「森林宣言進捗評価」企業が注目すべき課題とポイント

10月24日、Forest Declaration Platformが、2030年までの森林減少・劣化防止に向けた進捗評価に関する報告書『Forest Declaration Assessment: Are we on track for 2030?(森林宣言進捗評価: 私たちは2030年に向かう軌道にのっているのか?)』を公表しました。

私たちIGESは、世界の森林に関する様々な宣言の実際の進捗状況を専門的知見から評価するアセスメントパートナーとして、協力協定のもと、前身のNYDF Progress Assessment時代より本ネットワークにアジア太平洋地域に本拠地を置く研究機関の中でも先駆けて参加し、進捗評価報告書の作成に貢献してきました。

Forest Declaration Platform は、2014年9月の国連気候サミットにて採択された「森林に関するニューヨーク宣言(NYDF)」を受けて、署名国や賛同企業を科学的かつ中立的に支援するために国際NGOや研究機関により結成されたNYDF Progress Assessmentを前身とするネットワークです。2030年までに森林減少・劣化を終わらせることが1.5℃目標達成には不可欠であることが広く共有され、2021年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では各国首脳が「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言(Glasgow Leaders’ Declaration on Forests and Land Use)」 に署名するなど、NYDFにとどまらず、世界で森林減少・劣化防止・森林再生に向けたコミットメントが進んでいることを背景に、こうした官民の行動をより広範に支援するとの決意のもと、2022年に名称変更されました。

今回は、その一環で今回の報告書発表に際し、Forest Declaration Platformが発表した以下のプレスリリース仮訳をご紹介します。

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森林宣言進捗評価:喫緊の森林減少および森林再生に関するコミットメントを2030年までに達成するためには、現在の進捗では不十分―気候変動目標が危機にさらされている


インドネシアを筆頭とする熱帯アジアは「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」の達成の軌道に乗っているが、遅れをとっている国があまりにも多い

2022年10月24日に公表されたグローバル・フォレスト・アセスメントによると、2021年の世界の森林減少は、2018-2020年に比べて6.3%と緩やかに減少しているものの、「2030年までに森林の減少と劣化を止め気候変動を1.5℃に抑える」という国際目標には及ばない状況であることが明らかになりました。2021年の世界の総森林減少面積は680万ヘクタールで、これはアイルランド共和国に匹敵する広さであり、それに伴うGHG排出量は3.8GtCO2eでした(日本の2020年排出量は1GtCO2e)。

ちょうど1年前、グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、森林に関する野心的な誓約が数多くなされました。特に、145の政府が、2030年までに森林減少と土地劣化を食い止め、逆転させることを目指す森林・土地利用に関するグラスゴー・リーダーズ宣言に署名したことは、注目に値します。しかし1年経った今、国際貿易が森林に及ぼす影響の削減や、先住民族と地域コミュニティの土地所有権の強化などの関連する誓約がどのように達成されているかについての透明性の欠如は、説明責任と真の進展の両方を妨げています。

市民社会と研究機関の連合であるアセスメントパートナー(私たちIGESも参加しています)によって実施されたこの森林宣言進捗評価(旧:森林に関するニューヨーク宣言進捗評価)は、森林の現状とその将来についての現実を突きつけています。森林の減少と劣化を止め、3億5000万ヘクタールの森林ランドスケープを回復するという2030年の目標を達成するために、順調に進捗していることを示す世界的な指標は1つもありません。森林目標を達成するためには、森林保全と回復のための資金を現在の200倍に増やす必要がありますが、森林の最高の管理者である先住民族や地域コミュニティは、意思決定、多くの融資機会、彼らの土地所有権を保証する保護から依然として排除されたままの状態です。

「複数のデータが示すように、世界は森林保全に関するコミットメントを達成するための軌道に乗っていません。私たちは、空虚な誓約と森林の消滅という新たな繰り返しに向かって急速に進んでいます」(世界資源研究所 グローバル・フォレスト・ウォッチ GISリサーチ・アソシエイト デビッド・ギブス氏)

