見出し画像

ソフトボール

 ソフトボールがなんなのかということを真剣に考えていた。机のまえに座らされて、今日は放課後のクラブ活動のアンケートをとりますといわれて、紙とペンを渡される。ほかに説明がない。サッカー、バスケ、卓球、バドミントン。わかる。水泳、柔道、剣道、まあやったことないけどなんとなく。わかる。ソフトボール。え、ソフトなボール?
 柔らかいボールというのならきっとハードなボールが別種存在するのだろう。それならソフトボールにもう1個なにかヒントになる要素を付け加えてくれればいいのに。でもたぶんテニス。これはきっとたぶんテニス。ソフトテニスの別名。ソフトボール。「ソフトなボールでテニスを楽しむ」の略語のため、ソフトテニスということもあればソフトボールということもあるのだろう。そうおもってソフトボールに〇をつけた。
 で、野球だった。騙された。外野フライの練習といわれてなんかグラウンドに立たされた。意味もわからず空高く打ち上げられた固いボールを眺めていたら顔面に直撃した。ミットでどうやって受け取るのか、方法をきいていなかった。ボール固いし。そういう勘違いばっかりしていたら逆にバッターしかやらせてもらえなくなった。ずっと三振していて、やっと打ったとおもったらすぐに三塁の方向に走ってから、応援係になった。炎天下のなか、固いボールを打っては追いかけまわす人々を眺めていた。ボールよりは柔らかい感じの絆で結ばれているソフトボールチームだった。
 野球をはじめて見に行ったのは、大学生になって初めて働いたバイト先の先輩が野球大好きで、奢ってやるから一緒に来いと言われたからだった。ぶっちゃけ行きたくなかったけどピザも奢るからさって言われていった。ピザがものすごい美味しい。ビールは自腹だったけどビールも相当美味しい。なんか野球選手が乱闘しはじめて、そこだけ切り取ってゲラゲラ笑いながら喋っていたのをおぼえている。無理やり傘を持たされて左右に振って応援したりとか。そういうときに、ふだんひとりになりたがっているくせに、結局チームプレイを感じる。目の前で起こっていることぜんぶが、誰かが楽しんでいても誰かが楽しめていなくても、固いボールを中心にして柔らかいわたしたちはぐるぐる回っている。酔ってぐるぐると地面がまわっているように感じるその表面で、実際に回転している速度、ありえないくらい自転と公転で、身体が張り裂けそうなくらい向かい風で、音がなんにもきこえない。だれの声も。わたしの叫んでる音がぼんやり鼓膜にはりついて、目にもとまらないスピードでうねって響いては返ってくる。
 いつかもういちどソフトボールをしようとは、やっぱりぜんぜんおもってない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?