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コンクリートから砂利道に(後編)

「コンクリートから砂利道(前編)」はこちらから

酒蔵の方にいただいた絆創膏を膝と手に貼り、
血が流れるのを阻止して、
恋人に向かってもらったのはドラッグストアでした。

実は酒造に行くまでに何軒も
クリエイト」というドラッグストアがあり、
「めっちゃあるね~」と話していたのです。

恋人には

「あれは盛大なフリじゃん!!」

と言われました。
しかも、半笑いで、です。

最初は心配してくれていた恋人も度重なる私のドジ
(今まで信じられない数のドジを見ている)に
笑がこみあげてきているようでした。

「どんくせぇな!!」などと怒るでもなく、
「どんくさっ!」と笑ってくれる恋人で良かったなぁ、
引き返すことになったのに嫌な顔をせず、
ドラッグストアに行ってくれるような優しい人で
良かったなぁ、とつくづく思いました。

ドラッグストアで降ろしてもらうと
自分のケガにぴったり合うサイズのキズパワーパッドを購入しました。
1人暮らしを始めてから
キズパワーパッドの愛用者なのですが、
とにかく、水を通さない優れものです。
これから温泉に入らなければならない私には、
防水が一番!
というわけで、剥がれてしまったときのためにも
少し多めに購入して車に戻りました。
ホテルに到着したら、再度傷口を洗って、
絆創膏からキズパワーパッドに貼りかえることに。

そこからはおつまみなどを買いながら、
ホテルへと向かいました。

幸いにも、膝に比べれば手の傷はマシです。
マシと言っても、手のひらがえぐれていたので、
通常であればなかなかのケガです。
でも、膝がどえらいことになっているので、
このときはマシだと思っていました。
明らかに感覚がバグっています。

手のひらをしっかり洗い、
キズパワーパッドを貼りました。
手のひら以外にも手をケガしていのでそちらにも貼り、
残りは膝となりました。

しかし、憂鬱です。

なんせ、膝はどえらい傷なのです。

「ねぇ、このまま貼っちゃダメだよね……?」

と恋人に問うと、

「ちゃんと洗わないとダメだよ!
ほら、お湯かけて」

と恋人は露天風呂に注がれ続けているお湯を
指さしました。
露天風呂の先には山々が見えます。
綺麗な景色を堪能する前にケガの手当をしている自分が
だんだん情けなくなってきました。
しかし、傷口を洗わないわけにもいきません。

仕方なく、桶に少量のお湯を取り、
申し訳程度に膝にかけました。

「もういいよね……?」

と言う私に

「全然ダメだよ!!」

と答え、ズボンを脱いだ恋人は
満面の笑みでこちらへやってきます。
恋人はケガを見れば、
笑顔で傷口を押してくるような人なので、
嫌な予感がしました。

「ほら、洗うよ!!」

と恋人が私の脚を持ち上げると、
逃げ惑う私の脚を恋人は抱きかかえて
がっつり固定します。

恋人と私の身長差は36センチもあります。
敵うわけがありません。
観念して、歯を食いしばりました。

容赦なく、ばしゃっとお湯をかけられた瞬間、

「きゃあああああああああっ!!」

という私の悲鳴が山に轟きました。
あんなにお腹の底から悲鳴を出したのは、
何年振りだったでしょう……。
間違いなく、ここ数年で一番の痛みだったのです。

お湯をかけられること数回、
汚れがキレイに落ちたのを確認して、
恋人は私の脚から手を離しました。

痛い。めちゃくちゃ痛い。
でも、自分でちゃんと傷口を洗えたかと言われれば
絶対にノーです。

「ありがとう……」と力なく言いながら、
キズパワーパッドを貼り、事なきを得ました。

うっかり膝をつけば悶絶、
手には細かい傷がいくつもあったので
アルコール消毒で悶絶というのを
繰り返してはいましたが、
旅行はとても楽しかったです。

キズパワーパッドのおかげで、
温泉にも問題なく入ることが出来ました。

ちなみにケガは今も完全には治っていません。
痛みはないものの、しっかり痕が残っています。
年内に傷が消えるのは難しそうです。
一瞬とは言え、全体重が膝に乗ったのですから、
そうそう簡単に治るわけもありません。
年齢的にもケガの治りは遅くなってきているので、
来年の誕生日までに治るといいなぁ、
とぼんやり思っています。

(了)


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