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9ヶ月の葛藤

赤ちゃんがお腹にいる期間を、よく10月10日(トツキトウカ)と言うけれど、実際はそんなにない。
お腹の中に9ヶ月ちょっとしかいない。

だいたいトツキトウカと言うのは日本独特の言い回しで、英語圏では普通に9monthsが妊娠期間キーワードとして一般的らしい。

どうしてこんな誤解を産む言い回しなのかググった結果、暦とか旧暦のカウントの仕方が影響している説が出てきたけれど結局よく分からなかった。

HWOの指針では予定日というのは受精した日でも、性交した日でもなく、最終月経日から280日後にあたる。
もし1月1日に受精したとすると、予定は9月24日になる。

生理が10日ほど遅れて、検査薬が使えて自分が妊娠していると気づける頃にはすでに妊娠2ヶ月ということになる。
だから医師から予定日が告げられた時「え、思ったより近々じゃん…」と非常に焦った。
きっと多くの妊婦さんが早!と驚いたのではないかと思う。

***

事前知識よりも短く、体感的には長かった約9ヶ月を経て、今日ついに予定日がきた。
世の中で妊婦さんというのは幸せの象徴とされているけど、私は圧倒的にネガティブな方の妊婦だった。
負のオーラを放つ妊婦、子供にも周りにも申し訳ないから発言をすべからず…と思っていたけれど、日本では毎日2,900人前後の赤ちゃんが生まれているらしく、きっとその中には私と同じようにネガティ婦もいるかもしれないので、心境の変化の備忘録を残しておこうと思う。

正直、この期に及んで子供を産むのが怖い。
陣痛が不安。ちゃんと育てられるのか不安。
でもずっと心の奥にこびりついている大きな不安は、働く情熱を持ち続けられるかということ。
子供がいることを理由に、つらくても身につけたい技術や、やりたい事から目を背けずにいられるかとても怖い。
苦しくて辛いことに飛び込んでいける勇気と、身軽さを維持できる現実的な保活等の努力を実現できるのか。

「楽しそうに働く母」に憧れていたけれど、それってモチベーション維持とリソースの確保、めっちゃ大変じゃん…とここに来て戦慄している。9ヶ月それで毎日震えていた。

思えばポジティブに産みたいと思ったピークは8年前の20歳の頃だった。
あの時はいつか子供を産みたいと思っていて、将来我が子をしっかり抱きたいからという理由で、諦めていた生まれつきの肘の障害を治療しはじめた。
3回右腕の手術をしてほんの少〜〜しだけ可動域が広がった。抱きやすくなったかは謎だけれど、やれるだけやってダメだったから納得している。
ちなみにこの治療期間中に友人にギプス姿のモノクロヌードを撮ってもらったりしたから、やっぱりこれが私の早すぎるマタニティハイのような状況だったのではないかと思う。

それから社会人になって、飽きたり病んだり迷ったりしながらも、人のご縁に恵まれ念願のカメラマンとして生活ができるようになった。
街中の広告や、雑誌、電車の中で前の人が眺めているスマホから自分が撮った写真が流れてくるのを見た時は、その度に生きていてよかったと心底思った。
いつも心身共にギリギリだったけど、やりたいことをやれる自分が好きだった。
このままどんどん経験を積みたいという気持ちと、産みたい時に産めるとは限らないよなという生物学的なリミットへの焦燥感は常にあった。
あの時の「いつか産みたい」が重くのしかかる一方で、仕事が行き詰まると子供欲しい欲が上昇する女子的甘えバイオリズムが自分の中にあることに気づいて、産むのが正義なのか悪なのかがどんどん分からなくなっていった。

そして私は仕事が辛くて楽しいど真ん中で、念願の子供を授かる。
検査薬を見ながら「えー!えー!?」と一人で声に出してしばらくフリーズはしたものの、産まないという選択肢はなかった。
こんなに祝福されたことはないくらい、たくさんの人がおめでとうと言ってくれたし、
仕事のスケジュールも多くの方々に迷惑をかけながら調整に協力してもらった。
夫は転職期間にも関わらず、2ヶ月の育休をとってくれることになった。

***

と、ここまで書いてずっと続きがネガティブなことしか書けずに筆が止まっていた。
読み返して、自分が大好きな自分でいるための労働から脱皮しなきゃなと病院のベッドで陣痛を待ちながら思った。

仕事を人生の中で重要だと考えているなら、家族のために働くということを実践する期間があってもいいのかもしれない。

自分大好きな臆病者だったから、幸せに満ち溢れた9ヶ月だったとは素直に振り返れないけれど、未来豊かな誰かの入れ物になることができたことは光栄で、不思議な時間だった。
そう思うとひたすらに重かったお腹も名残おしい。
うまくいけば今日、分離する。

#エッセイ #熟成下書き #出産 #マタニティライフ #妊婦 #ワーママ #妊娠

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