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ノック5本目:プロジェクト型リーダーシップ  ~シミュレーション&フィードバックとセクシープロジェクト~

<プログラム概要>
プロジェクトリーダーに必要となるリーダーシップを学ぶ研修
シミュレーション体験と受講者同士のフィードバックを通じてリーダーシップ開発をする


プロジェクト型リーダーシップ」は、私の記憶の中で最も大変だった研修プログラムです。開発に着手をしたのは2006年8月頃。完成は2007年1月。当時の事業提携パートナーであった研修会社C社様との共同案件であり、大手金融機関を顧客とした研修開発でした。


受講対象者は、40歳前後の管理職手前、営業第一線で活躍している方々であり、大規模プロジェクトの「リーダー」として必要な能力開発をするというものでした。一番のポイントとなったのは、リーダーシップを「ビジネスシミュレーション形式」で身につける研修を開発してほしいということでした。

提携パートナーC社様の責任者(当時のK常務)のイメージは、「ルッキンググラス・エクスペリエンス」という非常に有名なリーダーシップトレーニングのシミュレーションを開発することでした。

「ルッキンググラス・エクスペリエンス」とは、架空のガラスメーカーを舞台に受講者が経営陣となり、数日間の研修期間の間、制約がない中、議論を進めガラスメーカーの経営を考えるというシミュレーション型研修だそうです。

途中、様々なトラブルが発生し、その解決を検討するものであるようです。「何をしても自由」であり、最終的に過程を振り返ることで受講者同士のリーダーシップに関する考え方を深めていくという研修です。

<すごい開発バイブル まとめて読まれる際はこちら↓>

すごい開発バイブル


①迷走に次ぐ迷走

当時のアルーは「リーダーシップ」について全く知見がありませんでした。若手社員向けの研修しか開発をしたことがなく、管理職に近い階層向けにプログラムを提供したこともなく、「初めてづくし」の先が見えない案件でした。

受注をすれば大きな案件でした。当社創業メンバーの高橋浩一さんがパートナーのC社様に対しては、受注に向けて様々企画を練って提案をしていました。その提案にお客様&C社様がよい評価をしていただいていましたが、プログラムがその時点で形になっているわけではなく、どのように畳むか?という状況で私が関わることになりました。

研修プログラム開発のノウハウが蓄積された現在であれば、最初にラーニングポイントの調査を行うべきです。2006年時点ではどのように開発を進めるか定式がありませんでした。

先が見えない案件、かつ時間がないというプレッシャーから、当時様々な企業様での研修やコンサルティングでご協力をいただいていた方のお力を借りることとなりました。
その方がチームに参加してからは、一流のアイデアと切れ味の鋭い論点提示、哲学的な議論が行われました。高橋浩一さんも私もその話に「なるほど!」という思いでした。


企画検討チームで議論をする中で、実在のつり具の会社をモデルにした、ケーススタディを作成していきました。実際につり具会社のデータや分析のフレームなどを調査し情報としてまとめあげ、形にしていく作業を1か月程行いました。
そうしてできあがったのが「課題解決シミュレーション」というタイトルの企業再生を検討するケーススタディでした。

しかし、それをC社の責任者Kさんに見せたところ「全く違う」という反応でした。Kさんが求めていたものは、プロジェクトマネジメントのリーダーシップ。戦略ケーススタディではないということでした・・・。

「課題解決シミュレーション」は残念ながらお蔵入りという形になりました。これは今でも反省することが多くあります。ご協力をいただいた方のアイデアは素晴らしいものでした。私自身が顧客・パートナーが求める要件を明確にしないまま、仕事を進めたことが最大の問題でした。


②再スタート。アーキテクチャを考える


この失敗によりスタート地点に戻りました。8月から企画検討を進め既に9月下旬の段階。納期は12月末。あと3ヶ月しかありませんでした。

ここで本格的に落合社長にプロジェクトに参加してもらうことになりました。私と落合社長で相談をした結果、当社の株主であったD社様のお力を借りることになりました。D社の執行役員Yさんに議論に入っていただき、落合、池田、Yさんの3名でプログラム全体の基幹構造から議論を始めました。

Yさんの提案は「そもそも今回の研修は過去の100本ノックと違う研修」であるから、シミュレーション型演習という「新しいアーキテクチャ」を作ろうというものでした。

私は初めて「アーキテクチャ」という概念を認識しました。アーキテクチャとは、直訳すれば「基本設計」や「設計思想」という意味です。

例えば100本ノックの1つの演習で例えれば「物語風の課題があり、情報シートがあり、解答用紙があり、個人ワークで解答を検討して、グループワークでチームアウトプットをつくり、プレゼンテーションをして、講師がフィードバックし、解答例と解説を講師が説明して、最後に振り返りをする」という一連の基本的枠組みがあります。

