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番外編 反主流派の梁山泊となった共和党の新しい仲間”Moms for Liberty” #非国家アクター メモ 9

●反主流派の巣窟となった共和党

アメリカの共和党はQAnonや白人至上主義者や極右などの非国家アクターと近しいことはこれまでご紹介した通りだ。そもそもどちらがどちらを取り込んでいるのか、一体化しつつあるのかさえよくわからない状況になりつつある。
その共和党の新しいパートナーとなっているのが、”Moms for Liberty”(https://www.momsforliberty.org)という団体だ。

アルジャジーラは、同団体が民主主義の脅威になりつつあると指摘した記事(The next threat to democracy in the US: Moms for Liberty?、2022年4月27日、https://www.aljazeera.com/opinions/2022/4/27/the-next-threat-to-democracy-in-the-us-moms-for-liberty)で、共和党との親密さを紹介した後で、この共和党が団体との関係を強めるのは選挙のためにはなんでもするという病気だとまで書いている。
共和党はこれまでもQAnonなどのグループを受け入れてきたが、彼らを受けつけない党員や有権者も多い。そこでより受け入れられやすい”Moms for Liberty”というわけだ。

そもそも”Moms for Liberty”は、フロリダ州共和党の副議長であるジーグラーと結婚したブリジット・ジーグラーが設立しており、設立後すぐのメンバーの少ないうちにThe Rush Limbaugh Showに出演し、Tucker Carlson Tonightでは反ワクチンの博士から賞賛され、極右のBreitbartは記事を掲載したといった具合で、反主流派がこぞって”Moms for Liberty”をプッシュした(Unmasking Moms for Liberty、2021年11月12日、Media Matters、https://www.mediamatters.org/critical-race-theory/unmasking-moms-liberty)。
Media Mattersは右派を批判的に描く記事が多いが、この記事でも”Moms for Liberty”を右派に位置づけている。個人的にはQAnonや反中絶派などは右とか左という問題ではないような気がする。

●”Moms for Liberty”の活動 反ワクチン、禁書や教育現場への干渉

”Moms for Liberty”は反主流派の多くが唱える反ワクチンや人種差別、反LGBTQにも賛同しており、ワクチン接種を薦める本やLGBTQの権利についての本、奴隷制度についての本を図書館から排除したり(How to Make School Board Culture Wars Even Worse、2022年4月23日、https://www.nytimes.com/2022/04/23/opinion/school-boards-books-tennessee.html)、教育現場で扱えないようにしようとしたりしている(How to Make School Board Culture Wars Even Worse、2022年4月23日、https://www.nytimes.com/2022/04/23/opinion/school-boards-books-tennessee.html)。また、フェイスブックで「遺伝子を変える注射」という議論を行ったりしていた(前掲Unmasking Moms for Liberty)。

武装化したQAnonや極右とは違う形で”Moms for Liberty”は過激化している。設立後、全米の図書館に対して、ワクチンや人種差別、LGBTQに関する本を禁止するキャンペーンを行っている。1990年から図書館の本や資料に対する苦情を収集しているアメリカ図書館協会は、これまでは年間300 〜350件だった苦情(しかも特定の1タイトルが主)の件数が2021年だけで、1,597種類の本に対する 729件の苦情となったことを明らかにした。書籍に対する苦情の申し立て方には、フェイスブック上で情報交換され、団体の支部間で共有されている(How Book Bans Turned a Texas Town Upside Down、2022年9月8日、https://www.nytimes.com/2022/09/08/magazine/book-bans-texas.html)。対象となった書籍には奴隷制度の歴史に関するものや、LGBTQの権利に関するものなども多い。反抗的な図書館員が解雇されるという事件も起きている。
こうした禁書運動は全米に広がっており、図書館員などを刑事告発しようとする動きまで出ている(Book Ban Efforts Spread Across the U.S.、New York Times、2022年1月30日、https://www.nytimes.com/2022/01/30/books/book-ban-us-schools.html)。『華氏451』を彷彿させる。

フロリダ州では、教育に関する親の権利という法律が可決され、幼稚園から3年生までの子供たちに性同一性や性的指向についての教育を行うことが禁止された。反対派からは「ゲイと呼ぶな」法と揶揄されている。

”Moms for Liberty”はさらに全米の教育委員会を影響下に収めるべく、メンバーを教育委員会に送り込む作戦を進めていることがさまざまなメディアで警告されている。

Moms for Liberty’s conservative activists are planning their next move: Taking over school boards (NBC、2022年7月17日、https://www.nbcnews.com/politics/politics-news/moms-liberty-conservative-activists-school-boards-rcna37594)
‘Moms for Liberty’ mobilize for school board races — with DeSantis in tow(POLITICO、2022年7月15日、https://www.politico.com/news/2022/07/15/moms-for-liberty-desantis-00046178
How to Make School Board Culture Wars Even Worse(New York Times、2022年4月23日、https://www.nytimes.com/2022/04/23/opinion/school-boards-books-tennessee.html

●バリエーションは増加、主張は同じ

反主流派は陰謀論、白人至上主義、極右などさまざまなバリエーションで拡大してきた。しかし、その主張の多くは共通している。まるでターゲットに合わせてキャッチコピーを変えているかのようだ。今回の”Moms for Liberty”も同様だが、共和党にとってはあまり政治に接点を持っていなかった新しい層を開拓できたというメリットが大きいようだ。
反主流派の梁山泊のようになった共和党が今度の動きから目が離せない。

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