これからは「一番最初に思い出してもらえる第一想起ブランド」しか生き残れない
(2024年1月4日 追記)
この記事が含まれる内容が本になりました! 2024年1月17日出版です。
(追記ここまで)
世界に冠たるマーケティングカンパニー、P&Gがとても重視している指標があります。
それが、Evoked Set(想起集合)です。
Evoked Setとは、何かをしよう(買おう)としたときに、頭に浮かぶ好意的な選択肢の集合体のこと。
あらゆるモノやコトで(どれを買っても変わらないよね、という)コモディティ化が進展した結果、すべての業界で熾烈な価格競争が起きています。
物理的な製品やサービスの差別化が難しくなった現代において、消費者に選ばれるかどうか(買ってもらえるか、買い続けてもらえるか)の勝敗を分けるのは、一番最初に思い出してもらえるポジションを獲得しているかにかかっています。
以下の文章を読んで何が頭の中に浮かびますか?
コロナが落ち着いたら行きたい日本の観光地
コロナが落ち着いたら行きたいレストラン・居酒屋・料理屋さん
今度引っ越すとしたら住みたい街
いま掃除機が壊れたら何を買う?
歯磨き粉
いまあなたの頭の中に浮かんだ選択肢が、Evoked Set(頭の中で想起される好意的な選択肢の集合体)です。仮に1つしか浮かばなかったら、それはEvoked Setに1つしか入っていないか、もしくはEvoked Setの中で一番最初に思い浮かぶ第一想起(Top of Mind Awareness)ブランドです。
一番最初に思い出してもらえるブランドは強い。
なぜなら、第一想起ブランド(一番最初に思い出してもらえるブランド)は、
・確実に検討してもらえる
・一番最初に検討してもらえる
・検討後に買ってもらえる可能性が一番高い
・リピート購入であれば一番買い続けてもらえる可能性が高い
・特にオンライン購入の場合、第一位想起がそのまま購入される
確率が高いからです。
Evoked Set(想起集合)を理解する
この図は、マーケター全員が暗記パンに貼り付けて食べたほうがいいやつです。
この図を頭に置きながらブランドマーケティングを行うのと行わないのでは課題の抽出の正確性や戦略の解像度に雲泥の差が出ます。
恩藏直人大先生が1995年に書いた下記論文は必読です。超わかりやすいです。10分で読めるので、ぜひ1億回読んでください。
面倒くさくて論文は読めない!という人向けに解説を続けます。
まず、私たちの頭の中には膨大な情報が詰め込まれているわけですが、ブランド情報(購入の選択肢情報)は意外と整理されて格納されています。
知名集合と非知名集合
まず最初の段階。知っているか、知らないかです。
自動車メーカーで考えてみましょう。
トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、スバル、三菱、スズキ、ダイハツ、メルセデス、BMW、アウディ、フォルクスワーゲン、MINI、ボルボ、ルノー、プジョー、フィアット、アルファロメオ、ポルシェ、ランドローバー…。
多くの人は、だいたいすべて知ってますね?
