貝殻と私
先週末、海へ行った。
一つ上の兄が海近い場所に家を買い、どんな場所なのだろうという興味と、私は海が好きだから。
兄宅から海まで歩いて5分もかからないという。
車でナビを見ながら兄が住む街まで進んで行くと、幾棟ものマンションが立ち並ぶ集合住宅が続き、突然視界が開けた。
彼方に見える水平線。
空はどこまでも高く、砂浜は広大に横へ横へと伸びていく。
兄家族と合流し、砂浜をゆっくり歩いた。
子供たちは早速裸足になり、波打ち際を行ったり来たりしながら打ち寄せる波と戯れている。
私は足もとを確認しながら、波へそっと近づく。
風と香りを全身に感じながら、砂のついた貝殻を拾う。
一つ。また一つ。
「貝殻拾ってるの?手伝おうか?」
子供たちが駆け寄ってきた。
「うん、できるだけたくさん拾って欲しいな。白いの」
「白いのね、オッケー!」
横目に見ていた兄が言った。
「それ、アサリだよ」
アサリ。
どこにでもある貝を拾って何するの?
という表情で私を見た兄に、なぜだか急に可笑しくなった。
私には、貝殻が何の種類でどういう価値のあるものかとか全く関係なく、ただ白く輝く貝殻模様が絵画のように美しく、無性に集めたくなっていた。
アサリは記号だ。
普段私たちは、これが何という名前でどういう価値があって、使うか保持するか捨てるかいつも取捨選択している。
貝そのものではなく、記号として物体を判断している。
そういう思考に慣らされて、そのものが持つもっと他の可能性を、見逃しているのかもしれない。
私は拾った貝殻を持ち帰り、小さく砕き、ペットボトルキャップに紙粘土を詰め、そこへ貝殻のかけらを埋め込んだ。
貝殻のモザイク画だ。
キャップをアクリルで白く塗り、キャップ裏に磁石をつけた。
貝殻マグネットの完成!
乾燥を繰り返しながら4日間かけて作った貝殻マグネットは、私と子供たちの宝物になった。
なんの役にも立たなそうなものに、そっと目をむける。
素通りしてしまいそうなものに、手を伸ばしてみる。
そうすると何でもないと思っていたものが脳内で化学変化を起こし、別のものへと進化する。
そこに、新しい感動が生まれる。
「また貝殻拾いに行こう!」
と言った子供の満面の笑みに、心がキュッとなった。
人生という旅路を豊かにするのは、そういう感覚なのかもしれない。
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