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サイバー空間での活動を拡大するロシアのPMC(民間軍事企業) #非国家アクター メモ 7

グローバルノース主流派と反主流派の大きな違いのひとつは、非国家アクターの扱いにある。主流派は原則として非国家アクターをコントロール下におかない。民間企業やNPOを始めとする非国家アクターを政府の管理下に置くことは主流派が標榜する民主主義に反するためだ。
しかし、反主流派は非国家アクターを積極的に利用する。主流派が利用できないという縛りを受けている以上、反主流派は利用すればするほど、有利になるので当然利用は増加する。このへんのくわしい話はこちら
主流派の本拠であるアメリカの企業グーグルが中国に検閲機能つきサーチエンジンを提供しようとしたり(https://note.com/ichi_twnovel/n/nfbc442281b86)、多額の広告費用を白人至上主義や陰謀論者に支払っている(拙著『ウクライナ侵攻と情報戦』)のもその一部だ。これまで書いてきたように、アメリカの白人至上主義過激派グループをロシアが支援するのもそのひとつだ。
総じてグローバルノース主流派は、非国家アクターに対処できておらず、それが社会の分断を激化させ、内戦寸前の状態にいたらせる要因のひとつになっている可能性がある。

PMCは非国家アクターの中でも比較的国家に近いアクターである。
「Russia’s Corporate Soldiers The Global Expansion of Russia’s Private Military Companies」(戦略国際問題研究所、2021年7月、https://www.csis.org/analysis/russias-corporate-soldiers-global-expansion-russias-private-military-companies)によれば、ロシアはPMC(民間軍事企業)を対外的なツールとして活用しており、2015年から2021年にかけてPMCが活動する国の数は7倍(4カ国から27カ国)に増加した。アフリカ、中東、ヨーロッパ、アジア、ラテンアメリカ、中央アフリカ共和国、リビア、スーダン、シリア、ウクライナ、ベネズエラなどがそうだ。
国防省(特に連邦軍参謀本部情報総局=GRU)、連邦保安庁(FSB)、対外情報庁(SVR)などと直接的、間接的につながっているものがあり、戦略上の重要性を増している。その一方でその実態についての調査や研究などは不十分で、効果的な対処が出来ていない。

ロシアにおけるPMCは主として非正規戦やグレーゾーンが中心で、戦闘だけでなく情報収集、保護、訓練、治安維持、情報操作、プロパガンダにかかわっており、ロシア政府やオリガルヒがグローバルサウスで貿易や経済的影響力を拡大するためのツールにもなっている。
2021年のアメリカ情報機関の年次脅威評価では、「クレムリンに近いロシアのオリガルヒが経営する民間軍事・警備会社は、低コストでロシアの軍事力を拡大し、ロシア政府が関与を否定して撤退ことを可能にする」としている。その脅威は中程度だが、文脈的に理解することが重要である。

ただし、PMCの増加はロシア独自の現象ではなく、中国などのPMCも増加しており、活動は世界各国に及んでいる。また、以前書いたようにアメリカの白人至上主義過激派グループ(RMVEs)に軍事訓練を行っている。
「Hackers, Hoodies, and Helmets: Technology and the Changing Face of Russian Private Military Contractors」(大西洋評議会ISSUE BRIEF 2022年7月、2022年7月25日、https://www.atlanticcouncil.org/in-depth-research-reports/issue-brief/technology-change-and-the-changing-face-of-russian-private-military-contractors/)は、今後PMCがサイバー空間における活動を拡大する可能性を指摘している。何度か書いたようにロシアでは、サイバー攻撃とデジタル影響工作を分けて考えていない。すでにPMCはアフリカなどでデジタル影響工作を実施しており、PMCのひとつRSB Group(https://rsb-group.org)は、2016年にはサイバー関連の業務も請け負っていた。彼らのページにはサイバー攻撃といった直接的な表現はないが、監視やインテリジェンス業務があげられている。

大西洋評議会のレポートは今後ロシアのPMCがイスラエルのNSOグループのようなサイバー技術を利用した活動を拡大する可能性を指摘している。ロシアには世界的なランサムウェアグループがいくつかあり、さらにマルウェアTritonにかかわったとされるCentral Scientific Research Institute of Chemistry and Mechanicsのような研究所も存在する。これらとPMCが結びつくことで高度なサイバー活動が可能になる。

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