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プレIPO期全体像

アルー株式会社の起業・経営の経験に基づく「スタートアップ営業組織作りの教科書」の記事を連載しています。

本連載は、企業向け研修サービスを提供する当社の創業から東証マザーズ上場までの15年間を事業ステージ毎に「シード期」「アーリー期」「ミドル期」「レイター期」「プレIPO期」と5つに分け、それぞれの段階で起きた当社の出来事と、課題、それに対する対応策や私自身の学びを紹介していきます。

各事業ステージ毎の構成は、最初に「期」の全体像を解説し、次の記事から各期で起きた出来事や課題を具体的にご説明していきます。

本記事は、IPO後の成長に向けて攻めと守りの投資を加速する「プレIPO期」の全体像をご紹介します。

<「スタートアップ営業組織づくり」まとめて読まれる際はこちら↓>

①アルー株式会社のプレIPO期

私が考えるアルー株式会社のプレIPO期は2016年~2018年末までの約3年間に渡ります。

一つ前のステージである「レーター期」も同様に3年間が掛かっています。プレIPO期という表現は私の造語です。一般的にはレーター期の後半という位置づけになりますので、二つ合わせて6年間程の時間がかかったとも考えられます。

当社にとってのプレIPO期は「特定市場で№1を実現するとともに、社内の管理体制の確立に注力した時期」になります。

◆業績面
2016年度売上:18.0億円(2016年12月期決算)
2017年度売上:19.1億円(2017年12月期決算)
2018年度売上:23.0億円(2018年12月期決算)

3年間の売上の推移はこのようになります。
2016年、2017年の間は伸び悩みがありましたが、2018年に一気に4億円ほども売上が増加しています。
プレIPO期を通じて売上は約1.3倍に成長しました。CAGR(年平均成長率)は13%程度でした。ミドル期、レーター期と比較すると分母が大きいこともあり成長率は低下しています。

(参考)
・アーリー期CAGR:121%(2005年~2006年:2年間)
・ミドル期CAGR:18%(2007年~2012年:6年間)
・レーター期CAGR:18%(2013年~2015年:3年間)
・プレIPO期CAGR:13%(2016年~2018年:3年間)

レーター期~プレIPO期通算の6年間で計算すると、
13.9%(2013年~2018年:6年間)という数値となります。レーター期以降、継続的な安定成長をしてきました。
しかしプレIPOスタートアップとしては、低めの成長率とも捉えることもできます。この成長率を如何に加速させるかが大きな経営課題と言えます。


★社員数

レーター期末(2015年末)の時点で、日本本社の在籍社員数は100名程度
海外子会社を含む連結従業員数は、150名程度の状態です。

プレIPO期末(2018年末)の時点でもおおよそ社員数は変わらず、
日本本社の在籍社員数は100名強程度
海外子会社を含む連結従業員数は180名程度でした。

引き続き海外の従業員数が増加しているのは、フィリピン現地法人の語学サービスの講師職の方々の採用を進めたためです。他の海外現地法人については増員はあまり行っておりません。

日本本社の在籍社員数は少数増員をしていますが、業績成長率が13%と安定成長水準のためあまり増員をせず、生産性を引き続き高める方向でした。
結果的にプレIPO期の間で、日本本社の売上が1.3倍になっていますが、在籍社員数を変えずに社員1名あたりの生産性が高まっております
レーター期から引き続き「生産性の向上」は大きなテーマでした。

新規採用については、新卒採用・中途採用を引き続き継続しています。
新卒採用につきましては、2007年度が第1期生でしたので開始してから10年を超える歴史が積み重なってきました。初期に新卒で御入社いただいた方々の中で、引き続き在籍をしている方の中からは、管理職クラス(課長クラス)の方も増えてくるタイミングでした。
(部長クラスの方が出てきたのは2020年以降でした)

当社では入社10年目に「永年勤続表彰」という表彰を行っていますが、新卒入社の方で対象者が出てくることはとても嬉しいことでした。会社の文化を継承する目的でスタートした新卒採用が本当の意味で形になってきたと考えています。