「世界は2030年を、森林に関するニューヨーク宣言の達成することができなかった目標年である2020年の時の様に素通りすることはできません。政府と民間部門は、現存する森林の価値に見合った大胆な改革を実施しなければなりません。そして、市民社会と協力して、透明性と説明責任に支えられた森林に関する行動を加速させなければなりません。」(クライメート・フォーカス マネージング・パートナー フランツィスカ・ハウプト氏)

一部の国における例外的な進展は、2030年目標が可能であることを示唆

森林宣言進捗評価は、「森林に関するニューヨーク宣言(2014年)」や「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言(2021年)」などの国際宣言で定められた「2030年までに森林減少を食い止め、劣化した土地の3億5000万ヘクタールを回復する」という世界目標の進捗を評価する、市民社会主導の独立イニシアティブです。

2018年から2020年の森林減少データを用いて基準値を作成したところ、2021年の世界の森林減少の減少は、グラスゴー首脳宣言の誓約で示された2030年に森林減少をなくすという目標達成に必要なペースには及ばないことが明らかになりました。しかし、一部の国では例外的な進展が見られました。森林宣言進捗評価では、熱帯アジアは2030年までに森林減少を止める軌道に乗っている唯一の地域であることが明らかになりました。これは主にインドネシア(過去5年間に森林減少率を下げ続けた唯一の国)とその隣国マレーシアにおける進展に基づくものです。

熱帯アフリカでは、ガーナおよびコートジボワールが2021年に商品作物主導型の森林減少を大幅に削減し、ウガンダとタンザニアも全体的に森林減少を削減させました。熱帯アフリカとラテンアメリカの森林減少率は近年減少しているものの、その削減量は2030年の目標を達成するにはまだ不十分です。

このような功績は、政府の義務付けと効果的な施行、企業の大胆かつ協力的な行動、市民社会と草の根のイニシアティブが主導する革新的な取り組みによって達成されます。森林に関する協力的で義務的な行動を拡大することは、 森林減少の流れを変えるために有効であり、実際に実施されてきました。

先住民族と地域コミュニティ(IPs & LCs)は、森林の保護および保全の最前線に立ち、それによって大きなリスクに直面しているにもかかわらず、森林の保護と保全に取り組んでいます。彼らの権利を保護し、資金へのアクセスを確保することは、最も効果的な気候変動対策の1つであり、より広く受け入れられるべきものです。IPs & LCsが管理する土地は、外部組織が森林を管理する場合よりも、全体的に環境的・社会的な成果が高いことが明らかになっています。しかし、IPs & LCsは政策に十分に組み込まれておらず、彼らの権利に対する認識および権利執行も弱いままです。

植林等によって森林被覆は局地的に増加するも、この進展を上回る森林が減少した

世界的な森林減少が進む一方で、森林被覆は2000年から2020年にかけて約1億3,090万ヘクタール(ペルーの面積よりわずかに広い面積)増加し、36カ国で純増となりました。しかし、森林被覆の増加は、炭素貯蔵、生物多様性、生態系サービスの観点からすると、森林の損失を相殺することはできません。報告書によると、原生林の損失は、単に森林再生や植林活動で補うことはできません。現在手付かずの森林は、そのまま残す必要があります。

森林が地球の気候を調節し、再び安定させるための基盤ですが、森林宣言進捗評価は、この点において熱帯林が逆方向の役割を担ってしまっていることを強調しています。森林減少と劣化を含む土地利用変化は、世界の排出量の約10-12%を占めるため、2030年までに森林減少をなくすことは、パリ目標にとって大きなマイルストーンとなります。

「森林宣言進捗評価は、森林減少を止めるための努力は十分ではなく、2030年の目標達成に向けた軌道修正ができていないという新たな警告のシグナルを送っています。森林減少と転換を止めなければ、パリ協定で定められた1.5度Cの目標を達成する道も、生物多様性の損失を逆転させる道もないのです。今こそ、大胆なリーダーシップと、この傾向を逆転させるための大胆な解決策が必要です」(世界自然保護基金 グローバル・フォレスト・プラクティス・リード フラン・プライス氏)

