民主主義の現在 アジアのネット世論操作の現状 インドネシア編 Social Media, Disinformation and Democracy in Asia: Country Cases

Social Media, Disinformation and Democracy in Asia: Country Cases(Asia Democracy Research Network=ADRN、2020年10月)http://www.adrnresearch.org/publications/list.php?at=view&idx=118

Asia Democracy Research Network(ADRN)がまとめた報告書でアジア14カ国におけるネット世論操作のケースタスディがまとめられている。取り上げられている国は、日本、モンゴル、韓国、台湾、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、タイ、バングラデシュ、インド、ネパール、パキスタン、スリランカである。全体で300ページの大作だ。
日本(https://note.com/ichi_twnovel/n/n74ff650210ab)モンゴル(https://note.com/ichi_twnovel/n/n55e4b64abbbe)韓国(https://note.com/ichi_twnovel/n/n539621bcdaa1)台湾(https://note.com/ichi_twnovel/n/n185098fba301)の事例研究についてはすでにご紹介した。今回はインドネシアである。

インドネシアについてのレポートは2018年から2019年にかけての総選挙期間にフォーカスしたものとなっている。この時、インドネシアは大統領、副大統領および議会選挙が重なった初の総選挙となった。特に大統領、副大統領はそれぞれ2人の候補だったため戦いは熾烈だった。ちなみに世界の3大民主主義選挙イベント(主として規模)と呼ばれているのが、アメリカ、インド、インドネシアである。約245,000人の立候補者が20,000以上のポストを巡る選挙がたった1日で行われた。しかも1カ月前までおよそ16.2%の有権者は投票先を決めていなかったことが調査でわかっている。

・インドネシアの選挙は世界3大民主主義選挙のひとつ
2018年において総人口2億6,540万人のうち、1億3,270万人がインターネット利用者で、1億3,000万人がSNSのアクティブユーザーである。
インドネシアにおいてSNSはきわめて重要な役割を果たしている。現在の選挙キャンペーンはリアルの活動とネットでの活動の組み合わせとなっている。実はインドネシアにおけるネット世論操作は世界的にも有名で、拙著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 (角川新書)』でも取り上げている。
インドネシアの特徴としてはSNS利用者の多さにリテラシーが追いついていないことがあげられる。そのためネット世論操作の格好のターゲットとなる。2016年のCentral Connecticut State Universityの調査では61カ国中60位の読解力と識字行動だった。

・インドネシア総選挙のネット世論操作
インドネシアでよく使われているSNSは、YouTube、WhatsApp、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムであり、DailySocial Surveyの調査によるとデマを受けとったのはフェイスブックが81.25%、WhatsAppが約56.55%、インスタグラムが29.48%、Telegramが32.97%以上だった。インドネシア通信省は投票1カ月前に700件のデマを報告した。
各政党はSNSの利用にあたり、buzzersと呼ばれるインフルエンサーを活用し、いくつかの政党は短い動画をSNSで拡散した。
ファクトチェック団体Mafindoによれば選挙期間中、ネット世論操作が61%増加したという。buzzersはボットとスパムアカウントを主としてツイッターとインスタグラムで用いた。
デマは候補者の宗教および民族に関するものが多かった。たとえば中国人、キリスト教徒、共産主義者、無神論者という言葉は攻撃となり、拡散しやすい。

2019年の選挙戦においては候補者だけでなく、選挙管理委員会もターゲットとなった。この点は従来と異なっている。
選挙管理委員会に対して、投票箱に関するデマ、中国から大量に投票用紙が送られてきたというデマ、中国人労働者のデマなどが流れ、選挙管理委員会は混乱した。選挙管理委員会の会長が中国人だというデマもあった。たとえばジャカルタ北部の港でジョコウィのためにパンチされた数百万の投票用紙を含む、中国から送られた7つの箱を示すと主張した後、ビデオが口コミで広まった。また、投票者リストに「問題のある」名前が1,750万人あったというデマや、使用済み投票用紙がジャカルタ北部で見つかったいうのもあった。
投票後も選挙管理委員会職員が賄賂を受けとったというフェイク動画が出回ったり、落選した候補者が「メディアがウソの選挙結果を報道している」と非難したりしていた。
最終的にほとんどのインドネシア人は選挙結果を受け入れたが、インドネシア当局は陰謀論者たちが暴動やテロが起きることを懸念していたほどだった。
余談であるが、今回のアメリカ大統領でも似たような騒ぎが起きており、ネット世論操作は似通ってくるものだと思った。選挙に関する国民の信頼が大きく毀損したのも同じだ。

・ネット世論操作対策
Googleニュースイニシアチブは国内の主要メディア22社と協力して、CekFakta.comというサイトを通じてフェイクニュースに対処した。
インドネシアの通信省はStopHoax.idというサイトで毎週デマと正しい情報を流した。
MafindoはGoogleChrome拡張機能で、WhatsAppのデマに自動的に対抗するデータベースWhatsAppHoax Buster(WHB)をリリースした。デマが発生すると、ユーザーは即座にメッセージを転送して、組織のデマデータベースに対して検証することができる。
DroneEmpritという団体は、WhatsAppグループチャットに自動的に侵入して、メッセージの拡散を監視するシステムを開発した。 機械学習とビッグデータセットマイニングを利用してボットネットワークアカウントの種類を特定した。
法制度も整備された。

マガジン 民主主義の現在
https://note.com/ichi_twnovel/m/m6c3f2276706c

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