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織り、染め、ほぐし、また織り直す。1ヶ月半かけてつくられる、舟久保織物のニュアンス深い傘たち

ー作り手

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山梨県富士吉田市。その名の通り富士山の麓に広がるこの地は、その豊富な湧き水を使用し、1000年以上も前の平安時代から織物の名産地として知られてきました。その地で大正13年に創業したのが舟久保織物さんです。現在では主に傘生地の製造・販売をされています。

舟久保織物さんの傘の最大の特徴は「ほぐし織」の生地です。「ほぐし織」は経糸(たていと)に、仮の緯糸(よこいと)で一度生地を織ってから型染めをし、その後に仮糸を抜いて本緯糸で織り直すという技法です。この際、経糸を「ほぐし」ながら仮糸を抜くことから「ほぐし織」と呼ばれています。

織って、ほぐして、また織り直すという、通常よりも倍以上の手間がかかる技法ですが、織り直しの際に経糸が微妙にずれることで水彩画のような「ぼかし」や「にじみ」が生まれ、他では表現できない魅力が生まれます。

また、髪の毛よりも細い5000本以上の糸を高密度に織り込まれることで、高い防水性を確保され、生地に光沢感が出てきます。そしてこの鮮やかな発色は、不純物の少ない富士山の湧水ならではだそうです。

マルサンカクシカク生地 水


舟久保織物さんの製造の様子や、ほぐし織についての詳しいご説明はこちらの動画でも見ることができます。動画の中頃には商品である傘たちのご紹介もされていますが、傘が開かれる際の美しさには見惚れてしまいます。


また、こちらは製造過程に特化した動画です。3分ほどの長さですが、ここに映っている工程全体の途方も無さを想像すると、気が遠くなってくるようです。


2012年、舟久保織物さんは新しく自社のオリジナルブランド「harefune」を立ち上げます。

「晴れの日も、雨の日も、傘をさす日を特別な日に。」というコンセプトと、製造元である「舟久保織物」の”舟”を合わせて「harefune」というブランド名になりました。

どこか無機質な景色になりがちな雨の日には、harefuneの傘の鮮やかな色合いで華やかに。晴れの日は、しっかりと日差しから守り、涼しく過ごしてほしい。晴雨兼用傘という商品を通して、天気にかかわらず、その日を特別に感じて欲しいという願いが込められているそうです。

ここからは少し「harefune」の傘をご紹介します。

キラキラと輝く鉱石の結晶をイメージした「マイカ」シリーズ

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名前は、モチーフである「雲母(mica)」から。美しい光沢を放つ生地は、薄く重なる雲母の層に光が辺り、キラキラと乱反射しているようです。
また、micaの語源であるmicare=「輝く」という意味から、晴れの日も、雨の日も、明るく楽しい時を過ごせるようにと想いが込められています。

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四季折々の表情を重ね合わせた、「菜園」シリーズ

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春のほくほくした土色に映える小さな黄色い花、夏の清涼な小川に雄壮と伸びる濃い緑、秋の豊かな実りや色づく木の葉たち、冬の霜の降りた地面やその下で力強く芽吹きを待つ種たち…四季の菜園がそれぞれが豊かなイメージを連想させてくれます。

カラフルな色彩と形が楽しい、「マルサンカクシカク」シリーズ

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まる、さんかく、しかくを積み木のように組み合わせたデザイン。シンプルな幾何学モチーフを扱いつつも、ほぐし織りの柔らかな表情も相まって、あたたかさと共にどこかユーモラスな印象を与えます。

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機能的にも強いこだわりで作られた傘たちは、”軽くて長く使える”を実現するために、厳選された素材が使用されています。

傘骨や手元などのパーツは丈夫で軽いものを国内で仕入れています。
傘骨:耐久性・耐水性・防水性に優れていることから、船材にも使われている木です。
中棒(シャフト):弾力性があり、軽量で耐腐食性にも優れています。車や建物など様々な分野でも使用されている素材です。
手元:清潔感のある色味と触り心地の良さが特徴です。衝撃や摩擦に強い木材です。

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傘の先(石突き)の部分が通常の傘よりも短くなっているのは、女性が傘に腕にかけた時、地面につかない長さにしているためです。傘を閉じた時のシルエットや、柄の見え方にもこだわり、持っているだけでファッションの一部になる傘だと思います。

ーものがたり

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「harehune」のブランド誕生のきっかけは、山梨県富士吉田市・西桂町の織物工場と東京造形大学の学生が共同で商品を開発するという産学共同開発企画、「フジヤマテキスタイルプロジェクト」でした。

そしてこのプロジェクトは、疲弊してしまった産地を盛り上げるためのものでした。

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大量生産の時代になってから、海外との価格競争が激化し、それに伴って、国内の生地が売れない時代がきてしまいました。富士吉田市・西桂町の織物工場はOEM生産(他社ブランド商品の製造)をメインとしていたため、取引先によって、生産量が大きく左右され、廃業していまう工場もたくさんあります。

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デザイナーのこだわりを最大限に表現するため、特注の傘パーツを仕入れ、納得の行く色合いが出るまで研究するなど、商品開発は妥協をする事なく進んでいきました。

長年のものづくりで修練された技術力を持った工場が、美術大学の学生さんの力を借りながら自分たちのブランドの生産・販売を行うようになり、「harehune」のようなユニークな商品がどんどんと生まれていったそうです。

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ー想い

長年日本のものづくりを支えてきた産地たちが疲弊してしまっている。それはここ富士吉田市以外でも、残念ながらよく耳にする話です。

その原因については既に色々な場所で議論がされているため取り上げることはしませんが、私たち使う側が「知ろうとする姿勢」を持つことは、この状況に変化を与える一つのきっかけになれるかもしれません。

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商品流通が高度に発達した現代に生きる私たちは、それがどんな風に作られているかまで知らなくても、ものを買うことができます。

可愛いから、流行っているから、有名なブランドだから。そんな理由だけでも、ものを選ぶには十分なのです。

しかし、そのものが生まれるまでに注ぎ込まれている作り手側の努力や、脈々と奇跡的に続いてきた技術の貴重さを理解する時、「ものを選ぶ目」は確実に変わります。

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見た目の可愛さや便利さの先まで見えた時、「使うこと」はちょっとした誇りにつながっていきます。

願わくば、そんな誇りを与えてくれるものを身の回りに置いて暮らしていきたい。それは結果的に、良いものづくりを支えることでもあるのです。


ー作り手情報

舟久保織物


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