であれば、これらの自動車メーカーは、あなたの頭の中の「自動車カテゴリー」の中で知名集合に格納されています。
知らないものは検討されません。検討されなければ買ってもらえません。
ということで、この図は(買ってもらうためには)まるでトーナメント戦のように、右上へ勝ち残っていかなければならない(右上に勝ち進んだ企業やブランドが最後に買ってもらえる(可能性が高い))ということを表しています。
処理集合と非処理集合
次の段階。処理集合と非処理集合。
さきほど挙げた自動車メーカーは、ほとんどの人が知っている(知名集合に入っていた)と思います。
では、「ルノーとプジョーとフィアットの違い(たとえば国やデザインや製品特徴)は何?」と聞かれたら答えられるでしょうか。
多くの人は「よくわからん」かもしれません。
処理集合と非処理集合の違いは、「よく知っているかどうか」です。製品やサービスを知っていて(知名集合)、かつよく知っていれば(製品特徴を理解していれば)処理集合、知っているけど、よく知らない(製品特徴はよくわからない)のであれば非処理集合に分類されます。
知ってるけど、よくわからない商品は、その段階で検討に進まないので、この段階で負けです。
Evoked Set(想起集合)
さて、肝心のEvoked Set(想起集合)です。
まず、知っていて(知名集合)、よく知っている(ある程度製品の特徴を理解している)処理集合は、想起集合と保留集合と拒否集合の3つに分類されます。
想起集合は、「消費者が、所定の製品クラスにおいて認知しているブランドの集合のうち、購買を考えるような下位集合」と定義されます。
難しいので、僕は「購入における好意的な選択肢の集合体」と言っています。
この想起集合に(カテゴリーごとに)いくつの選択肢が入っているか。
Miller先生(1956)によると、人間が正確に(選択肢を)順序付けすることができる刺激数は7個プラスマイナス2個、つまり5個~9個とされています。
でも、実際、頭の中にそんなに多くの選択肢って入っていませんよね。「歯磨き粉」と言われて、7個もブランド名を言える人は相当は歯磨き粉フェチです(助成想起なら5~10個くらいは知っているでしょうが、製品の特徴を理解していて(処理集合)、購入の選択肢に入っている製品はすごく少ないですよね)
トライバルメディアハウスの調査では、たいていの製品カテゴリーにおいて(Evoked Setには)3つ(少ない場合は1つ)しか入っていません。
想起集合に入っていない商品やサービスは購入時において検討されないため、その時点で負けです。
Evoked Setに入ることの優位性(逆に言えば入っていないことによる劣勢)はあとで解説します。
保留集合
保留集合は、知っていて(知名集合)、製品の特徴をある程度理解している(処理集合)けれど、上位3つのEvoked Set(想起集合)に入れていない集合体です。
仕様の割に価格が割高だったり、周りの人が誰も買っていない、または購入を検討するにあたって十分な情報を持っていないなどの理由によります。
せっかく、様々なブランドコミュニケーションによって知名集合→処理集合と勝ち進んだのに、Evoked Set(想起集合)に入れていないことによって負けてしまっている「惜しいポジション」です。
拒否集合
知っていて(知名集合)、ある程度製品の特徴を理解している(処理集合)上で、絶対に買いたくないと思われているブランド群が拒否集合です。
ここに入ってしまう理由は、クチコミなどによって悪いイメージを持っている、以前買ったことがあるが期待はずれだった、仲の良い友人が持っていてかぶりたくない、など様々です。
拒否集合に入っている製品に対するプラスの態度は(想起集合、保留集合と比べて)当たり前ですが最低です。
「拒否する」というのはある程度関与度が高いことでもあるため、処理される情報量はそれなりにあり(保留集合より多い)、その上で購入意図が(想起集合、保留集合と比べて)最低の(もしくは無い)状態ですから、ここに入ると復活が難しくなります(そのため、思い切ってブランド名そのものを変えてしまう手が打たれることもあります)。
第一想起(Top of Mind Awareness)
第一想起は、Evoked Set(想起集合)の中で一番最初のポジションを獲得しているブランドです。
マヨネーズといえば?
トマトジュースといえば?
