関係

あなたが関係しているものは何ですか?

カルロ・ロヴェッリ氏の『世界は「関係」で出来ている 美しくも過激な量子論』を完読した。前著の『時間は存在しない』も大胆な内容であったが、本著も量子科学の歴史を紐解きながら、量子に関する判明していること、未解明なことを説明し、そこから実際の日常生活における心との関係性や、世界の成り立ちについてまで、様々なスケール感で考察がなされている。

分野としては物理学の本だと言えそうだが、実際に出てくる数式は数個しかなく一般の方に幅広く理解できるように工夫されている。また、奥深い考察が続くので、個人的には哲学書に分類される書籍かなと思っている。

詳述できるほど理解できたわけではないけれど、要約すると、量子の世界は関係性で成り立っており、それ故に人間を構成する機能も関係性で成り立つため、人間が認識する世界も関係で成り立っているというところだろうか。関係性を考える上で、観察や観測、知覚などの相互作用が重要であることも述べられている。

本著は、実在とは何か、世界とは何かを考える上で、比較的新しい考え方を示しているけれど、個人的にはかなり腹落ちした。研究開発という職業柄、ナノスケールから可視領域まで様々な分析機器によって測定を行う。そこで出てくる解析結果は、接触式にしろ非接触にしろ、結局のところ測定対象と分析装置の相互作用の結果にすぎず、測定対象固有の絶対的な物性を測定できている訳ではない。そこに、結果の解釈を行う複数の人間が関与することで、少しずつ理論や概念構築がなされていく訳だけれど、それも人が介在する関係性の中で生まれる概念だと言える。

確固たる個というものもなく、それも関係性で成り立っている。そのような考え方は、自我や執着が強いと、実在の問題で脅かされるかもしれない。若かった頃の自分がこの考えに振れていたら、恐怖を覚えたり、拒否感を示したのではないかと感じる部分もある。

一方で、何も存在しないからこそ、関係性一つで新しい自分になれると考えたら、それはむしろポジティブなことかもしれない。人や世界との関わりも大切に出来るようになりそうだし、謙虚さや寛容さにも繋がる考え方になるようにも思う。

まだまだ不明な点が多く、考えるべきことがたくさんあるけれど、豊かな人生を歩むためにも、一つ一つの関係性に注意を払いながら、大切にしていきたいと思う。


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