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ブラック企業に入った時の話 ① 上司と全然合わない編

「ブラック企業」と書いたが、一般的なブラック企業の定義とされるもの(給与未払いとか過剰労働とか)に当てはまるものはあまりなくて、自分が経験値の低い甘ちゃんだからそう感じたのかもしれない。
だが、自分にとっては「あれをブラックと言わずして何をブラックと呼ぶのか」と思うほどに、最悪な経験で、人生の汚点である。
とりあえず今は別の企業で働いている。給料はめちゃくちゃ安いが、まだ常識が通じる人が多い、心理的に安全を感じる組織である。一年前は死ぬほど働いたが。

今日は暇だからか、たまにある「すべてどうでもいいから消えたい」時期だからか、ずっとわだかまっているこの記憶を、とりあえず書き出すことにした。

自分の人生が最悪だ、いいことない、と思っている人へ、自分のような馬鹿で間抜けで、いまだに全回復できていないダメ人間もいるんだから、まだ大丈夫と思う一助になれば。
転職を考えている人へ、焦るとろくなことにならないというリアルな例になれば。
こんなもん生ぬるい、自分はもっとしんどいという方は、闇金ウシジマくんの楽園くんとか洗脳くんあたりを読んでください。まだ自分はマシと思えると思います。


コロナ第何波のときかも覚えていない、2020年の夏に、転職をした。初めての転職だった。それまで勤めていたサービス業では、もろにコロナ禍のあおりを受けて、シャレにならないレベルまで給料が下がった。それ以前から様々な理由で転職を検討していたが、コロナ禍、私生活での変化など複数のタイミングが重なり、転職をした。

転職先は地方都市の企業。ベンチャーといえば聞こえはいいが、要するに弱小企業である。だが、社員が若いことや男女の比率が偏っていないこと、何より当時の明日をも知れない生活よりも、よっぽどましに見えた。
業界は人材紹介・派遣である。この業界に転職したと聞くと、ほとんどの反応は「、あー…」だろう。しかも職種は営業である。前職はコミュニケーション力が必要な職種ではあったが、営業らしい営業などはほとんどなかった。もうすでに暗い未来しか見えない。
それでも、定時退社など配属して3日ほどしか経験したことがない、できる仕事が増えるほど残業が増える、年間休日がギリギリ100日を超える前職よりは遥かにマシだと、本当に思っていた。

違和感は、実は面接のころから感じていた。当時活発になり始めたウェブでの面接で、自分の上司になるという男性社員と一対一の面接だったが、それまでに受けたどの企業よりも印象が悪かった。笑顔はなく、めんどくさそうに話し、初対面でため口。社会人なのに茶髪で髭をたくわえているのも、個人的に気になった。今冷静に思い返すと、ウェブ漫画などで目にする「ブラック企業の上司」そのものの姿をしていた。
それが一次面接で、正直うーん、と思うでもなかったが、当時はとにかく必死で、今すぐ辞めないと心が死んでしまうと思っていた。ずっと前に限界は超えていた。また、当時は自分と同じようにコロナ禍のために生活が立ち行かなくなった人も多く、転職が難しい時期と言われていたと思う。そのため、自分も何通ESを送っても履歴書を送っても、面接にすら進めず、自分で認識している以上に焦っていたのだと思う。
なぜか一次面接を通過し、社長との最終面接に進んだのだが、違和感はより大きくなった。一次面接とは違い、黒髪で、スーツを着てはいたものの、やはり初対面でため口で、めんどくさそうに話し、ウェブカメラに映っていないとでも思ったのだろうか、机の下の足を掻き続け、「フランクな」「飾らない」「ざっくばらんとした」面接と捉えるには、自分は心が狭かった。
本当に謎だが最終面接も通過し、見事内定が出た。片道1時間以上かかる通勤も、やったことのない営業職も、ブラック企業の目印と言われる「アットホームな職場」を謳った求人記事すらも、当時の週休六日で手取りが学生時代のバイト並みに安い生活に比べたらとてもいいものに思えた。

