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ブラック企業に入った時の話 ③ 最強の敵編

その①上司と合わない編(入社前~入社直後あたり)
その②年下の先輩がヤバい編(入社後)

上記二回の続き。
今回も人がヤバい系の話なので、残業代ゼロで死ぬほど働かされて手取り10万、みたいな物理的におかしい系のブラック企業ではないと思う。ただ、日本社会の、人間の、常識やマナー、ルールは一切通用しない。そういう意味では十分に黒いと思う。
近頃お金がないことで頭を悩ませているが、これを書くたびに、そんなことどうでもよくなるほどに体中の毛穴という毛穴から嫌悪感が噴出しそうだ。ただのバケモノである。

自分の人生が最悪だ、いいことない、と思っている人へ、自分のような馬鹿で間抜けで、いまだに全回復できていないダメ人間もいるんだから、まだ大丈夫と思う一助になれば。
転職を考えている人へ、焦るとろくなことにならないというリアルな例になれば。
こんなもん生ぬるい、自分はもっとしんどいという方は、感動する系の映画を観てください、ショーシャンクとか。自分のことなどどうでもよくなりますし、心が穏やかになると思います。



入社して1か月半か、2か月にも満たないほどで、新しく立ち上げられた別部署へ異動となった。といっても、立ち上げ要員などではなく、「営業の練習」としてだった。元々採用されていた部署へは3か月ほどで戻ることができる、別オフィスの責任者が新部署の責任者も兼任する、と必要最低限の情報だけを伝えられ、オフィスは同じまま、一人だけ別の仕事をすることになった。
人事の人が「新しい上司になる人、悪い人ではないんだけど、とても…言葉がはっきりしている人で…」と歯切れの悪い言葉で前もって説明してくれた。人事の人は入社時から大変よくしてくれており、信頼もしていた優しい人である。優しいからこその言葉選びだが、端的に言えばただのやべえ奴ということだ。しかし、やべえ奴とはいえ何となく、自分は大丈夫だろうと思っていた。前職のサービス業で客から理不尽に怒鳴られたこともあったし、同僚から意味不明の理由で喧嘩を売られたこともあった。それに何より、ジャイアンと離れられると思い、多少のきつさなら我慢しよう、がんばろうと思った。
新しい上司との仕事は、別の地獄だった。


新しい部署では営業の練習として、新しくリリースされるビジネスアプリの紹介で、初年度の利用料は無料だった。実質無料商材である。新しい上司(便宜上Bと呼ぶ)からすれば、「契約がとれて当然」。それでも、自分は話すのがあまりうまくなく、なかなか契約がとれずにいた。
「なんで契約取れないの」
電話越しにBがぶっきらぼうに聞いてくる。
訪問先で話した「契約しない理由」を伝えると
「ふーん、じゃあ『おたくは頭の悪い馬鹿な会社なんですね』って言えば?無料のもの使わないとかただの馬鹿やろ」
など、営業初心者にはハードルの高すぎるボケなのか本気なのかすらわからないコメントばかりだった。
彼の方針は「自分でやれ」だった。自分に自信がなく、右も左もわからない状態だったため電話して教えを乞うも「だからさあ、そうやってわけわからんこと考えてばっかだから何もできてないんでしょ。考えないで直感で好きなようにやれば?」と言われる。たしかに自分はそういうところもあるかも、と思い実践してみる。それを報告すれば「ってか何勝手なことやってんの?何考えてんの?」と責められる。「どうすればいいのか、うまくいく方法がわからないから教えてほしい」と連絡すれば「そうやって人に聞けばどうにかなると思ってるからだめなんじゃないですか」と言われ、自分なりに考えてやってみれば「わからないのに何で聞かないんですかね、意味不明なんですけど。ロクなこと考えられないんだから聞けって言ってるんですけど。」本当に意味が分からなかった。
この人は自分に何をさせたくてこんなことを言うのか、と真剣に悩んだこともある。どう考えてみても、自分の成績が悪いのが悪い、に帰結する。そうか、自分が契約を取れないからダメなんだ、売れない自分が悪いんだ、という発想にしか至らず、何度も自分で自分を殴るような、精神的な自傷行為と呼べるような「自分のだめなところノート」をつけていた。ちなみにこのノートもBからやれと言われてやっていた。自傷行為を命じられてそれをバカ正直にやっていた。本当にただのバカだと思う。


