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企業必読、熱帯林クレジットの十全性ガイド

森林カーボンクレジットは実用段階へ


企業の脱炭素の取り組みが進む中で、森林カーボンクレジットに関する「興味」から一歩進んだ「需要」が高まりつつあります。気候変動緩和対策として重要な森林保全。その推進のために、資金動員手段のひとつとして、10年以上もかけて検討されてきた森林カーボンクレジットが、ついに実用段階に来たということは、この分野に長年携わってきた私たちにとっては、とても喜ばしいことです。

森林カーボンクレジットの品質と課題

一方で、現在入手可能なすべての森林カーボンクレジットが信頼に足る品質であるかという点については疑問の余地があり、正直なところ「玉石混交」とも言えるでしょう。例えば、削減量(クレジット量)算定における参照レベル(ベースライン)や追加性などのテクニカルな問題は、そのプロジェクトが森林の保全、さらには気候変動緩和に本当に貢献したのかという環境十全性の問題に関わります。また、そのプロジェクトが地域住民の権利の尊重が不十分であったとしたら、社会的に問題があることになり、低品質のクレジットとみなされてしまいます。企業としては、せっかく気候変動や森林に悪影響を及ぼす事業上のリスクを分析し、リスク緩和のために森林カーボンクレジットを購入したにもかかわらず、「あの企業、信頼できないクレジットを使っているよ」「グリーンウォッシュなんじゃないの」といった風評にさらされるリスクにつきまとわれているように感じる企業も少なくないでしょう。

この問題は、国際的に議論されており、Voluntary Carbon Market Integrity Initiative (VCMI)などでガイダンスの開発が進められているものの、現時点では何をもって高品質とみなすのかに関する共通の判断基準が存在しません。だからといって、いかに早く取り組むかが重要である気候変動対策において、森林カーボンクレジットを活用しようという、高い意欲を持った企業に待ったをかけるのは本末転倒です。このような状況を考慮して、今回、「熱帯林クレジットの十全性ガイド(Tropical Forest Credit Integrity Guide、通称TFCIガイド」が公表されました。このガイドは、ボランタリーカーボン市場でカーボンクレジットの購入を検討している企業の意思決定、つまり、「どのような森林カーボンクレジットを選択すべきなのか」、「どうすれば社会・環境十全性を持つクレジットを判別することができるのか」という判断を支援するために、これまで森林クレジットに関する議論をリードしてきた国際的なNGOとシンクタンク(8組織)によって作成されています。森林カーボンクレジット購入を検討する際は、ぜひ参考にしていただきたいです。本稿では、見出しのみ、ご紹介します。

熱帯林からの森林カーボンクレジットを購入する企業へのガイダンス概要

I.          科学的根拠に基づく野心的な脱炭素化の自社目標を補強するために、バリューチェーンの範囲内で実施する排出削減の取り組みに追加して(“beyond value chain mitigation strategies”として)、熱帯林の炭素クレジットの購入を行うこと
II.       購入するすべてのクレジットが、社会・環境的な十全性の基本要素を満たすことを確認すること
III.     森林カーボンクレジットの購入に関する企業報告を、パリ協定の透明性・会計要件や国別削減目標(NDCs)の強化・達成と整合させること
IV.     (筆者注:現状はプロジェクトレベルの森林カーボンクレジットが主流ではあるが、)今後は急速に管轄レベルのプログラム(国・準国レベル)から発行されるクレジットに需要をシフトさせること
V.       (筆者注:大気からCO2を固定する植林や森林再生による「吸収クレジット」の関心が高まってはいるが、熱帯林減少による排出量削減は緊急課題であるため、)熱帯林の減少を抑制するプロジェクトやプログラムからのクレジットを優先させること

上記でも言及された「吸収クレジット」については、次回の記事でもご紹介します。お楽しみに!

文責:山ノ下 麻木乃 IGES生物多様性と森林領域 ジョイント・プログラムディレクター(プロフィール

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「もっと知りたい世界の森林最前線」では、地球環境戦略研究機関(IGES)研究員が、森林に関わる日本の皆さんに知っていただきたい世界のニュースや論文などを紹介します。(このマガジンの詳細はこちら)。
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