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全国すべての”店員さん”を応援したい

ちょっと真面目な話。

靴屋の店員、コンビニ店員、ドラッグストア店員、印刷屋店員、深夜スーパー店員、なんだかんだでアルバイトで6年ほど、正社員で10年ほど店員という仕事の経験があります。

お客さんが喜んでくれるのが嬉しいとか、人と接するのが好きだという理由で店員という仕事を選んでいる人もいるのかもしれませんが、私はそんなことを思ったことは一度もありません。私が勤めていたような店の場合に限った話ですが、誰でも簡単に雇ってもらえるから勤めただけです。

すべての店員さんを応援したい

私にとっては今思えば本当につらい仕事でしたから、かれこれ10年以上前を最後に店員という仕事から離れて、今後もやるつもりはありません。店員をやるくらいなら野垂れ死にしたほうがナンボかマシです。

しかし、というかそれだけにというか、私は店員さんを応援したいんです。

店員経験者は店員さんに優しくなる

店員の経験がある人は店員さんに優しくなれるというのは、店員経験者あるあるです。店というのはほとんどの場合来るもの拒まずで、いつ誰が入ってくるかわからず、いわゆるクレーマーみたいなキツイ奴の相手を強いられることもザラにあることなんです。

全国のすべての店員さんはそのことに気をもんで毎日仕事をしているんです。だからせめて自分だけでも、店員さんに必要以上の負担を与えない客でありたいと思うようになるんです。店員経験者の方ならわかりますよね。

店員という仕事のつらさ

店員という仕事から離れてすぐの頃に強く感じたのは、自分のペースで仕事ができることのありがたさです。普通のサラリーマンの人でも、顧客の問い合わせへの対応などを抱えている時に、それに振り回されて仕事がはかどらないという経験はおありでしょう。店員さんは勤務中ずっとその状態なんです。しかも客はリアルに店内や眼の前にいるわけですから、気が休まることがないんです。これがつらいんです。

客というのはパソコンの中の書類や生産している製品などと違って、いつもと同じように仕事をこなしたからといっていつもと同じように処理できるとは限らないんです。人間だから。あくまで仕事は客のペースに合わせて進める必要があり、クレームみたいなことがなかったとしても想定どおりに処理できないケースがザラにあり、しかもそれが毎日ずっと続くんです。

店員経験者と未経験者の感覚の違い

店員を経験すると、世の中にはいろんな人がいるということを痛感します。「いろんな人がいる」という表現じゃなくて、現実を的確に表す言葉に言い換えると「ヘンな奴が超多い」ということです。店員未経験者でもそれは想像することでしょうが、その想像の何倍も、何十倍もヘンな奴は多いんです。

漫才で客側がボケという設定のネタに出てくるようなヘンな客が現実にいるんです。それもびっくりするほど高い頻度で遭遇するんです。店員未経験者は「それは話を盛りすぎだろう」と思うでしょうが、経験者にとっては当然のこととして認識されている常識なんです。このくらい認識の差が大きいんです。これは大事な前提ですから覚えておいてください。

先日ラジオを聞いていたら、パーソナリティがこんな話をしていました。

コンビニでレジが行列になっているときに順番の割り込みをした客がいて、それを店員さんが見ていたはずなのに放置していてこれはおかしいと思った。そこでパーソナリティ氏は割り込んだ客を注意し、これは店員さんがしっかり注意すべきだと思って、割り込んだ客にはもちろん店員さんにも腹が立った。

これは店員経験者ならパーソナリティ氏の想像力の欠如を簡単に指摘できる事例です。

レジが行列するほど混雑している状況において、店員さんは会計を速やかに処理することで手一杯、ここで割り込みを注意して逆ギレされた場合、その対応でただでさえ忙しいレジ業務に多大な支障が生じるので、やむなくスルーしてレジを優先したという話です。

店員さんはパーソナリティ氏が割り込みを注意した瞬間、客同士のトラブルの種をもうひとつ増やしてくれたなと思ってヒヤヒヤしたはずです。割り込みスルーがベストな対応だとはさらさら思ってませんが、その状況では仕方のない現実的なベターな対応を取ったということで、そこを批判するのは店員さんには酷です。

店員さんの精神をすり減らすヘンな客

ひとつひとつの事例を上げていくとキリがないんですが、たとえばレジという場面でいうと、イヤホンつけたまま会計、携帯で話しながら会計、手をレシートから逃がす(?)、店員さんがなにか聞いても反応しない、こういうのが無自覚なヘンな人で、悪意があるわけではないせいかかなり多いと思います。

店員さんを自動販売機と同じだと思っているからそういうことになってしまうんだと思います。心の根っこで店員さんを下に見ているからそういうことが平気でできちゃうわけです。私としては許しがたいことなんですが、悪意はないんですよ、きっと。だから仕方ないとも言えますし、タチが悪いとも言えます。これはどっちかというと消極的タイプのヘンな客で、けっこうな頻度で遭遇します。

恐怖のモンスターに屈辱を与えられる

積極的なタイプのヘンな客は、いわゆるクレーマーのことを指します。これは消極的タイプよりも頻度は低いですが、言うまでもなく破壊力は強いです。

日本の文化では店員さんはへりくだった態度で客に対するのが当然となっており、そこを変えることは今さら無理です。それを勘違いして、店員さんのことを下僕だと思っている奴が多く、その中の一部がモンスター化するわけです。下僕ごときが俺様の理想的な対応とは違う対応をしてきやがった、生意気だという気持ちにでもなるんでしょうか。

店員さんは職を失いたくないという恐怖があるので、モンスターが暴れだすと頭を下げるわけです。心の中ではこのクズがと思っていようとも、とにかく嵐が過ぎ去るのを待つことが被害を最小限にとどめる方法だということを経験から知っていますから、頭を下げてやりすごそうとしているんです。