Bと電話をするたびに「言ってる意味がわからん」「は?どういう意味?」「結局何が言いたいわけ?」と口にする言葉をすべて否定された。自分に自信はないし、スキルも能力も高いとは思っていなかったが、前職でそんなことを言われたことはなかった。特別秀でているとは思わなかったが、最低限人に必要なことを伝えることはできると思っていた。プラスではないがマイナスではない、人並くらいの能力。それが自分だと思っていたら、Bからしたら「見たことないくらいバカ」で「余計な事しかしない」、「まともなことが考えられない」人間だったらしい。これらはすべてBが直々に教えてくださったありがたいお言葉のごく一部である。最終的に毎日「まじで時間の無駄」「それでよく給料もらえるね」と言われていた。こちらが受話器を耳につけている状態で相手が文字通り受話器を叩きつけると、その音の大きさでしばらく耳が痛くてたまらないのだと学んだ。電話越しだからと言ってそのダメージは軽減されず、むしろ直接会ったことのない人間にここまで言われるなんて、自分は本当に給料泥棒で救いようのないバカでクズなんだと本当に思っていた。


今、その状況から離れてみて実感していることは、本当にただのモラルという概念のない、選りすぐりのやべえ奴の集団でしかないということである。上記の「考えてばかりでなく、直感でやれ」→「何考えてるんだ、よく考えろ」のように相反することを言って混乱を招くコミュニケーションのことをダブルバインドと言うらしい。部活の顧問が「やる気ないなら帰れ!」→「本当に帰る奴がいるか!」みたいなアレだ。海外の研究結果で精神的健康に悪影響だとはっきりと示されており、言われた方に強いストレスを与えるそうだ。下記のページがわかりやすかった。

このページの中で、まさに自分のことだと驚いた記述があったので引用する。

仕事の例ではどちらの選択をとったとしても、上司の望みどおりにしても、結局は怒られてしまい、部下はだんだん疲弊していきます。何をしても否定されるので萎縮してしまい、いかに上司に怒られないかに意識が集中してしまい、仕事でのパフォーンスが急落します。

心理資格ナビ ダブルバインドとは

身に覚えがありすぎて笑ってしまった。何をしても否定される。それにつきる。一度たりとも褒められたことなどない。どんなに頑張って契約をとろうと「ふーん」と興味のなさそうな返事をされる。いつも報告の電話をする前に、わざわざ1時間くらいかけて電話で話すためのメモを作っていた。メモを作ったって、メモ通りに話したって、どうせ怒鳴られて電話を叩き切られるのに。とにかくBの機嫌を損ねないよう、少しでも怒られる時間が短くなるよう必死だった。B以外の人にアドバイスを貰い、少なからず契約は取れていたが、それでもずっと怒られた。むしろ契約を取るようになってから、少しでも失敗すると死ぬほど怒られたし怒鳴られた。失敗していなくとも、粗を探して怒鳴られた。就業時間が近づくたび、心臓がどきどきして、息が上がり、信じられないほど緊張していた。営業先と話すときだって、飛び込み営業をさせられたときだって、転職の面接のときだってあんなに緊張しなかった。ただただ、Bのことを恐れていた。結局あの時の自分は、「人のために」働いていなかった。もちろん「お金のために」でもないし、まして「自分のために」でもなかった。すべては「怒られないために」働いていた。パフォーマンスが落ちていたかはわからないが、少なくとも精神的な健康は著しく損なっていた。


何をしても否定されるというのは、人間の精神をまともな状態ではなくすのにとても効果的であると身をもって学んだ。むしろよく電車に飛び込まなかったなと感心しているくらいだ。会社に行く電車が憂鬱で仕方ないとか、週末は目が覚めている間はずっとアルコールを摂取しているとか、食べることしかストレス解消法がないので人生最重量(ベスト体重+30kg)まで成長したり、頻発する強制飲み会のために金がなくなって借金を作ったりするくらいで済んだのだから、まだ自分はラッキーだったと思う。生きてればそれでいい。
また、最初にジャイアンのあからさまな暴力や恫喝を目にしていたため、Bのとってつけたような敬語すら「ジャイアンに比べたらBさんはまだ丁寧」だと本気で思っていたし、Bによる毎日の人格否定も「自分が悪いのだからBさんが怒るのも当然」だと真面目に思っていた。体調を崩して休めば「お大事に」と連絡が来る。それだけで「ああBさんって優しいんだな、まともなんだな、ジャイアンとは全然違うな」と思っていた。

今なら言える。

まともな人は「わからない」と言う人に「知らんし」なんて突き放さない。
業務報告に対して「意味わかんないんでこの時間無駄ですね」なんてこき下ろさない。

人に対して「頭おかしいですね」なんて言わない。


今はどうにか無事に生きていますが、上記にも少し言及した通り、過去の負債によって万年ド貧乏です。
がんばって生きていきますので、ご支援お願いします。
携帯が止まりそうです。

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