入社初日、オフィスに出勤すると、たしかに聞いていたように小ぎれいで、少人数なので小ぢんまりとした部屋の中に、若い社員が揃っていた。多くの社員、特に営業担当のほとんどが目つきが悪いのが気になった。
一次面接で話したそのオフィスの責任者は実際に会うと想像していた以上に「めんどくせえ」オーラを放ち、愛想はなく、不機嫌そうな顔をしていた。
最初の一週間はほぼ同時期入社の人(別都市のオフィス所属)と合同の研修で終わった。研修があるだけ、そこはまだマシだと思う。
週末に歓迎会と称して、オフィス内の会議室を使い飲み会が開催された。自分はそれがものすごくひっかかった。当時は2020年、まだコロナ禍真っ只中、飲食店の多くは時短営業を要請され、会食も控えるよう政府が発表していた時期である。頭が固すぎるのかもしれないが、そんな時期に歓迎会などやることは正しいのだろうか?しかし自分のために開催してくれるのであれば、有難く受け入れるしかない。考え方を変えて、これを機に他の人と仲良くなれるかもしれないと前向きに挑んだ。そんな期待は、儚く消えた。

歓迎会だから、と一気飲みを促す責任者。もっとよく知りたいので、というお題目のもとに放たれる「これまでの経験人数は?」という質問。不愉快すぎて記憶から消したが、嬉々として続けられる下ネタ。「せっかくなので脱ぎますよ、俺」という若手男性社員。隣のオフィスからクレームが来るほどに大声で叫び、奇声を上げる男性社員。注意をしに来たビルの管理人に「ちょっと俺行きますわ」と一昔前のヤンキーのごとくオラつく若手と笑い続ける責任者。

すべてが地獄だった。

自分が今までに属したことのない、ウェイ系グループ。女性は料理の取り分け係、男性の下ネタを笑って「やめてよ~」と流せなければ空気が読めない奴認定。男性は下ネタを話せなければ男ではない、初体験から始まり、既婚者は幸せ家族計画まで披露する、責任者のご機嫌を取るためなら食べたものすら口から皿に戻す。
自分が属してきた大学も、大学の部活も、前職も、なんと素晴らしい、優しい、常識に満ちた、穏やかな、大人なグループだったのだろう。
終電が早いため自分が一番早く席を立ったが、後日そのことで責任者から説教された。「せっかくみんなが揃ってくれてるのに、悪いとか思わんの?その考えが理解できん。駅の近く行ったらホテルでもネカフェでもあるやろ」歓迎会は絶対最後までいるべきで、みんなのために、自腹を切ってビジネスホテルに泊まったり、ネカフェで夜を明かしたりするのが正しい選択だったらしい。正直今でも納得はしていない。


責任者とは本当に気が合わなかった。彼はゴリゴリの体育会系ウェイ系パリピ。こちとら文化系まっしぐらの根暗オタク気質。こちらに歩み寄る気が合っても、彼にはない。俺に合わせないお前が悪い、俺が絶対正しいと言外に滲ませていた。
週に一度くらいの頻度で、責任者発案のビジネス力向上研修なるものがあった。研修をやること自体はいいことだと思うし、ないよりはあった方がよい。しかし、その研修ではものすごく基本的なビジネスマナーやロールプレイングをやった後、必ず責任者による「俺すごい、お前らダメ」のご高説が始まった。ジャイアンリサイタルのように、求めていなくても求めている、喜んでいる、泣いて嬉しがるくらいでなければ許されない。そのありがたいお話では、彼と同じウェイ系パリピでそれなりに実績を上げている男性営業すらもこき下ろす対象になっていた。
「俺は営業やってたときに、今のお前らより売上上げてた。俺一人でお前ら全員合わせたよりも多く売上上げてたんだよ。俺にはお前らが理解できんわ」
売上が高いのは純粋にすごいと思うし、努力した結果なのだと思う。だが、流れは忘れたが別にその話をする必要はないだろと思ったことだけ鮮明に覚えている。
「俺は、お前らには夢を叶えて欲しいと思ってる。仕事は、お前らの夢をか叶える場所なんだよ。人生の喜びも、幸せも、夢も、すべて仕事にあるんだよ。」
自分の夢は今すぐあなたの自己陶酔の話を切り上げて仕事をこなすことなのだが。
そんな夢を語れるはずもなく、貴重な二時間を潰し、得たものは「彼はすごいと思わないといけない」という強迫観念だった。


