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海外と関わるお仕事をする方に、是非とも覚えておいていただきたいこと

仕事柄、日本語⇔中国語の通訳・翻訳のお願いをされることが、よくあります。

通訳・翻訳業務は自分にとって非常に勉強になるし、新しい知識も得られるし、
意思疎通が成功すれば、一般的には場の雰囲気が和やかになって、それを見ている私も嬉しい。
(※ たまに、クレーム系の交渉の通訳だと、意思疎通が成功したことで場の雰囲気が最悪になることもあるが)
なので、私でよければ、喜んでお引き受けしたいと思っています。

が。残念ながら、
通訳・翻訳の難しさを理解されていない、または思い違いされている方も結構いるのが実情・・・
先日も、壮大に思い違いをされている依頼があって
「え、ちょ、それ、無理ですよ?!」と口走ってしまったので、
海外と関わるお仕事をする方と、通訳者・翻訳者とのミスコミュニケーションをなくすために、
「通訳・翻訳 誤解あるある」を書き出してみました。
(※ 個人の感想です)

通訳編

誤解① 日本に住んでいる〇〇人に頼めば、〇〇語の通訳はできるはず
→ 結論から言います。できません。
「〇〇語が話せる」ということと「〇〇語の通訳ができる」ということは全くの別物です。
通訳業務は、
・相手の話(ニュアンス含む)を正確に理解する理解力
・それをわかりやすい言葉で変換して伝える表現力
・状況を判断して、適宜省略や補足ができる柔軟性と判断力
・そして母国語能力。外国語が母国語を超えることはない
等、数々の総合的なスキルから成り立っているので、訓練が必要なのです。

誤解② 宴会通訳だったらそんなに難しくないだろう
→ わたくしの経験上、「宴会通訳ほど難しいもんはない!!」と、声を大にして言いたい。
あらかじめ内容が決まっている訪問系の通訳とか、技術系の通訳とかだったら、話題の方向性も、出てくる単語もある程度絞ることができるので「予習」は可能です。だけど、宴会通訳って、次の瞬間何が出てくるか、全く予測がつかない のですよ?!
今までで一番「詰んだ」と思ったのは、中国人技術者と、日本人技術者が、ともにパリに駐在経験があることが判明し、パリ13区の話題で盛り上がってしまった とき。
パリ13区は「再開発による高層マンションやビルが並び、アジア系移民も多く暮らすなど、パリの中でも現代を象徴する区」なんだそうです。
そんな、見たことも聞いたことも、もちろん行ったこともない異国の地の風景を頭の中でめまぐるしく想像しながら、僕がいたときにはちょうど地下鉄14号線が開通しましただの、セーヌ川沿いの散策がどうのこうのだと訳さざるを得なかった時には
もうええから直接フランス語でやってくれ と思ったね。ボンジュール。

誤解③ 「同時通訳」の解釈が間違ってる
→ 「同時通訳」とは、「聞く」と「話す」をほぼ同時に行う通訳 のこと。国際会議などの大規模な会議で、通訳用のブースが用意されていて、ブースの中に入って通訳を行う方式。非常に集中力を使うので、だいたい15分~20分で他の通訳者に交代するのが一般的。
私も通訳コースの授業で何度かやったことがありますが、20分を過ぎると脳が混乱 して、自分が何しゃべってるのかよくわからなくなりました。
でも、それとは全く別の、「話者の発言の区切りごとに訳していく通訳手法」を「同時通訳」だと勘違いしている人も多いのです。
あれは「逐次通訳」っていうんだほんとはね。
話し終えるのと「同時」に訳し始めるから「同時」通訳だと思っちゃってるんかな。
両者がテーブルについて交渉するような、逐次通訳が一般的な会議なのに「同時通訳でお願いします」って言われた場合は、だいたいが勘違いなので念入りな確認が必要。

翻訳編

誤解① AIによる自動翻訳でなんとかなると思っちゃってる
→ AIの日進月歩ぶりには感嘆の念を禁じえませんが、自動翻訳はまだ完全ではありません。特に、海外に向けて本気で発信したい場合には、必ず、人の目と手によるチェック をした方がいいと思う。
もしあなたが海外に行って、店先の看板に「いらさいませ、よう二そ」とか書かれていたら、若干不安になりません?
海外のホテルやレストランで

「滑らかだ 気を付けて」(←(床が)滑りますのでお気をつけ下さい、と言いたい)
「いりぐち(入口)/ ゆしゅつ(出口)」(←「出口」には「輸出」の意味あり)

などの表記を見掛けるたびに、
惜しいなー、でも破壊力すごいなー、もったいないなーと思います。
仮に自動翻訳で作成した外国語が誤字脱字だらけだった場合、日本人が「いらさいませ、よう二そ」の看板を見たときに抱くのと同じような感想を、海外の方に与えてしまうんじゃないかな。

誤解② 翻訳者は1人いればいいと思っている
→ 翻訳には「外国語→母国語」と「母国語→外国語」の2種類があります。一般的に、母国語に訳すほうが「見た目がきれいな文章」になります。が、実は正確さに欠けている可能性がある。
一方で、外国語に訳した文章は「見た目はぎこちないが、母国語の意図を比較的ちゃんと汲み取れている」という可能性あり。
なので、望ましいのは、母国語を話す人が確認し、必要に応じて正しく自然な文法や言い回しに修正する工程(いわゆる『ネイティブチェック』)を行うこと。ネイティブチェックを行うためには、翻訳者は少なくとも2名必要です。
ちなみにこのあたりの内情については、米原万里氏の『不実な美女か貞淑な醜女か』という書籍が面白い。このご時世になんちゅうタイトルだと思うんだけど、もう25年も前の書籍なので、時代背景に免じてご容赦ください。「不実な美女」≒母国語への訳出、「貞淑な醜女」≒外国語への訳出 なんだってさ。

誤解③ 「お忙しいと思ったので、翻訳機能を使って自分で訳しました!確認『だけ』お願いします!(キリッ)」
→ 僭越ながら申し上げます。そこまでして頑張って訳さんでいい。人の文章(しかも間違いがあることが前提)を修正するのって、気力も労力も、自分でやるのの倍ぐらいかかるのよ。
以前、某自動車メーカーに勤めていたときのこと。技術系の方がおずおずと「頑張って自動翻訳でやってみたんで・・・お忙しいと思うので、確認だけしていただければ!」と持ってきた文章。
のっけから「鱸株式会社」ってなってました。うち魚屋じゃないんですけど。そしてその後も誤字脱字のオンパレード。
当時23歳だった私は推定40歳ぐらいの係長に「ちょ・・・何ですかこれ?このレベルだったら自分で最初からやった方がよっぽど早いんで、最初から私に頼んでください」ってブチ切れて、係長、申し訳なさそうに委縮してたなぁ・・・。かわいそうなことをしました。

まとめ

以上現場からお伝えしました。

当事者の心のうちを少しでも御理解いただき、
願わくば「へー、そうなんだ、
じゃあ次回、社内で通訳とか翻訳とかお願いすることがあれば
ちょっとやり方変えてみようかな」
などと、少しでもアクションを起こしていただけたら
当事者冥利に尽きます。

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