多くの人が、キユーピー、カゴメと答えますよね。これが第一位選択ポジションです。
デービッド・A・アーカー大先生によると、ブランドエクイティ(ブランドの資産)は、ブランド認知、ブランド連想、知覚品質、ブランドロイヤルティ、その他資産の5つの掛け算の総和であるとされています。
第一想起は、ブランド認知が最も高く、ブランド連想も(マヨネーズといえばキユーピー、キユーピーといえばマヨネーズと)カテゴリーと製品の双方向から一致していて、かつ多くの人がキャラクターのキユーピーちゃんを連想することからも、非常に強いブランド連想を確立しています。
知覚品質(この製品は良い品質だ)も、ブランドロイヤルティ(愛顧や愛着)も強いことが多いため、ブランドエクイティの総和として強いことがわかります。
Evoked Setに入ることの優位性(一般消費財)
Evoked Set(想起集合)を考えるブランドカテゴライゼーションの枠組みについて理解が進んだところで、肝心のEvoked Setまたは第一位選択になることの優位性について考えてみましょう。
まず、スーパーやコンビニで買うような一般消費財におけるEvoked Setに入ることの優位性について。
食品、飲料、日用雑貨などの一般消費財は、価格が安く、購入頻度が高いため、購入による失敗のリスクが低いですよね。だから、カテゴリー関与度は低くなります(買って、失敗しても、安いし、次に買わなければ良いだけだから、あまり深く考えずに買ってしまいます)。
そのため、消費者の購買プロセス(マーケティングファネル)における比較検討段階がほぼ存在しません。
その上、スーパーやコンビニで売っている一般消費財は、どの製品を買っても、そのパフォーマンス(物理的なベネフィット)はどれもほとんど変わらないため(コモディティ化)、購入の決め手はEvoked Setに入っていて、かつ一番最初に思い出す第一想起ポジションが有利になります。
先に挙げたマヨネーズで考えてみましょう。
冷蔵庫に入っているマヨネーズがなくなったとき(なくなりそうなとき)、あなたはスーパーかコンビニへマヨネーズを買いに行きます。
そのとき、あなたがしている行動は、マヨネーズを買うためにマヨネーズ売り場(棚)に行くのではなく、いつも買っているキユーピーマヨネーズを取りに行っているのです。
まるで、Amazonの物流センターのピッキングマシンが、なんの躊躇もなく、発注のあったキユーピーマヨネーズを集荷ボックスに入れるように、何も考えず、オートマチックにカゴに入れるのです。
これを、専門用語で(代表性)ヒューリスティックと言います。
ヒューリスティックとは、経験をもとに意思決定する思考法で、バイアスとも呼ばれる心理学用語です。
言葉が難しいので、僕は「脳がつくるショートカット」と言っています。
脳は、思考するときに多くの酸素を消費します。できる限り省エネで運転するために、脳は「あなたは毎日これをやっておけば(これを選択していれば)だいたい満足ですよ」と、数多くのショートカットを勝手につくってくれます。
このショートカットが多くできあがると、私たちは何も考えず、毎日を自動運転で暮らすことができるようになります。
いつもと同じ道で駅に向かう。いつもと同じ位置で電車に乗る。空いていれば端の席に座る。会社の近くのコンビニに寄って、いつもと同じ導線でリーチインクーラー(冷蔵庫)に行き、いつもと同じお茶を買う。いつもと同じお店でランチを食べる。疲れたらTwitterを開く。帰りの電車ではスマホでゲームをやる。家に返ったらソファに寝っ転がってYouTubeを観る。
これはすべてヒューリスティック(脳がつくったショートカット)です。
話を戻します。
マヨネーズを買うとき、私たちは何を考えているでしょうか。
何も考えていませんよね?
いつも買っているマヨネーズで満足している(とくだん不満がない)から、いつものマヨネーズを買う。買うというより、なくなったから補充しに行くという表現の方が正しいかもしれません。
これがヒューリスティックによる自動化された習慣購買です。第一想起のブランドは、多くの人のショートカット先になっているから強いんです。
この傾向は、(店頭での刺激がない)Amazonなどでのオンライン購入の場合、さらに顕著になります。
マヨネーズのマーケットシェアは、キユーピーが80%、味の素(ピュアセレクト)が14%です。
もし仮に、あなたがピュアセレクトのブランドマネージャーだったとしましょう。さて、巨人キユーピーに対して、あなたはどのような戦いを挑みますか?