しかしモンスターは自分の方がエライから頭を下げられていると思い込んでいますから、人間関係としては最悪の場面がここに生まれるわけです。店員さんのダメージはすさまじいものです。恐怖をを人質に取って店員さんに屈辱を与える、許しがたいことです。

正当なクレームの場合の話はしていませんからね。おわかりだと思いますが。

消極的タイプ、積極的モンスター、どちらのパターンにおいても、店員さんのことをひとりの人格として認識していれば、多少トラブったとしてもそこまでひどいことにはならず、互いに正常な人間関係のもと店員と客という役割を全うできるはずなんです。

消極タイプだろうとクレーマーだろうと、性根の部分で店員さんを見下す奴がイコール、ここで言うヘンな客ということになります。

経験から学んだ店員としての地獄回避術

スーパーとかコンビニみたいなタイプの店の場合の地獄回避の効果的な方法は、残念ながら答えがみつかりません。最大公約数の客にとって感じのいい対応をすること、それが答えなんでしょうが、まず客数が多すぎますし、顔立ちとか声質みたいな不可抗力によってそれができるできないには個人差があるんですから。

しかし私が最も長く勤めた印刷屋の店員時代には、経験とともに危機回避術を身につけることができました。つまり、販売メインの店員仕事というより、サービス業的な接客メインの店員仕事の場合という話になります。

印刷屋はスーパーやコンビニのようにいろんな人が入れ替わり立ち替わり、日に何百人も来店するのと違って、客数が少ないしサービスの説明やおすすめがメインの仕事になりますから、ひとりひとりの客に対してより密接なんです。

そういった現場で地獄を回避する、というか未然に地獄に発展する確率を下げておく技術があるんです。接客が密接な分、本来の自分の性質はこの際引っ込めて、それぞれの客の反応を見てそれに合わせて感じのいい気さくな店員を演じ切るわけです。(難しいですよ、これは。経験が必要です。)ちょっとクセの強そうな客の場合は特にその作業に早めに取りかかります。

ザックリ言うと(表面上でも)仲の良い気さくに話せる常連客を増やすことです。サービスメインの店に繰り返し来るような客の一部には、モンスター化する可能性を秘めた人も含まれており、その爆発を未然に回避する方法は(表面上)仲良くなるということ、これに尽きるんです。

その状態に持っていければ、多少客側に不満が発生したとしても「アイツには怒れないな」みたいなことになって助かる場合が出てくるわけです。ここまで来れば、仮にミスをしてしまって完全にこっちに非がある場合でも助かっちゃうことも。

これは客数の少ない店限定ですが、私がそれほど精神を病まずに乗り切れた重要なポイントとなった技術です。

相手を思いやる気持ち

客としていろいろな店を利用して、店員さんの応対に不満を感じることは誰でもあるでしょう。ここまで長々といろいろ書いてきた私にだってそういうケースはあります。ただ、店員さんだって人間で自動販売機でもAIでもないということを認識していれば、わざわざ腹を立てたりトラブルを引き起こしてしまうことはほとんどないはずです。

例を上げると、私がよく利用する店の店員さんで、声が小さくてよく聞き取れない人がいます。もっと大きな声でハッキリしゃべってくれと不満に思うことは事実ですが、悪気があって声が小さいわけではないんですから、イラついた素振りを見せることは大人げない、恥ずかしいことだと思うべきです。また別の店の店員さんはいつも仏頂面ですが、これも悪意があってのことではないと思います。そういう顔立ちなんだから仕方ないです。

店員さんの方は不特定多数の客を相手に仕事をしているわけですから、私にとって不満に感じる対応だったとしても、それはもしかしたら最大公約数の客にとっては満足な対応であり、私の方がマイノリティなのかもしれないと考えるべきです。

自分本位にならず相手を思いやる心を持つこと、これは客と店員さんというケースに限らず人間関係で最も大事なことです。これが自然にできるお釈迦さんみないな人はほとんどいませんから、我々は思いやりを強く意識して日々生活する必要があるんです。100%できなくても、少しでも心がけるだけでいいんです。

会社が店員さんを守る文化が定着しないことが問題

客と店員さんという関係で言えば思いやりの気持ち、これしか解決策はないんですが、考え方や感じ方は十人十色で限界があります。そこで大事なのは会社が店員を守るということです。

多くの店においてトラブルの矢面に立たされるのは末端の立場の店員です。弱い立場で懸命に頭を下げて屈辱に耐える、これは本当につらいことです。そうそう辛抱できるものではありません。

店の責任者はそういう場面ですぐに助けに入らなくてはいけませんが、オーナーならまだしも雇われ責任者の場合は自身も職を失いたくないという恐怖と戦わなくてはいけませんから、末端の店員よりもむしろ条件は厳しいです。

そこで必要なのは会社が後ろ盾になってスタッフを守るということです。私が働いていた会社のように、その体制がまったくできていない場合はスタッフは命がけで割の合わない対応を強いられるわけです。この屈辱感、無力感、本当にヘコみますよね。

会社が守ってくれないのであれば、店員さんによっては仕事を続けられなくなってしまうでしょうし、場合によってはひとり屈辱に耐え続けて病んでしまう人もいることと思います。これは恐ろしいことです。

全国の店舗運営会社は、そのことを強く肝に銘じるべきですし、それができない会社に店を開く権利はありません

偉そうなことをつらつら書いておいてお前は何をしたんだと言われると、店員をやるのがイヤになって逃げただけなので苦しいところですが、せめて全国の店員さんたちを応援したいと思いこのテキストを書きました。

互いを思いやる気持ち、会社がスタッフを守る文化、これによって店員さんが頑張れる世の中になってくれることを強く願います。

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