中途採用については、引き続き定期安定採用を継続していました。
四半期毎に数名程度、安定して営業およびソリューション職の方の採用を続けていました。これは当社の安定成長型の事業に合わせた採用のスタイルとして確立したものです。


★オフィス

2016年2月~2021年末現在:九段下オフィス(1フロア250坪)
レーター期を過ごした、有楽町オフィスから九段下に本社を移転しました。

東京メトロ九段下駅を出ると、九段下の交差点があります。
交差点にある九段下で最も大きなビルから一つ隣の「ヒューリック九段ビル」の2階に本社を構えることになりました。
創業前から数えて9つ目のオフィスとなります。
(神楽坂(創業前)→本郷(創業時)→湯島→銀座→西新橋→渋谷→市ヶ谷→有楽町→九段下)

一つ前の有楽町オフィスは、営業活動上とても交通の便が良いところでした。当社の顧客である大手企業は丸の内エリアに本社が集積しているため、徒歩で営業活動ができるという大きなメリットがありました。

九段下は千代田区役所のすぐそばですが、大企業の本社がある場所ではないため、移動には少し時間がかかります。その面では少し不便になりました。
しかし、その後の話ですが、リモートワーク・リモート営業活動の浸透により、このデメリットもあまりなくなってしまいました。

日本国内では、引き続き大阪、名古屋に支社があります。
大阪支社については、中ノ島フェスティバルタワーという大きなビルに入居をしています。
名古屋支社はレーター期より引き続き、伏見駅近くのビルの1室に入居をしています。

海外については、中国(上海)、インド(グルガオン)、シンガポール、フィリピン(マニラ)の4か国に展開をしていました。


◆大きなトピックス
プレIPO期のトピックスとしては、以下の3点が挙げられます。

(1)特定分野の市場での№1の実現
2013~2014年頃に戦略方針を定めた「大手企業新入社員研修市場での№1」と「グローバル人材育成市場での№1」という方針を実現することができました(当社調べ)。

当時新入社員研修だけでは成長に限界があると考え、攻略対象市場を増やそうとしていました。議論の結果、戦場を広げるよりも今強みがある分野で勝ち切ってから次に進むことを選択しました。

その後の当社メンバーの皆さんの努力の賜物として、この2つの分野での№1というポジションに至ることができました。

№1を実現すると、マーケティング・営業活動における地位が圧倒的に変化します。顧客からの声のかかりやすさ、受注率の向上、社内の自信という3つの要素が大きく向上し、競争上優位な立場に立つことができることを実感しました。


(2)取締役会の強化
上場に向けた取組の中の大きなものには取締役会の強化がありました。2015年末までは、取締役3名、執行役員1名の4名での経営体制であり、それに加えて常勤監査役神沢さんにご参画をいただいておりました。

神沢さんは大手自動車素材メーカーでの長年にわたる経営管理の経験と、常務取締役としての経営のご経験を持たれ、2008年より当社の監査役としてご参画をいただいております。

この社内体制に加えて、コーポレートガバナンス強化のために、社外取締役として西立野竜史さん社外監査役として富永さんと和田さんにご参画をいただきました。

経営経験、経営管理経験の豊富な方々にご参画をいただいたことで、取締役会での議論の質が大きく引き上げることができました。社外取締役・監査役の方々の意見を踏まえることで多角的な視点で健全な経営になっているかのチェックがより働くようになりました。


(3)組織の複線化と、スタッフ部門の強化
レーター期前半頃まで、当社はライン部門を中心とした所謂ピラミッド型の組織運営をしており、全員が総合職として様々な業務を担当するという形でした。しかし組織の拡大に伴い機能の多様化に伴うことで、複数の役割が出来るようになってきました。

