小さな一歩、大きなさんぽ
虫の知らせの着信
14:49 スマホの画面がついた。
着信だ。かけてきているのは妻。
市役所7階、部長室。
打ち合わせ真っ只中。
でも、一瞬ヤな予感がしたのので、席を外して、電話にでる。
「ソラが、家にいないんだけど」
「えっ?!」
心拍数が一気にあがる。
ソラというのは、3番目の子。
長男ー長女ー次男ー次女。
我が家には男ー女ー男ー女の順番で4人の子どもがいます。
ただ、3番目と4番目の子が「自閉症」。
二人とも、話すことができません。
3番目の子は、最近の寒暖差でちょっとカゼ気味だったので、この日は学校を休ませていました。家の鍵を閉め、4番目の子を支援学校に迎えに行って、家に戻ってきたら、いないというのです。
3番目の子(ソラ)は、いつも本当におとなしく、公園や買い物に行こうと誘っても、99%イヤがります。家の中で、タブレットで動画を見ているのが大好き。誘っても外に行かないソラが、鍵をあけて、一人で、自分から出ていくなんて、我々夫婦的には、まったく考えられないことでした。
打ち合わせを終わらせ、早退する旨を伝え、急ぎ家に向かいました。
その間も、妻と電話でやり取りを重ねました。
「大きな通りにはいないみたい。」
「スーパーにもいない」
「川の反対側に人らしきものが見えたから行ってみたら、おばあさんだった」
「もう一回家の中を見てみて、いなかったら、警察に連絡しよう」
家に向かう途中も、不安が頭をよぎります。
遠くに聞こえる救急車のサイレンの音が、その不安を一層かきたてます。
ソラじゃないだろうか、、、
ほぼ全く「発語」はありません。
相手が言ってることもわかりません。
車のこわさも交通ルールもわかりません。
道路へ飛び出してしまう可能性だって全然あります。
「やっぱり家にいない」
妻からの連絡を受け、警察に電話することにしました。
よくわからないし、軽いパニック状態でもあったので、「110番」しました。
「こちら110番です。事件ですか?事故ですか?」
「事件でも事故でもないんです」と言いながら、顛末を説明しました。
「パトカーをご自宅に向かわせますんで、お父さんはご自宅にいてください。ソラくんの最近の写真を用意しておいてください」
家に着き、妻が探し終えた家の中と家のまわりを、「ソラ〜」と呼びかけながら自分でも探しました。隣に住む叔母も近くを探してくれていました。近所のおじさんも自転車でぐるぐる近所を回ってくれていました。
1分が、5分が、すごく長く感じました。
携帯が鳴ります。登録されていない番号。
出ます。
「生活安全課のものですが、イガリリョウさんのお電話ですか?」
ドキッ!
「イガリさんのお子さんかどうかは分かりませんが、」
ドキッ!
