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【6/10日記】透明なカーテン

職場に透明なカーテンが設置された。いわゆる飛沫防止用のやつ。

今までは適当な段ボールとか型紙でお手製の仕切りを作り、それを机になんとか立てて使っていたけれど、なんかみすぼらしくってイマイチだった。やっとちゃんとした透明なカーテンがやって来て、事務室、食堂や休憩室などあらゆるところにそれは所狭しと並べられていた。その光景は割と、不気味で異様で圧巻だった。

それにしても。人はやっぱり、ここまでして顔を突き合わせていたい生き物なんだなぁと思う。

***

前に一緒に働いていた男の子から、こんなことを聞かれたことがある。

「人が職場に1番求めるものって、なんだと思いますか」

彼はそういう質問を急にしてくる子だった。うーん、人間関係とか?そんな風に私は答えたと思う。すると彼は、

「それもそうなんですけど、1番は『居心地の良さ』らしいですよ」

「なんかわかる気がしません?」そうやって、彼は言った。

なんかわかる気がする、私は彼がそう言ったのが、なんか意外だった。

それもそのはず、彼は"職場の雰囲気クラッシャー"だったからだ。一度スイッチが入ると誰彼構わず暴言を吐いて、その被害者は私も含め、結構な数いた。ある日突然同僚に「死ね!」と暴言を吐いて、それが原因で別の部署に異動してからというもの、あいさつもされなくなった。

私はたまに、本当にたまに、彼のことをふとした瞬間に思い出す。職場で死ねなんていうやつは彼以外そうそういないだろうな。ほんと厄介なやつだった。そして、そんな彼が本当は居心地が良い職場を求めていたごくごく普通の人だということも、一緒に思い出す。

透明なカーテンが来たことで、なぜ彼のことを思い出したのかはわからないけれど、そのカーテンが設置されてから、明らかに職場は良い雰囲気になった。開放的でとてもいい。今まで段ボールに目の前を仕切られていたから、目の前の相手の顔も見えず、ちょっとした会話も諦めていた。でも今日、そんな会話も復活した。言葉よりも何よりも、目に見えるもので、私たちはいかに情報を得ているか。当たり前だけどそんなことを思った。

例の職場クラッシャーの彼は、今コールセンター的なところで働いているらしい。周りを仕切られた机の中で、マイペースに案外うまく対応しているとか。今は暴言も影を潜めて、仲の良い先輩もいると、風の噂で聞いた。もしかしたら、彼にとっては、そういう環境の方が居心地が良くて、透明のカーテンなんて不快なだけなのかもしれない。居心地の良い職場が大事なのは、私も彼も一緒なのに、それぞれの居心地の良さは違うのだ。難しいね。

一度はサポートされてみたい人生