総合職は企業活動の中核となり将来の幹部社員として、ゼネラリスト的に活動をし、ラインマネジメントを担当していきます。一方で全員がゼネラリストとなると、専門性の観点から競争力を保持しえない可能性があること、また管理(ラインマネジメント)を志向しない方もいます。そうした高い業務専門性を追求するエキスパート的な活動をする方も総合職の中に出てきました。このラインマネジメント的役割とエキスパート的な役割は、行ったり来たり出来ることが重要と考えて組織設計・運営をしています。

また、事務オペレーションを専任で行い組織としての高い生産性を実現するための「事務専任職」の組織が整備されてきたのもこの時期です。

また、ライン部門のみで構成されていた組織構成から、スタッフ機能組織を積極的に構築し、ライン部門の生産性を向上させる仕組みづくりに投資をするように変わっていきました。新たに生まれた代表的なスタッフ機能としては以前の記事でご紹介をした営業部における「営業企画部」です。

また管理部門の中に、特定機能のスタッフ組織を組成・人材アサイン強化の取組みも行いました。代表例としては「情報システム部門(グループ)」の組成などがそれにあたります。


プレIPOの主なトピックスは以上です。
時期的に上場申請業務が多く発生した時期ですが、前提として上場は「ゴール」ではなく、その後の企業成長・事業価値向上に向けた「手段の一つ」に過ぎません。
上場後に如何に成長を加速させることができるか、ということを見据えた事業・組織運営と投資を行っていくことこそが大切であると考えています。


②プレIPO期の全体像について

スタートアップ関連の用語として「プレIPO期」という用語は一般的には存在せず、私の造語であると認識しています。本noteにおける「レーター期」「レーターステージ」の後半という位置づけであると認識をしています。レーター期の一般な定義は「事業が安定し継続成長が実現しIPOが視野に入る段階」と言われます。

プレIPO期というタイミング的に、スタートアップ・ベンチャー向けの話になると上場申請の実務が良く語られます。当社では上場申請プロジェクトには、管理部門長の稲村さんをリーダーに、管理部門より複数名のメンバーの方々が大量の実務をこなされていました。上場準備チームの活躍とご負担を考えると、本当に感謝をいたしております。

私自身は事業側を担当しており、上場準備実務についての専門家ではありません。
本noteの趣旨は「営業・事業部門の組織作り」ですので、上場準備実務については解説対象に含めていないことをご認識いただけますと幸いです。
上場後の更なる成長を見据えて、事業側として何をすべきか、という観点で以下の解説や、個別の課題記事をご紹介していきます。


私が考えるプレIPO期で取り組むべきポイントは3点です。
(1)特定の事業領域で実現した№1を確固なものとすること
(2)事業・サービスの領域拡大
(3)組織体としての人格の成熟、サーバントリーダーシップの発揮

以下にプレIPO期の全体像の概略図を示し、具体ポイントに触れていきます。

図の左側はプレIPO期開始時(2016年初)の当社の状態を示しています。
図の右側はプレIPO期が終わるころに到達した状態(2018年末)を示しています。


③プレIPO期の初期段階

レーター期の到達点としては、間接マネジメントを完成させ、生産性を業界トップクラスに引き上げること、そして特定の事業領域で№1の実現ということを掲げていました。

一方でIPOの3年前程度では、まだ事業のアウトプットエンジンが整っていないことは多くあります。具体的には、業績づくりのための事業競争力が不足をしていたり、組織体制が整っていないという点が上げられます。

特に組織面においては前述のコーポレートガバナンスの観点での経営体制の整備や、リスクマネジメント体制が不十分であることが多いでしょう。


④プレIPO期のプロセス

プレIPO期の活動として、大きなものは以下の3点となります。

(1)特定の事業領域で実現した№1を確固なものとすること
業種業態にもよりますが、プレIPO期の企業は何らかの分野で№1の市場ポジションを実現していることが多くあります。一方でそれは成長市場分野であることが多いため、競争状況も厳しく、継続的な事業投資が求められます。
2位の競合に対して、市場シェアで2‐3倍の差をつける、または市場シェア41%以上の獲得するという水準を目指す必要があります。