8割の消費者は、いつものマヨネーズを取りに行くため、何も考えず、自動運転でマヨネーズ売り場のキユーピーを目指してしまいます。
マヨネーズは2本も3本もいりません。1本あれば十分なので、1本買われたらアウトです。キユーピーをカゴに入れる前に、ピュアセレクトを入れてもらわなければなりません。
となると、普通のアプローチで考えると、いつもより100円値引きして、スーパーの棚のエンド(棚の端っこ)に大量陳列して買ってもらうしかありません。
エンドでの大量陳列をやるためには、値引きの原資と、スーパーのエンドを獲るための販促協力金を支払う必要があります。当然、利益が減ります。そして、値引きをすればするほどブランド価値は毀損していきます。
一方のキユーピーは、8割の自動運転化された消費者が棚の前まで商品を取りに来てくれるため、スーパーに販促協力金を積んでエンド陳列をとらなくても(人通りがエンドの10分の1しかない)定番の棚で、値引き無しの通常価格で販売することができます。
これが、P&Gが「シャンプーならパンテーン」「ひげ剃りならジレット」と、カテゴリーでEvoked Setに入れ!そして第一想起を獲れ!と強くこだわる理由です。
Evoked Setに入ることの優位性(耐久消費財や専門品)
一方の耐久消費財や専門品はどうでしょうか。
家電や自動車などは、価格が高く、購入頻度が少ないため、購入による失敗リスクが大きくなります。
そのため、私たちは、購入する前に徹底的にネットのクチコミを研究します。
今日、あなたの家の掃除機が壊れたとしましょう。
多くの人は、「ああ…想定外の出費が増えるなくそ」と思いつつ、無いと困るので、購入を検討します。
掃除機は3年や5年は使いますから、以前買ったのは結構前のことです。当然、頭の中に潤沢な選択肢はありません。
選択肢がなければ検討はできませんから、クチコミを見る前にまずは頭の中に選択肢をつくらなければなりません。
なので、多くの人は「掃除機 売れ筋」で検索したり、kakaku.comに行ってランキングを見るでしょう。
でも、その過程で(もしかしたら最初から)あなたの頭の中にダイソンが入っていませんか?
「掃除機といえばダイソンだよな」「ダイソンは有名だけど、実際どうなんだろう」「ダイソンは高いイメージがあるけどいくらなんだろう」など、ちょっと気になる存在のはずです。
その場合、あなたの頭の中には(さっきまで掃除機のことなんて一日に一秒も考えたことがなかったのに!)いつのまにか、Evoked Setの第一想起にダイソンが位置取りを完了していたということです。
いつかあなたの掃除機が壊れる日を見越して、ポールポジションを確保していたのです。
掃除機でも自動車でも証券口座の開設でも、私たちはだいたい2つから3つの選択肢から検討し、購入を決めます。つまり、Evoked Setに入っていることが決勝レースに残ること(勝ち進むこと)に直結しているんです。
その上で(Evoked Setに入っている上で)、勝負に勝たなければなりません。
では、この勝負(検討)はどのような順番で行われるのでしょうか。
そうです。そのまま、想起される順番(1位→2位→3位)で検討が行われます。第一想起は、一番最初に検討してもらえるのです。
さて、ここからがクチコミ(レビュー)による戦いです。
たとえマーケットシェアが一位の売れ筋商品だったとしても、万人に受け入れられる商品はありませんから、悪いレビュー(1つ星や2つ星)のレビューも散見されるでしょう。
でも、第一想起のブランドは、好意的な選択肢の集合体で一位なんですから、最も好意度が高いわけです。買いたいんです。でも、失敗したくない、後悔したくないから、念のためレビューを見ているんです。
このときの心理は、「検討」ではなく、「検証」です。
「みんな満足しているんだよね?」「買っていいよね?」「買って後悔しないよね?」と、買うための証拠(自己弁護集)を集めているんです。
そのため、「買って後悔した」「不良品だった」というクチコミ(レビュー)を見ても、「うん、君には合わなかったんだね」「運が悪かったね」と、好意的に判断してくれます。
そして、「最高!」「買ってよかった!」「間違いないです!」という好意的なクチコミを見つけに行き、「やはりそうか」「みんな良いって言ってるし大丈夫そうだな」と安心材料を集め終わった段階で、買うのです。
Evoked Setに入っていたとしても、2位以下のブランドは、検証ではなく検討しているため、「買って後悔した」「お金の無駄です」などのクチコミを見ると、すぐに心が折れてしまいます。「あっぶね!買わなくて良かった~」となります。
トライバルの調査では、第一想起ブランドは、クチコミ(レビュー)閲覧後7割が購入、2位は2割、3位は1割という結果が出ています。
Evoked Setに入っていなければその時点で負け。入っていたとしても、圧倒的に強いのは第一想起ブランドであることがわかっています。
想起起合はいつ、どこでつくられる?