森林のために200倍の資金が必要

現在、森林保全および回復に必要な資金の1%未満しか拠出されていません。現在、国内および国際的な森林のための緩和資金は年間平均23億ドルですが、年間4600億ドルの資金が必要とされています。
IPs & LCsは、土地所有権を確保し、彼らの領土の生態系を保護するために必要と推定されるよりもはるかに少ない資金しか受け取っておらず、それは年間必要金額のわずか3%と推定されています。

2021年の資金プレッジは、野心が高まっていることを示しています。もし完全に実施されれば、2021年から25年の間に、森林のための年間資金は4倍の95億米ドルに達することになります。しかし、これはまだ必要額には程遠く、これらのプレッジがどのように達成されるのかについての情報もまだ得られていません。

「財政的なコミットメントを行う政府、金融機関、企業、慈善団体は、これらのプレッジに関するマーケティング活動に、透明性をもって取り組まなければなりません。透明性を確保することで、正しい軌道に乗るにはどこまで進まなければならないか、また、どれだけ早く進まなければならないかを理解することができるのです」(クライメート・フォーカス シニア・コンサルタント エリン・マトソン氏)

自主的な行動では不十分、企業の競争条件を公平にするための義務付けが必要

農業分野の主要グローバル企業のうち、自社のサプライチェーンから森林破壊を排除するための明確かつ包括的で野心的な方針を発表している企業は、わずか4分の1に過ぎません。これらの企業のうち、コミットメント達成に近づいているのは20%未満です。鉱業部門は最近、生物多様性への影響に対処する政策や基準を採用し前進が見られますが、全体としてはまだ農業部門に大きく遅れをとっています

モラトリアムのような強固な法的・政策手段、執行能力の強化、賢明な保全政策、透明性と説明責任の向上により、森林は保護されます。本報告書は、2004年以降、インドネシア、ガーナ、コートジボワール、ガボン、ガイアナ、ブラジルでこれらの手段が採用され、様々な時期に森林減少が顕著に減少したことを証拠として挙げています。しかし、これらの成果の一部は、特にブラジルで逆転しているか、あるいはその危険にさらされています。

コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、ペルーなどの主要な森林国における最近の法改正により、IPs & LCsの権利の認識と保護が強化されました。しかし、多くの主要な森林国では規制や法改正によってIPs & LCsの権利の法的保護が弱められており、IPs & LCsはいまだに権利や領土に対する侵害や、暴力、疎外にさらされています。

「この報告書は、森林減少を食い止め、劣化した土地を回復させるという2030年の世界森林目標の達成まであと8年しかないことを改めて強く印象づけるものです。企業の行動は、パリ協定の目標に沿って、自然の喪失を食い止め、回復させ、地球温暖化を抑制するために必要なスピードと規模では起こっていないのです。勢いをつけるには、企業によるより多くの優れた情報開示と、政府、投資家、消費者による正しいシグナルとインセンティブが必要です」(CDP 森林・土地担当グローバルディレクター トーマス・マドックス氏)


「企業のサプライチェーンから森林減少をなくすことに関しては、2016年に実施された最初のアセスメント以来、ほとんど進展が見られません。企業の自主的な行動の可能性はまだ実現されていませんが、連携した包括的かつ協力的な行動を通じて、強力なガバナンスと企業の真の努力とが出会うところでの成功を私たちは見てきました。これこそが正念場であり、私たちは2030年の森林目標に向けた世界の軌道を変えることができるのです」(クライメート・フォーカス マネージング・パートナー フランツィスカ・ハウプト氏)

あらためて、2030年までの森林減少・劣化防止および再生に向けた道のりが容易ではないことを再確認させられますね。しかし、具体的な課題と指針も同時に示されています。ぜひ、報告書も読んで、これから自社で何をすべきかを考えていただければと思います。こちらのnoteでも、関連情報を追って追加する予定です。

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「もっと知りたい世界の森林最前線」では、地球環境戦略研究機関(IGES)研究員が、森林に関わる日本の皆さんに知っていただきたい世界のニュースや論文などを紹介します。(このマガジンの詳細はこちら)。
**********************************************************************************文責:山ノ下 麻木乃 IGES生物多様性と森林領域 ジョイント・プログラムディレクター(プロフィール

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