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【短編】少年は空と笑う #1200文字のスペースオペラ

地球には朝、昼、夜と表情を変える天井があった。

天井の役目は宇宙と地球を繋ぐこと。青や黄、赤に黒と様々顔を見せ、地球に住む生命体たちに時が流れるのを教えた。

しかし天井は思った。私にも休息が欲しい。何も考えず、人の目を気にせず、好きな時に好きな顔をする時間が欲しい。

そう思った天井は、朝に夜の顔をしてみたり、夕方に煌々と光を灯してみたり、遊んで暮らした。

そのせいで時間のわからなくなった生命体たちは、人間を代表として天井と話し合いを持つことにした。



「天井よ、どうしてそう顔を変えてばかりいるのだ」

「私もお前たちのように、好きな時に笑い、泣き、眠りたいのだ」



話し合いは平行線をたどった。焦れた人間が言う。



「だが天井よ、我が家の天井はいつも同じ顔をしている。来る日も来る日も同じ顔で私たちを守ってくれる。お前もそうするのが正しいのではないか?」

「それならば、私もずっと同じ顔でお前たちを見守り続けよう」



怒った天井は曇り顔を作り続けた。

天井は誰の言葉にも聞く耳を持たない。宇宙が「許してやれ」と言うのにも不貞腐れていた。幾日経っても晴れの日は来なかった。

地球は凍りつき、多くの生命体が死に至った。誰もが悲しみ、天井の心にも後ろめたさが募った。

しかし私は自由になりたい。本当は人間たちのように暮らしてみたかった。

そうできなければせめて、人間のように豊かな表情を持ちたかった。

人間と天井の心が離れるごとに、温度は刻々と下がっていく。もう地球も終わりかと思われた頃、一人の少年が現れた。

少年は言う。



「天井よ、なぜそんなに悲しい顔をするのか」

「それは私の心が曇っているからだ。人間だって、悲しい時は悲しい顔をするだろう」


少年は首を振った。


「僕は悲しくても悲しい顔はしない」

「それは人間らしくない。お前は人間が嫌いなのか」

「いいや、僕は人間が好きだ。だが人間も色々だ。僕は悲しい時こそ笑いたい。楽しい時こそ、辛く苦しい気持ちでいる人の心を慮りたい。だから僕は今、笑わなくてはならない」



天井は驚いた。

人間とは自由気ままな生き物だと思っていた。だが違っていた。



「お前こそいつも悲しい顔ばかり見せている。人間が嫌いなのか」

「いいや、私は人間が好きだ。だから人間になりたかった」

「では、君の笑った顔を見せておくれ。そうしたら僕が君の代わりに泣こう」



天井はそう言った少年の目に一点の曇りもないのを見て、地上を明るく照らし尽くした。凍土は溶け出し、新しい生命が生まれ始める。

少年は本来の姿を取り戻した地球を見て言う。



「天井よ、君は人間ではないが、とても素敵な笑顔の持ち主だ。そんな君には人間と同じように名前が必要だろう。そうだ、"空"と名付けるのはどうか」

「それは良い名前だ。私はこれから"空"と名乗ろう」



天井は以前のように時間ごとに顔を変え、人々に正しい生活を与えた。時々人間にも宇宙にも内緒で、少年と人間同士のように話すのを楽しみにして。




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知っている方もいらっしゃるかとは思いますが、こちらの短編は企画参加用に書きました。

この場を借りて、素敵な企画を主催された城戸圭一郎さんに感謝を。

スペースオペラ賞なのにほとんど宇宙が出てこないなんて…と書きながら思ったのですが、思いのほか筆が進んで楽しかったので僭越ながら出させていただきました。

だいぶ童話ちっくなお話ですね。個人的に童話は子供が読むよりも大人が読む方が考えるところが多い気がします。この歳になってもっと古典童話が読みたくなっている今日この頃です。



それではお読みいただきありがとうございました✳︎


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