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本業を活かした小説だからこそ、共感を得られる。ミネムラコーヒー(Web小説家)

ブラック企業に勤める主人公がGoogleスプレッドシート(Googleが運営するエクセルのような表計算ソフト)上に転生し、そこで課されるクエストに挑んでいくー。

流行りの異世界転生ものでありながら、転生先がまさかの表計算ソフトという斬新な設定で、小説投稿サイト「カクヨム」で投稿されると、たちまちランキング入り。SNS上でも話題となった「転生したらSpreadsheetだった件」。その作者のミネムラコーヒーさんはWebディレクターとして会社に勤めながら、この作品を書き上げた。彼はなぜ、この作品を書こうと思ったのか。今回は、その意外なスタートと、小説を書いたことによって得られた新しい発見と未来について聞いた。

<Profile>

ミネムラコーヒー

1988年大阪府生まれ。京都大学を卒業後、東京のネット広告関係の会社に入社。現在は京都で仕事をしながら、シェアカフェの店長になったり、ブログ執筆などを行う。去年、カクヨムで発表した「転生したらSpreadsheetだった件」はWeb小説としての処女作である。


本業でエクセルを使っているからこそ、この作品が生まれた。

ー小説投稿サイト カクヨムで発表した「転生したらSpreadsheetだった件」は、ご自身でも初めて書き上げた小説だったそうですが、この作品を書くことになった経緯を教えてください。

実は、小説を書いたのは、思いつきというか、成り行きなんです(笑)

インターネット文化で、アドベントカレンダーという、12月1日から24日まで、テーマを決めてリレー形式でブログを書くイベントがあります。僕は仕事でよくGoogleスプレッドシートを使っていて、社外でもちょっとした技術コミュニティを作っていたので、2018年はGoogleスプレッドシートとエクセルをテーマにしたアドベントカレンダーを主催したんです。その企画が蓋を開けてみたら、1ヶ月中の10日分くらい埋まらなくて・・・(笑)そんなにブログに書く技術ネタないな・・・って困っている時に、小説投稿サイトのカクヨムを見ていて、小説にすればいいじゃん!って思いついたんです。そこが小説執筆のスタートでした。だから、自分が小説を書くことになるなんて、思ってもみなかったんです。

ー「転生したらSpreadsheetだった件」は主人公がGoogleスプレッドシートのシートに転生するという斬新な設定が話題を呼びました。この設定はどのようにして思いついたんですか?

まず、アドベントカレンダーの企画でGoogleスプレッドシートをテーマにする、という前提があったので、Googleスプレッドシートを主題にすることは決まっていました。異世界転生ものにしたのも、流行していたから、というのが大きな理由ですね。僕にとって、この小説を読んで、読者の方がGoogleスプレッドシートについて知見を深めてもらうことが重要だと思っていたので、ストーリーを展開しつつ、Googleスプレッドシートの面白さや、便利さを伝えることに力を入れました。

ー「転生したらSpreadsheetだった件」は普段からエクセルやGoogleスプレッドシートを駆使して仕事をしているプロからも反応が多かったとか。

ただ研究成果を発表するブログよりも、小説の方がエンタメとして成立するように悩みながら書いている分、同業者であるプロの方から、「勉強になった。面白かった」「新しい発見があった」というような声をもらうのは、素直にめちゃめちゃ嬉しかったですね。実際のところ、エクセルを仕事で使っていないと話題についていけないようなマニアックな部分もあるんです。

ーなぜ、あえてプロをターゲットに設定しようと?

エクセルに詳しい人をよくエクセル職人って言うんですが、職人同士って、お互いに交流がしにくい、閉じた世界なんですよ。普段は個人個人がひたすらエクセル向き合って仕事をしている。だからこそ、エクセル職人の横のつながりを小説で表現したかった。エクセルの難しい専門用語などは、あえて噛み砕かずにそのまま使って、エクセルのあるあるなんかも盛り込むようにして、クスッと笑えて、プロが「こういうことあるよねー」って共感してもらえるような作品になるよう意識しました。僕が本業でエクセルとGoogleスプレッドシートを使ってきたからこそ、生まれた作品になったんだと思います。

書き上げた小説が、自分の名刺代わりになった。

ー作品を書いている時の執筆ペースは?

土日や、仕事の昼休み、終業後に書いたりしていましたね。

カクヨムにはコンテストがあって、それの締め切りが2ヶ月後だったんです。どうせ書くなら、それに応募してみようと思い、応募要件の10万字を書かないといけなくなりました。だいたい1日1500文字がノルマになるのですが、ブログは普段書き慣れているのですが小説となるとまったく勝手がわからず、めちゃくちゃしんどかったですね(笑)でも10万字を書き上げた瞬間の達成感はものすごかったし、残念ながら、コンテストは中間選考突破までで、受賞は逃してしまったんですが、一つの作品を完結させたことはとても自分の中で大きい経験でした。

ー小説を書きはじめてから、生活にどんな変化がありましたか?

僕はもともと、仕事以外の時間は退屈な生活を送っていたんです。休日も、家でゴロゴロ映画を見たり、ドラマを見たりして過ごすことが多くて、仕事をしていない日は退屈だな、と思っていたんです。小説を書くのは、時間を有効に使えていると感じることができましたし、自分が作ったものに反応をもらえることも嬉しいですし、いつのまにか小説執筆に夢中になっていましたね。

それに、ありがたいことに、「転生したらSpreadsheetだった件」はカクヨムですぐにランキング入りして、SNSでちょっとした話題にしてもらったんです。それによって、小説が自分の名刺代わりとして機能してくれるようになりました。

ー小説を書きたくても、仕事をしながらでは、なかなか最後まで書ききれない人が多いと思います。ひとつの作品を完結させた今、ミネムラさんは書き上げるために大切なことはどんなことだと感じていますか?

コンテストに応募して、自分でずらせない締め切りを作ってしまうのがいいんじゃないでしょうか。僕も結構、飽きっぽい方なので、習慣化するのは苦手な方だったんです。でも、今回はカクヨムのコンテストに応募してしまって期間中に10万字書かないといけなくなったから、書ききることができました。この目標がなかったら、僕も書き続けることができなかったと思います。だから、今、小説を書ききれていない方は、コンテストに応募すると決めて、自分を追い込んでみるのがいいんじゃないでしょうか。

ーWeb小説家としてこれからの目標を教えてください。

紙の本として小説を出版してもらうことですね。異世界転生ものはライトノベルのレーベルから出版されるのが一般的だと思いますが、僕は「転生したらSpreadsheetだった件」を実用書として読んでもらいたいと思っているんです。実用書の棚に並べられて、ライトノベルを楽しむように、Googleスプレッドシートに対する知識を深めて欲しい。技術系の実用書を多く発行している出版社から出してもらえると嬉しいですね。

あとは、今は京都に住んでいて、京都という街が好きなので、京都市が主催している京都小説賞を目標に新作を書く予定です。

書く楽しさに気づいた今、もっと表現の幅を広げていきたいですね。

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