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「幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない」心理療法ACTの入門書を読んだので感想なのだ。


「幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない」

 ラス・ハリス著「幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない」を読んだ。認知行動療法の一種である心理療法ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)の入門書だ。

 以前に一度読んだことがあるのだが、認知行動療法におけるマインドフルネスの効能を再確認したくて再読。

 本書の内容を簡単にまとめれば、「ネガティブな感情をコントロールするのではなく受け入れ、感情に左右されることなく、理想の自分が思い描く価値観に基づいた目標に向かって、今ここを大切にしながら有意義に人生を生きよう」って感じになる。

 「理想の自分が思い描く価値に基づいた目標に向かって有意義に人生を過ごそう」ってのは自己啓発本によくある話だけれど、本書のポイントは「ネガティブな感情をコントロールするのではなく受け入れて、感情に左右されずニュートラルに判断できるようになろう」ってところだと思う。

 ACTの特徴は仏教の坐禅、認知行動療法のマインドフルネス瞑想と近い考え方だと思うんだけど。目を瞑り、呼吸に集中して、湧き出てくる様々な感情を良い悪いと判断することなく、車窓を流れる風景のように淡々と眺めることで思考と距離をとり「今ここ」にある身体感覚に意識を集中するってところ。

 人は「言葉」を使うことでこの世界のあらゆることを分析し思考できるようになった。「言葉」によって「過去と未来」を想像できるようになり、過去の失敗から学び、未来の危険を予測できるようになることで生き延び、進化してきた。でもそのおかげで「今ここ」の世界に集中して生きることが難しくなった。

 チンパンジーは片腕が無くなっても、悲観的にならずに生きることができるそうで。それはチンパンジーには「過去と未来」はなく「今ここ」しかないから、片腕しかないならその現実を受け入れて生きるだけです。一方人間は「言葉」によって「過去と未来」を想像してしまいます。昔は両手があったのに、この先も片腕で生きなければならないのか、他の人間は両腕があるのになんて悲惨なんだ。と悲観してしまうのです。
 
 そうした「言葉によって生み出された不安」が行き過ぎると情緒不安定になり、ストレスによって適応障害やうつ病に発展してしまいます。特に現代社会で生きる人々は日々大量の情報に晒されていますから、原始時代とは比べ物にならないくらいの「不安」を抱えて生きている。だから「言葉」によるネガティブな感情から距離をとってニュートラルに物事を判断しましょうと言うのがACTの基本思想です。

 ACTでは感情を天気に例えています。雨だったり曇りだったり晴れだったり、人間がコントロールすることはできません。一方上空の成層圏には雲一つない空が広がっています。この不変の成層圏を、ACTでは感情の浮き沈みに左右されずに感情を観察できると言う意味で「観察する自己」と呼んでいます。

 ネガティブな感情が湧いてきたら、目を瞑り呼吸に集中します。感情は天気と同じですからコントロールはできません。雨が降っているなら雨がやめ!と願うのではなく、それを受け入れるしかないのです。「観察する自己」の視点から今こんな感情が湧いているな、と観察し、心の中にその感情の置き場を作り、そっと置いてやります。その感情の良し悪しは判断しません。ただそこにあるだけです。

 ここで自分の理想の「価値」に基づいてこう考えるわけです。ネガティブな、今頭の中をぐるぐる回っている不安な気持ちと距離をとれたら、自分は何をしたいと思うだろう。なぜなら「感情」と違い「行動」はコントロールできるから。

 「行動」によって一歩踏み出すことができたら、現実が変わります。ネガティブな思考に囚われていた場所から少し移動できるのです。そうするとまた様々な感情が湧いてきます。何度か繰り返すうちにネガティブな感情を脱し「今ここ」に集中することができるようになります。こうした一歩踏み出すためのテクニックがACTってわけです。

 ふーんなるほどねぇ、って感じですが、実際こんな簡単にはいきませんよね。例えば度を越えたイジメやパワハラなど、甚大なストレスを受けている場合、マインドフルネス瞑想っていったって限界があります。現実的に被害を受けている場合、環境を調整しなければ心身の健康を保てない状況も必ずありますから、あくまでケースバイケースだと思います。

 ただ、ぼんやりとした将来に対する不安や、自己肯定感が低く行動に移せない場合などは有効かと思います。人は過去に失敗を経験すると今後も同じことで失敗するのでは?と悲観的になりがちです。現在孤独なら将来も孤独なのではないか?と予測したりもします。こうした「過去と未来」を想像することで湧き上がるネガティブな感情は無根拠の予測に過ぎません。

 100回振られたとしても101回目のプロポーズが成功するように(そう言うドラマもありました)未来は予測できません。なら、自分の理想の価値観に基づいて行動してみたっていいじゃないか、というかそれ以外に何がある?そう思います。

 そのためにはまず袋小路に陥ってぐるぐる同じところでネガティブなことを考え続けることをやめなくてはなりません。考え過ぎて何も行動できない、自分は何をやってもうまくいかない、なんて思うなら、ACTは有効な手段だと思います。認知行動療法でも瞑想は有効ですしね。


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