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『進撃の巨人』は現実世界の映し鏡

『進撃の巨人』について
書いてきました。

私の「レビュー」では、基本的に
「読んだことがない人」向けに、
極力ネタバレせずに、
書くことにしています。

しかし、この作品の
「奥深さ」を語るうえでは、
ネタバレは避けられないので、

別の記事に、
改めて書くことにしました。

前回の記事では、
「『進撃の巨人』は、
 文学作品のタイプに近い」
と書きました。

マンガに限らず、
小説でも映画でも、

ストーリーの「おもしろさ」を
優先するのが、
一般的な娯楽作品のパターンです。

ですから、なるべく受け手に
負荷をかけずに、
「おもしろさ」を伝えるような
手法がとられます。

簡単に言うと、

主人公が「正義」で、
それに敵対する勢力が
「悪」として描かれ、

勧善懲悪なストーリーが
わかりやすい順序で
展開されます。

『進撃の巨人』も、
前半だけを切り取ると、
そんな感じがあります。

町に巨人が現われて、
主人公の母親が食べられ、

主人公が復讐のために
立ち上がる
といったストーリーです。

しかし、話が進んでいくと、
少し趣きが変わっていきます。


ーここから先はネタバレがありますー

※まだ作品を読んでおらず、
 ネタバレなしで
 作品を楽しみたい方は、
 この先を読まないでください。

実は主人公にも
巨人になる能力があり、

この世界には
「巨人になる能力を
 有する人間」がいることが
わかります。

さらに、話が進んでいくと、
主人公が属する調査兵団の中に、
裏切り者がいて、

彼らも巨人になることが
できるのがわかっていきます。

そして、彼らは、
主人公の町を襲った
巨人でもあったという話です。

彼らは壁の外から
やってきたらしいことが
わかります。

こうなってくると、
序盤とは少し話が
変わってくるんですね。

序盤では
「人間=善」「巨人=悪」
という単純な図式でしたが、

「巨人=人間(?)」
となると、
単純に「巨人=悪」
と言えなくなってしまいます。

しかし、それでも、
主人公目線で物語を
追っている間は、

兵団の中にいた
数名の裏切り者が
絶対的な「悪」です。

なにせ、彼らが城壁を
壊したことによって、
町に巨人たちが入り込み、

主人公の母親も
死んでしまったのですから。

ここまでのストーリーも
割とわかりやすいかもしれません。

そこから先に進むと、
今度は裏切り者たちの話が
徐々に明かされていきます。

前述したレビューでも

「『進撃の巨人』のストーリーは
 時間軸が行ったり来たりするので、
 わかりにくいところがある」
と書きました。

おそらく、
ここで挫折してしまった読者は、

作者の技量不足を
疑うかもしれませんが、
決してそんなことはありません。

最後まで読むと、
この物語のおもしろさは、
この順番でしか成り立たないことが
よくわかるはずです。

最初は善悪がはっきりした
ストーリーが展開され、

そこから徐々に
「巨人」にまつわる謎が
解けていきます。

そうすると、前半とは、
まったく趣きが異なる
奥深いストーリーになっていく、
というのが、本作の一番の魅力です。

こういった手の込んだ話は、
伝える順番を間違えると、
おもしろさが半減してしまいます。

そういったことを踏まえたうえで、
作者は敢えて、
このようなわかりにくい順番で、
物語を描いていったのでしょう。

『進撃の巨人』が
「単純な勧善懲悪の物語ではない」
というゆえんは、
さらにこの先の物語の中にあります。

今度は敵側と思われていた
調査兵団の裏切り者たちの
心境や過去が描かれていきます。

ここで読者は、
敵側の目線で別の物語を
追うことになるんですね。

そうすると、彼らも、
たくさんの人を殺したとはいえ、
複雑な生い立ちと
心境であったことがわかります。

調査兵団とは生死をかけて
争うことになりますが、

彼らも心の中では、
「人を殺めてしまった」
「仲間を裏切った」
という罪悪感を感じているのです。

こうなってくると、
「勧善懲悪」とは
違う話になってきます。

しかし、こんなことがわかるのは、
物語の中盤以降に
なってからなんですね。

どちらも自分たちの
「正義」のために
闘っているのです。

これは現実の世界でも
よくある話ですね。

もっともわかりやすいのが
「戦争」でしょう。

今も世界から戦争は
なくなりませんが、

あれはどちらかが「善」で、
どちらかが「悪」でも
ありません。

お互いの「善」が一致せず、
折り合いがつかないからこそ、
戦争になっているんですね。

『進撃の巨人』は
架空の物語ですが、
現実の世界と似たところもあり、

味方・敵の双方の視点で、
戦争を描いたという意味でも
意義深い作品だと思います。

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