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「ポテトサラダ」が美味しい居酒屋は、必ず繁盛する。

「ポテトサラダ」。

洋食では、ビフカツ、エビフライ、ポークジンジャーという主役を力強く支える千切りキャベツの横で、静かに出番を待っている“準脇役”的な存在である。

いてくれれば嬉しいが、いなくても、舞台にはさほど影響は出ない。

和食ではあまり姿を見せないが、セルフのご飯屋では、一番安い小鉢として、手に取ってもらえるのを待っている。

だが、「しらすおろし」や「わかめ酢」のような定番小鉢には勝てないでいる。

スーパーの惣菜売り場では、そこそこの人気があり、多くの仲間たちと整列しているが、各家庭の食卓に並ぶ時は、「何か一品足りない」という場合の臨時雇いである。

どの場面においても、あまり光を浴びることのない、淋しい存在。それが「ポテトサラダ」である。

だが、一カ所だけ、小さなスポットライトを当てている場所がある。

おじさんの聖地・居酒屋である。

「アヒージョ」が食べられるような洋風居酒屋でもなく、ワイングラスで乾杯するようなお洒落居酒屋でもない。

常連さんばかりが集まるような、街の片隅にある、カウンターが黒光りしている居酒屋である。

多店舗化せず、たった一軒を長く守り続けている店。老舗の風格などないが、客が世代をまたいで通っている。

そんな店に、スポットライトを浴びる「ポテトサラダ」がある。

もちろん、「おしながき」のトップにはこない。さりとて、単なる品揃えとして端っこに書かれているわけでもない。

属するジャンルがハッキリしないせいか、「おしながき」の後半、前の方にポツリと目立っていたりする。

この場所が、居酒屋における、「ポテトサラダ」のポジションなのである。

「メインとしてお奨めするわけではありませんが、ちょっと眼を留めていただければ、決して期待を裏切りませんよ」という主張なのである。客の眼にも留まりやすい位置である。

店としても、自信を持っているメニューなのである。

また、こういう居酒屋には、「ポテトサラダ」ファンが多い。いや、マニアと言っても良いだろう。

居酒屋の「ポテトサラダ」を食べ歩く人もいる。「ポテサラ酒場」という本が出版されていたり、「ポテトサラダ学会」という集まりもある。

それほど、居酒屋の「ポテトサラダ」は、静かに注目されているのである。

なぜ、居酒屋の「ポテトサラダ」なのか。

それはずばり、美味しいから。

居酒屋の「ポテトサラダ」は、店によって個性がまったく違う。

具材も違えば、調味料も違う。店それぞれに工夫があって、食べ歩きする人の気持ちはよくわかる。

惣菜として売られている「ポテトサラダ」は、世間からはやや軽く見られているが、実は非常に難しい料理である。

しっとりとしていて、ほくほく。具材の存在感を引き立てながらも、じゃがいもの旨さも消してはならぬ。

マヨネーズをケチるとボソボソになるが、多すぎると酸味がキツくなる。

さじ加減が難しく、料理の腕が試されるような存在である。だから、居酒屋ではさまざまな工夫で、美味しく作っている。

つまり、美味しい「ポテトサラダ」を作る居酒屋は、料理の腕も良いということになる。

「ポテトサラダ」でその店のレベルがわかる、と言っても良いだろう。腕が確かなら、他の料理も美味しいことは容易にわかる。

居酒屋は、どれだけ珍しい酒を揃えていても、それだけでは繁盛しない。やはり、美味しいものがあってこそ、「酒と肴」を楽しむ店となれるのである。

「ポテトサラダ」は、そんな店を見つけ出すための指標となる料理である。

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