまいと
とった行動だったのです。

このエピソードだけでも、
当時のフランス国民が
置かれていた状況が
よくわかるでしょう。

多くの市民が
極貧状態で暮らしていたのです。

一方で、国は他国と
戦争ばかりしていました。
(今でもそんな状況が
 世界のあちこちに見られる)

それにしても、
ジャンが盗んだのは
たった一つのパン、

しかも姪を生きさせるために
止むを得ず、
とった行動です。

それに対して、
19年の懲役とは、
なんともむごい仕打ちですね。

仮出獄をしたジャンは、
職を求めて、
方々を訪ねますが、

どこへ行っても、
ひどい仕打ちを受けてばかりで、
職に就くどころか、

食べ物にすら
ありつけずにいました。

なんせ、ジャンは
仮出獄の身です。

どこへ行っても、
身分証明書を見せると、
それが知れてしまい、
迫害を受けました。

セリフが全部、歌になる

疲れ果て、
半分死にかけた

満身創痍のジャンに
手を差し伸べてくれた
人がいました。

その人物とは、司教でした。

司教は、ジャンの身分を知りながら、
温かく迎え入れてくれます。

温かい食べ物と
寝る場所を
提供してくれたのです。

しかし、ジャンは、
この19年の間に、
人間の嫌なところばかり
見て生きてきたため、

完全に人間不信に
陥っていました。

あろうことか、
ジャンは、司教が大切にしていた
銀の食器を盗んでしまうんですね。

それを売って、
少しでもお金にしようと
思ったのです。

しかし、すぐにそれが
バレてしまい、
ジャンは憲兵たちに
取り押さえられてしまいます。

司教の前に
突き出されたジャンを見て、
司教はこのようなことを言いました。

「その食器は私が
 あげたんですよ」

さらに、司教は
「これも忘れている」
と言って、

ジャンに銀の燭台を
渡しました。

こうして、ジャンは
司教の温情に触れ、
心を取り戻し、
教会を後にしました。

それにしても、
このままでは、
とても生きていけません。

とうとう、ジャンは、
仮出獄の許可証を
破り捨て、
身分を偽ることになります。

ここから劇中では、
4年が経過したところに
移っていくのですが、

やっぱり、濃いですね(^^;

映画の中では、
冒頭の10~15分くらいの
長さだったと思いますが、

文章にすると、
ものすごく長くなります。

特筆すべき点として、

本作では、セリフのやりとりの
ほとんどが「歌」になっている
という大きな特徴があります。

舞台でも、映画でも、
「ミュージカル」=「歌」
といっても、

本作のように、
ほぼすべてのセリフが
歌になっている作品は、
かなり珍しいでしょうね。

こんな作品を観るのは、
はじめてでしたが、
なかなか集中力がいります。

でも、これはこれで、
新しい表現手法ですし、
非常におもしろいと思いました。

もちろん、音楽は抜群に
素晴らしいですし、
歌も上手い方ばかりです。

こんなに贅沢な作品は
そうそうあるものではありません。

ぜひ、お時間のある時に、
存分に味わってみてください。

とにかく、物語的にも
映像的にも
壮大さが規格外です。


【作品情報】
2012年公開
監督:トム・フーパ―
脚本:ウィリアム・ニコルソン
   アラン・ブーブリル
   クロード=ミシェル・シェーンベルク
   ハーバート・クレッツマー
原作:ヴィクトル・ユーゴー(小説)
   アラン・ブーブリル
   クロード=ミシェル・シェーンベルク
   (ミュージカル)
出演:ヒュー・ジャックマン
   ラッセル・クロウ
   アン・ハサウェイ
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ
   東宝東和
上映時間:158分

【原作】

【同じ監督の作品】


この記事が参加している募集

#映画感想文

67,333件

サポートしていただけるなら、いただいた資金は記事を書くために使わせていただきます。