・・・・・・
「ハダシで、河川の工事現場に男の子がいると、工事関係者の方からの通報がありました。お父さん、住所を言うので現地に向かってもらえますか。」
「はい!」
「あと、お子さん、なにか持って出かけましたか?」
「・・・」「???」
「あっ、タブレットを持っているかもしれません」
「なるほど、黒い四角いものを2つ、手にしていると工事の方がおっしゃっていたんですが、タブレットですかね」
間違いない、ソラだ。
隣の叔母と近所のおじさんにその旨を告げて、現地に向かいました。
大きめの川の河川工事現場なので、だいたいの場所しか分からないなぁと思っていたら、心配ご無用。
犬の散歩をされている方や近所のママたちが人だかりになっているのが、遠くから見えました。
車をとめ、土手のうえを走っていくと、人だかりの皆さんから
「お父さん、よかったですねぇー」の声。
「すいません」
「ありがとうございます」
「すいません」
を連呼しながら、工事関係者の方のところへ行くと、妻もいました。
妻は警察からの連絡ではなく、道ゆく人に、子どもを見かけなかったか聞いてるうちに、「河川工事のところにいたよ」と聞きつけて、現地にたどり着いたそうです。
工事関係者の方にお礼を言い、肝心の本人は?と思い、見渡すと、夕陽に照らされた、完成したばかりのきれいな護岸ブロックにごろんと寝そべって、笑っていました、、、Wi-fiの届くはずのない2つのタブレットを胸に抱きながら。
警察の方との確認も終え、今回の、本人にとっては大きなさんぽ、我々にとっては心臓が縮み上がるほどの"徘徊-捜索劇"は、以上となります。
オープンに”ひらく”ことで
なにはさておき、まずは工事関係者の方、警察の方、ご近所の皆さん、本当にありがとうございました。感謝してもしきれません。
今回のこと、こうしてnoteに書いたりすべきじゃない、書かない方がいいと内心では思っています、、、
唐突ですが、警察庁による認知症の方の行方不明の件数推移です。高齢化に伴い、年々、右肩上がりに件数は増え続けています。これから、ますます、高齢者の方の数が増えるだけでなく、一人暮らしの高齢者の方も増えていきます。認知症を早めに気づく、同居家族という『眼』を持たない方が増えていくので、認知症の進行や徘徊、行方不明というのも、上のグラフのようにどんどん増えていってしまうかもしれません。
コミュニケーションをはじめ、なんらかの障がいを抱えた家族が、気がついたら、家からいなくなっている。
我が家の自閉症児と、認知症の方のケースは厳密にいえば違うかもしれない。
だけど、周りの協力への感謝、警察へ連絡するときのためらいや申し訳なさ、無事が確認されるまでの締め付けられるような不安、一瞬も目を離せない日々の暮らし…etc
警察庁のグラフによれば、一年間に、約2万人ちかい方のご家族や関係者が同じような思いをしていることになります。
「自分の子なんだから、目を離すな」とお叱りを受けるかもしれませんが、我が家で起きた今回のケースをオープンにしていこう。ひらいていこうと思いました。
私がひらくことで、少しでも周りの人に、このnoteと今回のことが届くかもしれない。
届いたあなたの近くで、誰かを必死に探している人を見かけるかもしれない。
私がひらくことで、どこかの誰かも、なにかをひらくかもしれない。
そのひらかれによって、私たちは、また新しい気づきや世界を知ることができるかもしれない。
医療、介護、病気、障がい、福祉。
極めて専門性の高い人たちによって支えられいるから、勘違いしがちですが、『生・病・老・死』ということばがあるように、いずれ誰にでも訪れます。
「家のなかのことだから」
「他人様に言うようなことではない」
そういう閉ざされが、誰にでも訪れることなのに、社会全体の共有の経験や理解として積み上がっていかない要因になっているかもしれません。
誰もが自分らしく。
多様でかつインクルーシブな社会を目指していく、私にできる一歩は、「ひらいていく」ことなんだと思い、このnoteを書きました。
『小さなさんぽ、大きな一歩』の逆タイトル
冒頭にも書きましたが、うちには自閉症の子が二人います。
今回の大脱走は3番目ですが、いつもトラブルを起こしがちなのは4番目ですw
そんな4番目の子と、近くのスーパーにはじめて買い物に行った時のことを書いたnoteが『小さなさんぽ、大きな一歩』です。
まぎらわしいですが、今回のタイトルはちょうどその逆。
3番目は小さく、ちょこちょこ歩きます。そんな小さな一歩で、家から約1キロも離れた河川工事の現場まで。はだしで、ネットのつながらないタブレットを2台抱えて。「小さな一歩、大きなさんぽ」です。
工事関係者の皆さんの見守るなか、新しい堤防に寝そべって、空を見上げて、なにを思っていたのでしょう。
これからも、ひらいていきながら、共に生きていきます。
お読みいただきありがとうございました。
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