(2)事業・サービスの領域拡大
ここまでの事業成長において、単一のプロダクトが成功してきた企業もあるかと思います。
更に事業を成長させるために、ビジネス・サービスの多角化・領域拡大をしていくことが必要になってくることが多くあります。
単一プロダクトが強い競争力を持っていたとしても、市場の限界の可能性や、一本足打法のリスクもあります。そのため経営陣としては常に事業領域の拡大を検討する必要があります。

当社のような大手企業向けの事業であれば、日本国内における上場企業は約3000社です。市場は限られていますので、企業研修、そして新入社員研修だけをやっていては成長に限界が来ることは想定できます。
そのため顧客の取り組む他の人材育成領域、人事領域への展開を検討することは必須です。深く大きな取引にするためのソリューション領域の拡大に取り組む必要がありました。

具体的には、アルーの事例では、クラウド型Eラーニングプラットフォーム「etudes」のM&Aに取組み、集合研修だけでなくEラーニング、そしてラーニングマネジメントシステムの分野にもサービスを取り組むことができるように事業領域を拡張しました。
(実際のetudes事業のM&Aは、2019年になってからでしたが、本時期に取り組むべき内容としてご紹介しています)


(3)組織体としての人格の成熟、サーバントリーダーシップの発揮
上場を目指すということは、プライベートカンパニーから社会の公器となることです。
社会の様々なステークホルダーから信頼に足る存在となる必要があります。
アルーは創業から15年、江戸時代でいえば元服をする=成人になる年齢です。
しかし年齢的・社齢的には成人年齢になったとしても、本質的に成人のあり方に変化しなければ、本当の意味で成人になったとは言えません。

会社とは法人(法律上の仮の人間)なので、結局は構成する人間の成熟によって組織の成熟は決まってきます。組織の成熟に一番大きな影響を与えるのは経営者の成熟度です。

組織が若く未熟なうちは、経営者がエゴイスティックな考え方に基づく事業運営も許されたこともあるかもしれません。ですが成人になってもそうしたエゴイスティックな行動をしていれば、信頼を得ることはできません。

経営者が自らのエゴではなく、社会やコミュニティのために生きる使命を持つこと、そして会社の中においては、会社というコミュニティを構成するメンバーの活躍と幸せを願う、利他の姿勢で仕事をすることが必要であると強く考えています。

こうした姿勢を私は「サーバントリーダーシップ」と呼んでいます。


⑤プレIPO期を通じて到達する状態

プレIPO期の結果として、上場を実現することになります。
上場はゴールではなくより大きなステージに挑戦するためのスタートです。

プレIPO期で問われるものは、上場(公開)企業として社外(東証や社外株主等)からの期待に応えられる水準のアウトプット(売上、利益、成長)を出し続けられる状態を整えることです。
そこに向けて攻めと守りの事業活動・投資を行うことが求められます。

攻めの分野としては・・・
・特定市場での強みの構築
・強固なビジネスモデル
・組織能力・組織文化

守りの分野はとしては・・・
・業務プロセスの整備
・リスクマネジメント/コンプライアンス
・コーポレートガバナンス

上記の攻めと守りを整え、上場後の更なる成長を実現していくステージに移っていくことになります。


⑥プレIPO期の課題と具体的な取組み

次の記事以降、プレIPO期において直面した具体的な課題とその対応について紹介していきます。

(27)特定市場での№1を実現する(プレIPO期)

(28)重点大手顧客の深掘りには、ソリューションの幅が必要(プレIPO期)

(29)キャリアパスを複線化し、多様な人材が活躍する場を作る(プレIPO期)

(30)サーバントリーダーシップに基づく営業組織を創る(プレIPO期)


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本noteでは別途アルーの「研修プログラム開発のストーリーとノウハウ」を公開しています。ぜひご覧ください。

<アルーのすごい研修開発バイブルを読まれる際はこちら↓>

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