さて、では、この重要なEvoked Set(想起集合)は、いつ、どこでつくられるのでしょうか。
それは(当たり前の話ですが)各社が展開する広告宣伝活動、広報活動、販売促進活動、店頭マーケティング、過去の購入(使用)経験、友人や知人との会話や、ネットのクチコミなどの総合力によってつくられます。
となると、当然、すでに多くの顧客がいて、潤沢な広告宣伝予算と販促予算による露出力と店頭支配力が強いマーケットシェア一位の企業が圧倒的に有利となります。
憎きダブルジョパディの法則
ここでダブルジョパディの法則が立ちはだかります。
ダブルジョパディの法則とは、「マーケットシェアが高いブランドは購買客数も多い。またこれらの購買客は行動的ロイヤルティも態度的ロイヤルティも高くなる」という法則です(バイロン・シャープ著『ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11』)。
この法則にのっとると、マーケットシェアが高いブランドが顧客も多く、行動的ロイヤルティ(実際に買ってくれる確率)が高く、態度的ロイヤルティ(好意度や購入意向)も高いということになります。
まあそうなんでしょうが、となると、マーケットシェア2位以下のブランドは、いつまでたっても1位のブランドに勝てないことになってしまう。
実際、市場リーダー(マーケットシェア一位の企業やブランド)がとるべき戦略は(当然Evoked Setに入っており、第一想起ポジションを獲得している確率が高いため)、できる限りEvoked Setに入るブランド数を少なくしてしまうキユーピーのような戦略や、圧倒的な広告宣伝量を投下し続けることによって第一想起ポジションを維持し続ける施策が有効となります。
でも、市場リーダーは市場に一社しかいません。大多数のブランドは2位以下です。強者の戦略(市場リーダーの戦略)はわかるけど、弱者の戦略(2位以下の戦略)がほしいわけです。
ZMOTに着目する
だからこそ、僕はZMOTに注目するべきだと思うのです。
ZMOT(Zero Moment-Of-Truthの略)(「じーもっと」と読みます)は、2011年にGoogleが提唱した「消費者は店頭に行く前に、すでに購入するブランドが7~8割がた決まっている」ことを明らかにした概念です。
詳しくはこちらに詳しくまとめています。後悔させません。お願いですから読んでください。
消費者は、お店に行く前に、ほとんど買う商品を決めてしまう。つまり、店頭に来る前に(消費者の脳内における)Evoked Setと第一想起の場所取り合戦は終わっているということです。
その(Evoked Setと第一想起の)場所取り合戦は、いつ、どこで行われているのか。
僕は、それがZMOTだと考えています。
ネットの中で接触する広告宣伝やキャンペーン、ニュース、SNSでのクチコミがZMOTの正体であり、そこでの接触や体験がEvoked Setや第一想起を決めるのです。
フリークエンシー命
Evoked Setは一度つくられたら半永久的に固定されるものではありません。随時順位が入れ替わります。
そのため、「入る」のではなく「入り続ける」視点が重要です。
では、Evoked Setに入るため、入り続けるために、何が必要なのでしょう。僕は、フリークエンシー(接触頻度)だと思います。
どんなに強烈なインパクトがある刺激やコンテンツに触れても、それが一ヶ月前なら、存在感は薄くなります。その間に、競合がもっと多くの接触頻度をとってきたら、ポールポジション(第一想起)を奪われてしまうでしょう。
そうさせないために、ZMOTの中で、高い接触頻度を確保し続ける必要があります。
じゃあ、広告出稿料を増やして大量のインプレッションを確保すればEvoked Setに入り続けることができるのか。
難しいですよね。
