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『あの坂を登れば海が見える』~修了(卒業)文集から~

せんだい豊齢学園修了文集『於毛登(おもと)』に掲載された文章をご紹介しています。修了文集は学園生活だけでなく、これまでの人生や震災体験などテーマは自由です。今回の文章は数年前に書かれたものですが、コロナ禍ということもあり、学園の在園生、修了生以外の方にも読んでいただきたい内容です。

せんだい豊齢学園修了生 C.Y さん

あの坂を登れば海が見える。
これは子供のころに読んだ本の文章の一節です。私は山奥の田舎で育ちました。
秋になると空いっぱいに真っ黒になって飛ぶとんぼ、みんな海に向かって飛んでいくんだよっ、と教えてもらいました。
母親は隣の村から馬の背に乗って、山を越えてお嫁に来たそうです。
母が実家に帰る時、弟を背におぶり手を引いて山を越えて、実家に帰るのです。

最初は嬉しくて、たくさんおしゃべりをしながら帰っていくのですが、峠を越え山を登り始めると、あの坂を登れば、おじいさんの家に行ける、この坂を登ればと体の中からささやきが始まります。
そして山のてっぺんにたどり着き、母と弟と三人でひと休みすると、眼下に広がる母の家の屋根の美しさが、すがすがしい風とともに体にしみ渡って来ます。

今、この歳になり夢の中に出てくるあの美しい風景は、たとえようもない幸せを感じます。そして母は、幸せな人生だったのだろうかと、ふと自問するようになりました。

私も結婚して母親になり二人の子供を育て、夫と共にがんばった仕事も、いろいろ大変なことがありました。二人で手を取って涙したことも。
そんな時、あの坂を登れば海が見える、この坂を登ればと心の中で呪文のように唱えながら乗り切って来たのです。そして乗り切った時の感動は何物にも例えようのない喜びと自信になって、返ってきました。

あの坂を登れば、この苦しみを乗り越えれば、新しい世界が見える。絶対に楽しい、希望に満ちた世界があると信じて歩いて来たのです。

残り少ない人生、どんなことがあろうとも、その坂を登りきることで、人生により多くの喜びを与えてくれるのではないかと信じています。
幼い時に読んだ、あの坂を登れば海が見えるという一節は人生の糧になって来ました。
                         おわり

※修了生本人の承諾を得たうえで掲載しています。

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