見出し画像

演劇のリスク管理

コロナの影響でイベントの中止が日常になっています。

今後公演を控えている劇団も大変です。自粛期間が終わったとしても、一人でも体調不良が出れば、公演を考えなければなりません。

演劇やライブ等はリスク管理が難しい芸能です。

「体調不良の人がでたら、すみやかに代役を」などと言われても、そう簡単に替えるわけにはいきません。

「舞台の8割はキャスティングで決まる」なんて言う言葉もあるほど、誰がその役を演じるかというのも重要視されます。

大きな劇団であればダブルキャストやアンダースタディ(代役をやる人)を準備していたりしますが、小さな劇団にはそんな余裕はありません。

イベント保険もありますが、そもそもそんな保険があることも知らない、知っててもそこにかける予算など無い劇団もたくさんあります。

では、今まではどうしていたんだ? という話です。

多少の体調不良であれば、そのまま舞台に立っていました。

9割これです。

医者から入院と言われたのに言うこと聞かずに舞台に立ったり、事故で骨折しているのにギプス外して出たりなど、そういった話題には事欠きません。

昔は「役を奪う」「役を奪われる」という意識が強くありました。

「この役は私のものだ、誰にも渡さない」

「あの役は私のほうが上手くできる。だから奪ってやる」

自分以外の役(特にやりたかった役)の台詞を覚えている役者もたくさんいました。
メインの役者に何かあったら、取って変わってやるという発想があったからです。

公演に出演しない劇団員も稽古に参加していて、稽古を休んだ人がいたら進んで代役を名乗りでました。(だからメインの役者は稽古を休むことができませんでした。自分の役を守るためにです)

そうしたことが結果的に、有事の際の代役を補う形になっていました。

このような話を「昔の役者は貪欲だった。それに比べて今の若いもんは」というのは違うと思います。

これは環境の問題です。

昔と今では稽古場の環境が違います。

演劇の稽古場とは、かなり閉鎖的な空間です。そこでは演出家が絶対的権力として君臨します。

そして出番が少ない役者は稽古中、暇でした。

だから他人の演技を見て、何かを学ぼうとしたり、他人の台詞をおぼえることに時間を使っていました。代役での稽古でも、それは演出家へのアピールタイムでした。

今は違います。出番の無い役者はスマホいじってます。

なんなら、自分の出番がない稽古は来なくてもいい。来る必要はないと考える人も増えました。
(効率化という観点で見ると、これは正しいことです。やることもない人間を稽古場に拘束する必要はありません)

自分は演劇の稽古場はスマホ持ち込み禁止にするべきだと思ってますが、現実は難しいです。

なぜかというと、便利すぎるからです。

わからないことは、すぐに調べることができる。
プランナーにすぐ連絡もできる。
音楽だってスマホで出すし、SNSの宣伝用に写真を撮ったり、何ならTwitterで呟きもします。(たまに、アプリゲームで遊んでるやつもいますが)

稽古場という閉鎖されていた空間は、スマホの登場で外に開けた場になり、情報発信の場になりました。

そして閉鎖的空間でなくなると、演出家は権力を失いました。
(稽古中に役者の演技よりも、スマホ見てる時間のほうが長い演出家なんてのもいたりします)

効率化とシステム化していくことによって、逆にリスクに弱くなってしまったのです。

だからといって、今の時代に

「出番の無いやつも、もしかしたら代役で出るかもしれないから稽古に来て台詞を覚えておけ」

とは言えません。

それこそ手塚治「七色インコ」のような代役専門の役者がいたらよいのですが

演劇という芸能はどのように効率化し、進化していくのが正解なのか、難しいとこです。


サポートして頂けると、クリエイター冥利につきます。でも、決して無理はなさらないでください。