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善意という名の攻撃 (マキコ)

【マキコ】

 「わたしは、あなたの夢を奪おうなんて思ってないし、そんなことは一言も言ってないわよ」

 「うん、そんなこと、わざわざ言う人はいないよね」

 「じゃあ、わたしを悪者扱いするのはおかしいんじゃない?」

 「うん。それなの。お母さんはいつも“わたし視点”じゃない。だから、自分の行為が人の夢を奪っていることに気付いてないの」

 「誰だって“わたし視点”でしょ?」

 「そこじゃないの。私が言いたいことは。考えて欲しいのは、“夢を奪う行為”がなんなのかってこと」

 「別にわたしは、あなたの夢を否定しているワケじゃないわよ」

 「だから、自分では気付けてないことが問題なんじゃない?」

 「どういう意味よ」

 「『バンドなんてやる意味あるの?』『不良が多いんじゃない?』『お友達は大丈夫な人たちなの?』『生きていけるのは一握りなんだから』『勉強は大丈夫なの?』『もっと高校生らしくしたら?』って・・・。言われる側の気持ちは考えたことないの?」

 「あなただって、今まで大切に育てた子どもから『バンドやりたい』って言われる親の気持ちを考えたことあるの?」

 「ほら! だから、それなんだって! “わたし視点”で全てを考えないでよ! まずは、私の気持ちを考えてみてよ? その後に、私はお母さんの気持ちを考えてみるからさ。一度でいいから私の気持ちを考えてみてよ!」

 「あなたの気持ちなんて分からないわよ。マキコはマキコなんだから」

 「なんで? 考えてよ! 考えようとしてみてよ? 私はお母さんの子どもであると同時に、一人の人間なの!」

 「分かってるわよ。だから、複雑な人間のあなたの気持ちは分からないって言ってるんじゃない」

 「考えようともしてくれないのはなんでなの? 結局「分からない」って決めつけてるだけの、それも“わたし視点”でしょ?」

 「何が言いたいのよ」

 「あのね、お母さんみたいなコトを言われると、せっかく見つけた夢なのに、楽しむことがイケナイことみたいに思ってしまうの」

 「イケナイなんて言ってないわ」

 「言ってないよ! でも、そう思っちゃうの! 問題は言ったかどうかじゃない! そこだけ切り取って話すのはやめて! 相手が『イケナイこと』だと思わせてしまうようなことを言ってるってこと! それに気付いてよ」

 「それはあなたの勝手でしょ?」

 「違う! 夢を見つけたり、追いかけること、新しい挑戦って、とっても脆いのよ? わかるでしょ?」

 「そうかしら? それは、あなたが夢にかける思いが足りないからなんじゃない?」

 「なんでそんなこと言うの? まだバンドを始めてから一年も経ってないのよ? たった半年なの。誰だって最初はヘタクソだし、クオリティだって高くないでしょ?」

 「それはそうね。いきなり上手い人なんていない」

 「そうでしょ? でも、バンドだからライブをしてお客さんの前に立ってるの。入場料もいただいてるから余計に不安な気持ちになるのよ。だから『夢にかける思いが足りない』とかは言わないでよ。誰の夢だって、最初は不安で脆いのよ」

 「じゃあ、立たなきゃいいじゃない」

 「だから、そういう言葉が挑戦にブレーキをかけさせてしまうんだって! 夢を追ってることを否定された気分になっちゃうんだって! 人の夢を奪ってるんだって・・・」

 「だったら、そんな不安なんて言わないでよ」

 「・・・お母さん、それ本気で言ってるの?」

 「だって分からないもの! アドバイスのつもりで言ってるのに、『挑戦にブレーキをかけさせている』とか『夢を奪ってる』なんて言われちゃったら、何も言えなくなってしまうわ!」

 「それも結局、“わたし視点”なんだよ・・・」

 「なんでよ?」

 「アドバイスって何? 私の気持ちにも立てていないのに、自分が正しいと思うモノだけを押し付けてこないでよ・・・、それはアドバイスでもなんでもない。アドバイスっていう正義を振りかざした攻撃なの」

 「わたしは“あなたのため”を思って言ってるのよ!」

 「はあ・・・、“あなたのため”ね・・・」

 「あなたには才能があるから。色々な挑戦をして欲しいから。勉強だって運動だって優秀で、容姿にだって恵まれているのよ? あなたには可能性がたくさんあるのよ?」

 「うそ。それは口だけ。だって、私の挑戦にブレーキをかけてるのは、お母さんだもん」

 「なんでそんなこと言うのよ。わたしだってあなたの言葉に傷付くのよ? さっきのは、あなたが不安なことを口にしたりするからでしょ?」
 
 「だって・・・、家族でしょ? 私は応援して欲しいだけなの。傷つくってさ・・・、なんでいつまも経っても“わたし視点”なの? 想像力を働かせてよ」

 「あなたの方こそ“わたし視点”でしか喋ってないんじゃないの?」

 「だから・・・。まずは、想像してみてよ・・・。考えてみてよ・・・。私は応援して欲しいだけでしょ・・・?」

 「じゃあ、気持ちよく応援させてよ」

 「また“わたし視点”・・・。もちろん、気持ちよく応援して欲しいけどさ。気持ちよく応援できる時って、私が活躍したときでしょ? 超満員の会場でパフォーマンスができる時でしょ? 私が世間から認められた時でしょ?」

 「違うんじゃない? あなたが突っ走りすぎてないかって心配になっちゃうのよ」

 「だから、それが夢のブレーキを踏んでるんだよ・・・。私、学校の成績が落ちるようなことをした? 悪い評判たった? 誰の迷惑もかけてないでしょ?」

 「でもリハーサルスタジオ代はかかるし、新しくギターを買いたいってお願いしてきたじゃない?」

 「待って。そういうことなの? お金ってこと? 学費も払って、塾代も払って、その上、スタジオ代とかギター代をかけて、よく分からないバンド活動されることが納得いかないってことなの? だから応援できないの?」

 「まあ、それもないとはいえないんじゃない?」

 「じゃあお金を返せば続けてもいいの?」

 「どうかしら」

 「はあ・・・。今の言葉だって、私の夢を奪うことに繋がっていることに気付いてよ? やる気がドンドン削がれていくの」

 「だって、わたし、間違ったこと言ってないじゃない?」

 「また“わたし視点”・・・。なんでそんなに否定的なの?」

 「否定なんてしてないわ。わたしはあなたの母親なのよ? 一番の理解者だと思っているし、応援してるわよ」

 「それは応援じゃない・・・」

 「どこが? あなたさっきから何が言いたいの?」

 「お母さんは、私が理想の娘になって欲しいだけ。理想の学生を演じていて欲しいだけ。敷かれたレールの上を走る私のことは応援するけど、今までとはまるで違う「バンド」を選んだ私の姿は望んでいないの。応援って見返りを求めることじゃない」

 「誰のおかげで今の自分があると思ってるの?」

 「お母さん。今、自分が何を言ってるか分かってる・・・?」

 「わたしは間違ってない」

 「あっそ・・・。じゃあ、もういい・・・」


 1時間49分 2800字

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