自分は、基本的に昼食は一人で取っていた。一人で、といってもオフィス内の自分のデスクにいたし、近くの席の人とも話していた。時々だが、他の人と一緒に買いに出ることもあったし、他の人と外で食べることもあった。だが、彼にはそれがあり得ないことだった。
月に一度、責任者とオフィスにいるすべての社員が一対一で面談をするのだが、その際に「っていうかさあ、何で昼飯一人で食べてんの?何で他の人と食べないの?失礼だと思わんわけ?まじで意味わからん」と言われた。
本当に意味が分からなかった。自分以外にも一人で食べている人、一人で外に出ている人はいるし、イヤホンをして周りをシャットアウトしている人だっている。それに比べたら自分は周りとコミュニケーションをとっている方だ。なのに、彼から見れば自分は「周りと関わらないようにしている」としか見えなかったらしい。
反論すればよかったのかもしれない。だが、自分はペーペーの新人で、実績もない。片や相手はめちゃくちゃ売り上げを上げて責任者にまでのし上がった人間で、正直半グレと言われても不思議ではない見た目で、威圧感があり、よくわからないロジックで相手を説き伏せることを得意とする男である。自分が折れるしかなかった。ごはんどきに、時々ぼんやりしたり好きな動画を見たりすることも、自分は許されなかった。


「SNSやってさあ、バズったら超よくね?」
責任者の鶴の一声で、SNSアカウントを開設することになった。今や多くの企業が取り入れているSNSでの広報活動。通常は広報部など、専門のセクションが対応するだろう。あるいは、新たに立ち上げるなどの対応をとると思う(もちろんそうではない企業もあると思うが)。
運営上重要なことは、目標設定だと思う。ぼんやりしたものではなく、具体的な数値目標を立て、その目標達成の度合いを計る効果測定の方法など、かなりの下準備が必要なのではないだろうか。
SNS広報の素人の自分ですら、これくらいは想定できる。だが、そこは我らのパリピジャイアンである。
「ってか、おもしろかったらバズるし最高じゃね?」
その一言で、オフィス内全社員参加のSNS運営が始まった。専門担当者も、目標設定も効果測定も何もない。事務さんの中で比較的SNSをよく使っている人が編集や投稿を請け負って下さり、内容は全社員で数人のグループを作って持ち回りでやることになった。
業務中に投稿内容を考え、作成していると当然通常業務が圧迫されるため、必然的に休憩時間などを利用することになった。SNSがバズることはなく、本当に意味があるのかと疑問に思ったが、ジャイアンの意に反することを言い出すことは許されない。ただただ、「誰が面白いと思うのだろう」と疑問しか湧かない投稿を作り、同じく企業名を掲げて運営している取引先のアカウントからのお愛想としか思えないいいね!の数を競うという、当時の自分からしたら無の時間だけが過ぎた。今思えば、心を殺すということの大切さを、サービス業ではなくここで学んだ気がする。
ちなみに、件のSNSは一切見ていないが自分のSNSタイムラインにも、友人のタイムラインにも、あるいは「バズっているアカウント紹介」系のアカウントにも今のところ流れてきていないようなので、どうぞ頑張ってください。


ジャイアンは、どこまでもジャイアンだった。
彼の機嫌が悪いとき、オフィス全体が張り詰めた空気になった。普段なら笑ったり冗談を言ったり、ある程度和やかに過ごすことはできるが、ジャイアンの機嫌が悪いときには許されない。本人が声に出して禁止したことはないが、周りが何か言えば「あ?」「うっさ」、質問しに行けば「知らんわ」「そんなんもわからんわけ?」と不機嫌を丸出しにするため、とにかく逆鱗に触れぬよう、必死だった。
ある日、男性営業社員が何かミスをしたらしく、全員が同じ場にいる中で、ジャイアンは彼を自分のデスクに呼びつけ、30分以上ひたすら説教し続けた。いや、説教ならよかった。あれは恫喝だった。「舐めてんのかてめえ」「ふざけんなや」などまだ優しい方で、八割が書くこともできないような罵詈雑言。腹が立ったからとデスクを蹴る人間を初めて見たのはこの時だった。
罵倒された男性社員は自席に戻り、電話をかけ始めたが、話し方や内容が気に入らなかったであろうジャイアンは、つかつかと彼の席に近づき、受話器を奪い取った。あまつさえ彼の肩をほとんど殴るような勢いで押し退けていた。目の前で起きたことすべてが信じられなかった。


辞めるまでのすべてを書こうと思ったが、思いの外嫌な記憶は多かったため、分割して書くことにした。一つの記事にまとめるには、あまりにも、嫌なことが多すぎた。
書いていて胸糞が悪くなってきたので、気分転換をして今日は早く寝ることにする。

続きはなるべく今週中に書こうと思います。




別件ですが、爆裂にお金がないです。
色々支払ったら3月の食費がほぼゼロでした。
恥も外聞も捨てます。
助けてください。
投げ銭よろしくお願いします。


続きです。


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