広告は邪魔者だし、多すぎるフリークエンシーは広告効果の低下を招くばかりか、消費者の不快度を上げ、逆効果になってしまいます。
UGC命
そこで注目されるのが、UGC(User Generated Content:ユーザーが生成するコンテンツ:つまりSNSの投稿)です。
これを見てください。
ブームリサーチを使って、2019年1月1日~2019年12月31日の「スタバなう」と「ドトールなう」のオーガニックな(自然発生的な)ツイート数(RT、メンション含まず)です。
※ブームリサーチ調べ
店舗数は、2020年1月現在、スタバが1,530、ドトールが1,106店ありますが、「なう投稿」は(日によって異なりますが)10倍~30倍ほどの差があります。
ここで言いたいのは両社の差ではなく、オーガニックツイートの価値そのものです。
「スタバなう」は、平均すると一日あたり300件ほどのオーガニックツイート(RT、メンション含まず)があります。
Twitterアクティブユーザーの平均フォロワー数を200人とすると、300投稿✕200人=6万フォロワーリーチ(推定値)となります。実際の投稿の実効リーチ(投稿が見られる確率)は10%~20%ですから、6,000~12,000人が、毎日誰か(フォロイー)の「スタバなう」を見るわけです。
フォローしている人(フォロイー)の投稿は、広告と違って、飛ばされづらく、(WHOでつながっているがゆえ)情報の浸透度も高いと考えられます。
これが、Twitterでの投稿がフォロワーに表示されることを「クチコミインプレッション」や「アーンド(Earned)インプレッション」と呼ばれるゆえんです。
スタバもドトールも知らない人はほとんどいません。ターゲットユーザーの認知率はほぼ100%と言っても良いでしょう。
では、この「なう投稿」のクチコミインプレッションは何の役に立つのか。
それは再想起です。
「なう投稿」は、おいしい(評価)とも、オススメ!(推奨)とも言っていません。ただ、「いること」(正確にはいることによる文脈)を伝えているだけです。
それだけの情報でも、「山田さんはまたスタバにいるのか」「鈴木さんドトール好きだなー」とスタバやドトールを思い出させることにつながります。
次に、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)と、ディズニーランド(ディスニーシー、ディズニーリゾート含む)について見てみましょう。今度は「なう投稿」ではなく、パーク名称です。
※ブームリサーチ調べ
「なう投稿」ではないため、数が多いですね。2つのパークは、1日あたり3,000件~1万件程度のオーガニック投稿(RT、メンション含まず)があります。
さきほどと同様の計算をすると(仮に1日あたり5,000件とすると)5,000✕200人=10万人。実効リーチ(クチコミインプレッション)はその10%~20%のため、2~3万人と推定されます。
毎日、無料で、2~3万人の人たちが(友人や知人の投稿によって)USJやディズニーランドを再想起するんです。
さらに、投稿には「XXちゃんとユニバ!超楽しかった♡」「新しいショーめっちゃ良かった!」「やっぱりXX(アトラクション)は最高!」なども多く、態度的ロイヤルティ(好意度や来場意向)を高めることに貢献しているはずです。
これがSNSにおけるクチコミインプレッション(アーンドインプレッション)の効果です。
マーケットシェアでは他社に負けている。ダブルジョパディの法則にのっとれば、行動的ロイヤルティも態度的ロイヤルティも負けているかもしれない。
そして、広告予算には限度がある。マーケットシェア一位の企業よりも大量の広告を投下することはできない。
でも、Evoked Setで上位に食い込みたい。できれば第一想起を獲りたい!
