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制御できない非対称兵器としての非国家アクター #非国家アクターメモ 9

非国家アクターについて、思いついたことをいくつかメモします。
非国家アクターには国家や国民と異なって、特別な存在という気がします。

●主な特徴

・国際法上の規定がほとんどない。国境を越えて活動する非国家アクターは事実上、どこの国家からの規制も逃れやすいという利点がある

・欧米型の民主主義は富裕層が自分たちの権利を王などから守るために発展してきた経緯から、企業などの非国家アクターの政治への関与が可能であり、特例的な存在となっている。政治家への寄付やロビイスト活動が公に認められ、選挙結果への影響があるにもかかわらず選挙にかかわる広告を出せる。
この特例的な扱いは他の非国家アクターにも適用されるため、白人至上主義グループも同様の恩恵にあずかり、共和党とよい関係を保てている。

・「個別の11人」のように中心となるリーダーがおらず、小規模のグループが多数連携しているため実態が把握しずらく、壊滅が難しい。また、確たる理念はなく、容易に操作され、方向を変えられ、共闘させられるし、SNSで人気のハッシュタグやテーマに相乗りして影響力増大、メンバー増加を進める。通底しているのは、反主流派であることくらいだ。よく使われるテーマやミームは、民族、宗教、コロナ、LGBTQ+、中絶などである。

・穏健派から過激派まで幅広く存在しており、穏健な層の数は多く過激派の数は少ない。しかし、全体が増加しているため、過激派も増加している。

・反主流派の非国家アクターを中露は支援しており、デジタル影響工作でその発言を拡散したり、武装した過激派に軍事訓練を行ったりしている。

●非国家アクターのグラデーション

非国家アクターといっても、さまざまである。表にまとめると下記のようになる。

●非国家アクターに対する国家の責任

以前、ご紹介したサイバー攻撃の責任の帰属を非国家アクターにあてはめてみよう。
アメリカのビッグテックはロビー活動に多額の費用を費やし、SNSプラットフォーム選挙に影響を与えている。同様にNPOや政党、”Moms for Liberty”のような市民グループ(https://note.com/ichi_twnovel/n/ndecace54347f)メディアは公的な監視をほとんど受けない状態(https://twitter.com/K_Ichida/status/1577071749329391616)で活動できる。
責任の帰属では限りなく3に近い2あたりだ。被害を受けている国は3あるいは4を主張してもおかしくない。

世界的な影響を考えると、アメリカのビッグテックはミャンマーを始めとする国々の政治紛争の責任の一端があり、アメリカのメディアは国際世論を恣意的に歪め、アメリカの陰謀論者QAnonは世界に陰謀論を拡散させた。帰属ではなく責任の帰属で判断した場合、アメリカ政府にはさまざまな国に対して大きな罪を負っていることになる。

ただ、アメリカ主流派の立場を考えると、サイバー攻撃以外の責任をこのアプローチでとられることはなさそうだ。
そうなると、非国家アクターの活動について国家は関与の度合いによらず、責任を取らなくてよいことになり、国際法の規制もないから誰も止められないことになる。唯一あるのは国内法での処罰くらいだ。

そう考えると、非国家アクターを統治下においている国(中露など反主流派)にとって、非国家アクター(特に主流派のカテゴリー1と2)を活用するのは非常に効果的ということになる。
反主流派の拠点となったアメリカ共和党が中間選挙で勝利し、次の大統領も共和党になれば、アメリカは国ごと大きく反主流派になりかねない。非国家アクターを制御できないまま、その状態になると容易に外部からの干渉を受けやすくなったり、内戦状態に陥ったりしそうで危ない

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