若者の夢を砕く、「蛙の子は蛙」社会。

世界的に事業を展開する、ある大会社の会長兼社長が、現在グループ執行役員を務める息子2人について、「会長や副会長みたいなことをしてもらったらと考えている」と述べたことがあった。

社長職を世襲させるとの見方を否定するために、「本当に能力がある人が社長になるべきだ」と言ってはいるものの、子どもを優遇していることに変わりはない。社長は継がせないと言いながらも、会長か副会長である。

従業員は、子どもが入社した時点で「所詮個人商店か!」と思っていたかもしれないが、この発言を聞いて、どう感じただろうか。

落胆したかもしれない。嘆息を漏らしたかもしれない。世界的な企業として成長し続けている会社を築き上げた優秀な経営者と言えども、やはり親バカなのである。そんな思いが、決定的な確信に変わったことだろう。

どこの企業でもこうした問題はあるのだが、これでは若い従業員のモチベーションは下がってしまう。店員からの叩き上げで努力を重ね、幹部になりたい、社長になりたいと頑張っている人たちの戦意を喪失させてしまう。

社内に「頑張っても無駄」という空気を作ってはならない。頑張れば報われて、やがて夢は叶う。そう思うことができなければ、人は成長が止まり、努力をしなくなる。

すると、極端な場合、社会・世の中を批判し始める。そして、金持ちを妬むのである。金持ちの子どもは努力もせずに、後を継いで金持ちになる。貧乏な家に生まれた自分は、どう頑張っても金持ちにはなれない。と、ひがみ根性まで出てきてしまう。

だが、これは“一個人の性質によるもの”とも言い切れない。アメリカをはじめとして、日本でもよく言われることだが、「貧困の連鎖」が働いているのである。いわゆる「貧乏な家庭の子どもは貧乏になる」ということ。

貧乏故にまともな教育を受けられず、良い学校にも行けず、良い会社にも入ることができない。入れたとしても、出世を阻む存在すなわち金持ちの子どもがいて、そこそこの収入を得ることしかできないのである。

本人の努力の及ばない領域で、自身の人生が決まってしまうのである。妬みやひがみが出てくるのも仕方のないことかもしれない。社会の格差が広がるほど、こうした問題は増えていく。

「大物の二世でも、頑張ったからこそ成功している」とよく言うが、そもそも一般人とはスタートラインが違う。コネがなければ、大企業に入ることさえ、至難の業である。入れたとしても、張り合う間もなく、二世は上の地位に行っている。そんな会社に、夢を持てるだろうか。

また、多くの経営者が、親バカで子どもを社長にしようとするが、それでは会社の将来に危機が訪れることを認識しているのだろうか。

どれだけ自身が直接ノウハウを叩き込んでも、下積みの苦労をしていない人間は、どこかに弱さを持っている。キッカケがあれば、小さな穴から崩壊してしまうのである。

自身が築き上げた大切なものを子どもによって失う可能性は高い。これは、数々の企業が実証している、現実なのである。

組織として、多くの従業員を抱える企業がやってはいけないこと。それは、「身内に継がせる」ことである。

従業員をやる気にさせ、夢を見続けることができる環境を作る。これが、経営者の務めである。

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