そうした基本的な枠組みを踏まえながら、テーマやラーニングポイントごとに中身を作り変えているのが100本ノック研修です。

「アーキテクチャを考える」という考え方はその後の100本ノック形式以外の研修を作るに際して非常に役立ちました。後述(本noteノック8本目)の「プロフェッショナルスタンスシミュレーション」という研修プログラムはこの経験がなければ開発できなかったかと思います。

プロジェクト型リーダーシップのアーキテクチャは、後に「シミュレーション&フィードバック」と呼ばれるものです。
シミュレーション形式で学ぶというのはC社様からのオーダーであり、外すことはできません。どのようにすればシミュレーションを通じてラーニングポイントを深く本人に理解していただくことができるか、という観点から導き出したのが「&フィードバック」の部分です。シミュレーションの結果を受講者同士で効果的にフィードバックしあうことで、本人に大きな気付きをもたらすという構成です。

シミュレーションについては、複数のキャラクターが登場し、全員の意見が対立した状態としました。役割シートには物語形式で情報が記載され、それを読み込み、1時間弱の限られた議論時間の中でリーダー役の受講生が中心となって、対立を乗り越えていくというアーキテクチャを創りました。

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フィードバック部分は、はじめにリーダー役の方が感想を話し、続いて周囲のメンバーからフィードバックをしていくという構成です。その後全員でラーニングポイントについて話し合い、一つの演習で学んだことを3つ纏め上げる、という基本的な進め方を定義しました。
こうした演習単位のアーキテクチャを固めることができたので、具体的な演習の中身づくりに進むことができました。

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③「セクシープロジェクト」から学ぶ

ラーニングポイントは、トム・ピーターズ著「セクシープロジェクトで差をつけろ!」という書籍からに大いにインスピレーションを受けました。

「しびれるほどカッコいいか―勝負はそこだ!つまらない仕事を、ものすごいプロジェクトに変える50項目」が語られる名著です。

この書籍も元を正すとD社のYさんのご紹介でした。本書ではプロジェクトリーダーには、「ヴィジョン」と「巻きこみ」が大切であり、その後の「対立解消」を行うということが要点となることが理解できました。

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(図:書籍「セクシープロジェクトで差をつけろ!」表紙引用)


④トライアルを繰り返し完成度を高める

演習を一つ作ってトライアルを重ねるという取組を続けました。演習1本ごとにトライアル。当時、夜中までトライアルを繰り返していました。アルー社員だけでなく、D社様の社員、C社様の社員も含めて何度トライアルを繰り返したことか・・・。総力戦でした。初めてのシミュレーション&フィードバック形式の演習のため、トライアルをやればやるほど改善が進みました。

一つ例を挙げますと、演習で使用する「役割シート」は、初期バージョンにおいては「こういう場合はこうしてください」と記載された行動指示書のようなものでした。

トライアルの中で「そのままでは感情移入がしづらいので何を話せばいいかわからない」というC社様の方のアドバイスをいただきました。そこで「物語形式」の記載に変更をしました。物語形式の方が想像力を掻き立てることに有効であり、文脈を踏まえた行動をしやすいという利点がありました。

C社の責任者Kさんが、方向性についてアドバイスをしてくれる大きな存在でした。Kさんは内容の方向性について明確なビジョンを持っており、適宜アドバイスやダメだしをしていただけました。Kさんのおかげで迷走する開発を前に進めることができたと感じています。プロジェクト型リーダーシップの1本目の解説にある「ある自動車会社の開発責任者の事例」はKさんのアイデアで盛り込んだものです。

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結局、プロジェクト型リーダーシップは2007年1月8日という納品ギリギリのタイミングで完成しました。2007年1月15日の初納品は大成功でした。アルーの新しい方向性を切り開くプログラムとなりました。


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プロジェクト型リーダーシップ 開発における教訓


DNA21:ノウハウを得るための安易な外注は失敗の素
開発パートナーを増やす際には、顧客要件の明確な把握と共有が必須である

DNA22:未知の演習形式を開発するには、アーキテクチャから検討する
いきなり演習内容から考えない。シミュレーション&フィードバックという新しい枠組みを作ってから中身を作っていく

DNA23:良書からインスピレーションを受けてラーニングポイントを創る
トム・ピーターズの「セクシープロジェクト」にインスピレーションを得た

DNA24:トライアルを重ねてブラッシュアップする
新アーキテクチャの演習はトライアルは必須。何度もやることでブラッシュアップされていく

DNA25:プログラムの明確な完成ヴィジョンを持つ発注者を、開発者以外に設定する
C社Kさんが、プログラムに対して明確にヴィジョンを持ち、方向性の判断をしたおかげで、顧客要件をクリアするものになった

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本noteでは別途アルーの創業からの歴史をまとめた「スタートアップ企業としての営業組織づくりノウハウ」を公開しています。ぜひご覧ください。

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