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妄想癖について

昔から妄想することが癖になっている。

例えば、何気ない生活の中で何かを見たり聞いたりした時に、ふと妄想的世界に入り込んでしまうことがある。

その妄想的世界に入り込んでいる時は時間を忘れ妄想に励み、周りが見えなくなることもある。

今日もそうだった。

バスに高齢の女性が乗ってきて、その女性がまだ席に着いていないのにも関わらずバスは発車してしまい、女性はまえのめりによろめいた。ここまでが現実。

そして、ここからが僕の妄想的世界。

僕が危ない! と思った瞬間、女性はそのまま転倒してしまい、その際、ゴッという鈍い音がした。どうやら後部車両に上がるためのステップに彼女の額がぶつかったようだった。
彼女は倒れたまま動かず、僕は瞬時にこれはヤバいなと察した。次の瞬間、真っ赤な血がバスのフロアに広がった。僕はすぐに座席から立ち上がり、女性に駆け寄った。
「大丈夫ですか」と声をかけるが、女性は呻き声をあげているだけで、返事はなかった。
僕は自分のカバンの中からハンドタオルを取り出し、出血している彼女の額を抑えながら、上向きに寝かせた。
「運転手さん! 怪我人です! 停まってください!」僕は慣れない大きな声で叫んだ。
周りの人たちは心配そうに見ている。見てないで何かしろと僕は憤りを感じる。
「すみません、そこの黒いダウンを着ている男性の方。そうあなたです。救急車を読んでください。119番です。高齢の女性がバスの中で転倒して、頭を打ち、出血している。えーと次のバス停は、笹塚駅。場所は笹塚駅バス停です。そう伝えてください」
「わ、わかりました」男性はスマホを取り出し、焦りながらも電話で状況を話した。
みるみるタオルが赤く染まっていき、タオルから出血した血がしたたり出した。
「すみません、どなたかタオルをお持ちの方がいたら貸してください」
その掛け声に体育会系の大学生であろう女性がカバンからフェイスタオルを出し、僕に渡した。僕は彼女に感謝を告げ、うめく女性の額に貸してもらったタオルを当てた。
バスが漸くバス停に到着し、僕はさっき声をかけた男性にまた声をかけた。
「すみません、これからこの女性をバスから下ろすので手伝ってもらってもよろしいですか」
「あ、はい。どうすれば」男性が動揺しているのが伝わる。
「僕がこの女性の上半身を持ますので、あなたは下半身、おしりの辺りと両足を支えてください」
「わ、わかりました。やってみます」
「すみません、タオルを押さえてもらっててもよろしいですか」僕はタオルを貸してくれた女性に声をかけた。
「はい」女性はすぐに駆け寄り、血の染み込んだタオルを押さえた。
僕は女性の左肩に自分の左腕を回し、右腕を彼女の腰の辺り添えた。
「じゃあ、これから僕が持ち上げますので、あなたはおしりの辺りに左手を入れて、右手を膝の裏に入れてください。それから頭が動かないように頭を固定してもらってよいですか」僕はふたりに伝えた。
「わかりました」ふたりの緊張が伝わる。
「じゃあ、持ち上げます」
僕は足を開き、下半身に力を入れ、彼女を持ち上げた。
「どうぞ、手を入れてください」
男性は素早く手を彼女のおしりと膝の裏に差し入れた。
「ゆっくり移動します」
僕達は慎重にバスから降りた。
「すみません、バスタオルもか持ってないですよね」僕は体育会系の彼女に問うた。
「あります!」
「すみませんが、そこに敷いてもらっても余地ですか」
「わかりました」
僕達はゆっくりとバスタオルが敷かれたアスファルトの上に彼女を下ろした。
「頭が動かないようにこのまま固定をお願いします」僕は彼女に伝えた。
「救急車がしばらくしたら到着くると思うので、救急隊の誘導をお願いします」そう伝えると男性は道路の側に移動し、救急車の到着を不安そうに待った。
「大丈夫ですか。聞こえますか」僕は女性に声をかけ、意識を確認した。
「は、はい」彼女がか細い声で答えた。
よかった。意識はある。僕は少しだけ安堵したが、心臓の鼓動はまだ早い。
「気持ち悪くないですか」
「はい」今にも消えそうな声である。
遠くでサイレンの音が聞こえ、僕と頭を押さえてくれている彼女は顔を見合わせた。
道路側に救急車を待つ男性が大きく手を振り、救急車を誘導していた。
「怪我をされたのはこちらの女性の方ですね。救護ありがとうございました。ご協力感謝いてします」救急隊はそう言うと手早く彼女を救急車に乗せ、病院へと向かった。
「おばあさん、無事だといいですね」体育会系の彼女の表情は穏やかなそれであった。
「きっと大丈夫ですよ。皆さん、ご予定とか大丈夫ですか。引き止めてしまってすみませんでした」
「いや、気になさらないでください。人命よりも大事なものはないですから。と言ってものの、これから大事な用事があるので、私はこれで失礼します」男性はそういうと足速にその場を去っていった。
この後、警察が来て、僕と体育会系の彼女はこれまでの状況を説明した。バスの運転手も悄然とした表情で警察に事情を話していた。
数日後、自宅に菓子折りと手紙が届いた。送り主は転倒した女性のご家族からだった。手紙には、感謝を告げる言葉と彼女は元気であることが綴られていた。

ここまでが妄想。

小説とかだと、物語りは続き、例えば、ハートフルな人情物語にするもよし、このバス会社が故意に事故を何度も起こしていてるということに気付いた警察がその謎を突き止めるサスペンスにするもよし、僕と体育会系彼女の恋愛物語にするもよし、妄想から超大作、芥川賞、直木賞、ノーベル文学賞が狙えるかもしれない!

というのもまた、妄想でした。

妄想を定期的に書くいて、ここに残しておくというのもおもしろそうだ。

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