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『新税・悪税・良税 一九八八年の国会会議録に学ぶ「消費税はいかにして始まったか?」』

井川夕慈のKindle電子書籍『新税・悪税・良税 一九八八年の国会会議録に学ぶ「消費税はいかにして始まったか?」』より一部を抜粋して公開します。


はじめに ~一円玉の記憶~

 日本で消費税が始まったのは1989年4月1日だった。
 その時、私は小学4年生だった。
 母親とスーパーマーケットに買い物に来ていた。
 レジで、一円玉を使ってお釣りがやりとりされた。
 それを目の前で見ていた9歳の私は、生意気にもこう言った。
「そんなの、意味あるの?」
 店員のお姉さんは苦笑していた。
 当時、モノの値段は100円刻み・10円刻みが普通だった。
 日常生活で一円玉を使うことは、まず無かったのではないかと思われる。

 そんな学童期の私のあやふやな記憶は、誤りではなかったようだ。
 なぜなら消費税法案を審議する国会の会議録の中に、次のような発言を見つけたからである。
 委員会に参考人として呼ばれた中村久瑠美なる弁護士が言っている。

中村 消費者の立場から申せば、100円、200円のものにはひとつ税を御免除いただきたい。せいぜい1万円以上のものには3%ついても、100円買って3円だ、40、50円のものを買って1円か2円か、こういう煩雑なことは消費生活にとって耐えられません。
 先生方の中にはいわゆるスーパーマーケットのレジにどのくらいお並びになったことがございますか。私ども仕事を持つ母親は、仕事を終わって帰ってくる。そして帰りに、子供がおなかをすかせておりますのでスーパーで早く買い物がしたいのです。列はもう長蛇の列でございます。ここに消費税が入りましたら、また100円が103円になり、一円玉を転がして、レジはどんどん長蛇の列になるんです。このような日常生活というものも、やはり消費税が余りに細かいことを言い過ぎるからではないか。これは素人の論理かもしれませんが、できましたらせめて1万円以下のものは税金をかけない、これぐらいの配慮も考えてみていただいてはどうかなと、こう思っております。

1988年12月17日 参議院・税制問題等に関する調査特別委員会

「一円玉が転がる」
 私の記憶は誤りではなかった。
 ただしこの主張は、電子決済が珍しくなくなった今日においては説得力を欠くかもしれない。

 消費税はどのようにして始まったのか?
 財政は悪化の一途をたどっている。
 今後、消費税の税率引上げが議論される時が、いつかは来るだろう。
 その時のために、そもそも消費税はどうやって始まったのかを知っておくことも無駄ではあるまい。
 そう思って、書籍・国会会議録・新聞にあたって調べてみた。
 その結果、ああ、こういう感じで入ったのだな、という感覚がおおよそ掴めた。
 この感覚を、消えないうちに保存しておきたい。
 また、国会審議では興味深いやりとりがされていたことも分かったので、当時の政治家たちのナマの言葉を活かして、手軽でありながらも面白い読み物にもなるように保存してみたい。
 それが本書を作ることにした理由である。

 消費税が導入された当時はまだ子供だった私のような世代の方々、あるいは、「生まれた時から消費税でした」という私よりも若い世代の方々にとって、多少とも参考になれば幸いである。



(続きはKindleでお楽しみください。)

消費税法案が成立した1988年、首相はこの人でした。

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