競争は、多くの資源を持っている方が勝ちます。であるならば、正攻法で戦っても勝つことはできません。
しかし、現代はソーシャルメディア時代です。
広告投下量による正攻法で勝てないのなら、僕は、ソーシャルメディアの力にレバレッジをかけて勝利するZMOT戦略に資源を集中させることが突破口になりうると考えています。
ファンフルエンサーによるZMOT戦略に勝機あり
はじめに断っておきますが、誰でも簡単に打てる逆転ホームラン施策はありません。
広告予算はかからない(競合よりも少なくて済む)、らくちん、簡単、誰でもできる、すぐに始められて、すぐに成果が出る。そんな施策があったら、とっくに競合がやり始めていて、あなたは負けています。
予算が無いなら、知恵を絞る。体を動かす。面倒くさいから競合がやらないことをやって勝つなど、トレードオフで考えなければなりません。
その上で、ZMOT戦略に勝利し、Evoked Set(可能な限り第一位選択)を獲りに行く策として有効だと思うのが、ファンフルエンサーリレーションズだと考えています。
すでに1万字以上を使って、買ってもらうためには(買い続けてもらうためには)、想起集合(Evoked Set)に入り、かつできる限り第一位選択ポジションを獲得することが有効であることを説明しました。
しかし、たいていの場合、第一位選択ポジションは市場リーダー(マーケットシェア一位)のブランドが獲ってしまっている(だから売れている)。
弱者(市場シェア二位以下)のブランドはどう戦うか。そりゃもう予算の限界まで広告による露出を増やすか、素晴らしいブランドであることを伝えるイカしたブランドムービーをつくって大量に配信するかみたいな手段しかありません。
でも、それじゃまったくおもしろくないし、ジャイアントキリングは起こせない。
広告(Paid Mediaの)効果はどんどん落ちてきている。代わりに、第三者的・中立的な広報的メッセージが高い信頼性を獲得し始めている(Earned Media)。そして、Shared Mediaによって自分と同じ消費者から利害関係のない情報が発信され、信頼を得ている(Shared Media)。
だから、インフルエンサーマーケティングに注目が集まる。でも、この記事でも書いたように、従来型のインフルエンサーマーケティングは限界を迎えつつあります。
だからこそ、TMOTにいる既存顧客(ファン)の中からファンフルエンサーを見つけ出し、報酬と契約によらない中長期的な信頼関係(リレーション)を構築し、ZMOTの中に頻度高く良質なクチコミを生み出し続けることを手伝ってもらう。
インフルエンサーによる投稿はフィーの支払(契約満了)とともに行われなくなります。
発信される投稿は1~3つ程度。それでは、さきほど説明した(重要指標である)フリークエンシーは獲得し続けることができません。
でも、ファンフルエンサーなら、ファンですから、持続的に投稿をしてくれます。そして、フォロワーの意識・態度・行動変容に影響を与え続けてくれる。
これらファンフルエンサーリレーションズの活動により、Evoked Set入りを目指す。
もちろん、それ以外の方法だってたくさんあるでしょう。そして、ファンフルエンサーリレーションズだけで簡単にEvoked Setや第一想起を奪取できるほど簡単な勝負ではありません。
でも、広告予算の大小によって大方の勝敗が決まってしまう弱肉強食の世界の中で、シェア2位以下のブランドが(限られた経営資源の中で)有利に戦い、局地戦でも勝利をおさめるためには、ファンフルエンサーリレーションズは有効だと思っています。
購買プロセスやカスタマージャーニーからは見えて来づらいブランドカテゴライゼーションの枠組み、いかがだったでしょうか。
ぜひ一度、自社のブランドがEvoked Setに入っているかどうか、調査してみてください。
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長文を読み切ってお疲れのところ申し訳ありませんが、続編があります。体力が残っている方はぜひ。
続編の続編も書きました。
そして延べ2022年2月に延べ15,000人に対して実施したEvoked Set調査を公開しました!興味深い内容になっているので是非見ていってください!
2022年6月20日に(本記事の内容も入った)『売上の地図』(日経BP)を出版しました。こちらもぜひ!
(2024年1月4日 追記)
この記事が本になりました! 2024年1月17日出版です。売上の因果構造を整理した『売上の地図』と、マーケティングのファネルマップを整理した『マーケティング「つながる」思考術』を2冊併読していただくと、マーケティングの〈点⇄線⇄面〉がつながって効果てきめんです。ぜひ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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当社(トライバルメディアハウス)では(池田がフルコミットして)マーケターの「知る→わかる→できる」を支援し、マーケターの成長やキャリアアップを実現するためのオンライン無料学習サービス「MARPS(マープス)」を提供しています。会員登録するだけで、池田+豪華ゲストのコンテンツをすべて無料でご利用いただけます。マーケティング担当者が抱える、現場で発生しがちな課題解決を助ける学習プログラムがてんこ盛りですぞ!どんな学習プログラムを提供しているのか、まずは以下リンクからチェックしてみてください。マーケティング全体を”体系的に”学びたい方、お待ちしてます〜!
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