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奥野他見男著『ハルピン夜話』 満州にロシア気分を味わえる旅行先があった。

全世界中ハルピンほど市民を挙げて性欲を讃美している都はあるまい。
彼らは昼至らば夕べを待ち、夕べ至らば闇を待って、終夜を喜びに明かしている。
街ゆく美しきロシア娘は双手を挙げて旅人を止め、カフェー・公園皆これ淫蕩の囁きたらざるはない。
著者は最近その見聞より帰りて興趣措く能わず、かの軽妙比なき筆致をもて、最も大胆に異国人の肉欲を描写せるもの本書なり。
その面白さ又露骨さ、読者はハルピンの夜の世界に思わず恍惚たる者あるべし。

当時の広告より

Kindle電子書籍 奥野他見男著『ハルピン夜話』(初出1923年)より一部を抜粋して公開します。


あゝハルピンよ

 おゝ何という華やかな気分であろう。おゝ何という明るい晴れやかな気分であろう。私はこのハルピンが嬉しゅうてならぬ。胸がピョンピョン刎(は)ねあがる。血がワクワク躍ってくる。美しきかなハルピン。ハルピンは歌っている、輝いている。実(げ)に東洋の楽天地!
 街から街へと、微笑みを双頬(そうきょう)に浮かばせながら、いとも快活に、楽しく歩み行くあの多くのロシア娘は、何という私には嬉しい感激であろう!
 日本より一歩も外へ出なかった私には、あらゆる物に飛び付いてみたい程うれしい。
 異常なる興奮よ、高らかなる音楽よ。
 いでや、私は今それを書き出して行こう。


目次

  • あゝハルピンよ

  • 一夜千金の歓楽郷

  • カフェーの女

  • 夜の公園

  • 秘密室

  • 深夜の享楽

  • 夜の一時二時頃

  • 二人の世界

  • 快き人々

  • 床屋さん

  • 美しき母娘

  • 晩餐の招待

  • 珍しき話

  • 純ロシアの家庭へ

  • 恍惚たる美女

  • 一代の豪華

  • 日本の芸者

  • 赤裸々の群れ

  • さようなら

編集後記  井川夕慈


(続きはKindleでお楽しみください。)

奥野 他見男(おくの たみお)
明治22年~昭和28年(1889~1953)
小説家。本名 西川他見男。金沢市生まれ。金沢医専薬学部卒。在学中「北国新聞」に『凸坊の日記』(明治43年)を連載。上京後、『大学出の兵隊さん』を刊行(大正6年)、一躍流行作家となる。以後、「婦女界」「主婦之友」などに執筆し、あらゆる流行語を用い、新風俗を描いた作品を発表、ユーモア小説の草分けとなる。


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