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ひと

見知らぬ人との、「密」が好きだった。

カフェの店内で隣の席から聞こえてくる会話、
ライブ会場でのみんなでつくりあげるあの熱気、
賑わうショッピングモールで
知らない家族や恋人たちとすれ違う瞬間。

東京に来てからは特に、
一人暮らしで自分とばかり話していると
とても狭い気持ちになってくるので、
雑多な音を聞きに街に出ていたように思う。

今は、どれも意識的に避けなくてはいけない。

今年は生まれて初めて、
実家にも帰らず、一人でお盆を過ごしている。

親からは地元の食品を詰め合わせた
あたたかいクール便(おかしな日本語ですが)を
届けてくれたので、懐かしい味を楽しんでいる。

せっかくなので、
この際やってみたかったことでもやろうと、
家にこもってプログラミングを勉強していたのだが、
必要なものもあるし、
少しだけ買い物に出かけてみようと外へ出た。

例年より街に出ている人は
多いのか、少ないのか。
お盆をこの街ですごすのは初めてだから、
普段と比べて落ち着いているのかわからないけれど、
思っていたより賑わいがある。

最初に書いたように、
いつもなら、好んで溶け込みたいその空間。

「距離もとっているし、
消毒もこまめにしているし、
大丈夫ではないだろうか。」

そう思いたい一方で、

「どこまで気をつけていても、
危険はすぐそこにあるのだろう」

という、拭いきれない不安がある。

無印良品にコーヒーマシンがあったので、購入した。
1杯100円。店内は広々としている。

近くには本棚を仕切りにするように囲われた、
本を販売しているコーナーがある。

椅子があったので腰掛けてみると、
思いのほか人が通らない。
わたしと、少し離れたところに婦人がひとりいるだけだ。

本棚の外側をひとが歩いてゆく。
ひとを見る、水族館のようだ。
(この考え、自分ではちょっと気持ちわるいと思っている。)

だけど、久しぶりの雑音に、
心地よく耳を傾けたのだった。

コーヒーをのみおわって、
買い物をして、店から出た。

もう一人のお盆はすごしたくないな。


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