民主主義の現在 アジアのネット世論操作の現状 日本編 Social Media, Disinformation and Democracy in Asia: Country Cases

Social Media, Disinformation and Democracy in Asia: Country Cases(Asia Democracy Research Network=ADRN、2020年10月)
http://www.adrnresearch.org/publications/list.php?at=view&idx=118

Asia Democracy Research Network(ADRN)がまとめた報告書でアジア14カ国におけるネット世論操作のケースタスディがまとめられている。各国それぞれ専門の著者が担当しており、日本は一橋大学の市原麻衣子(敬称略で失礼します)が執筆している。取り上げられている国は、日本、モンゴル、韓国、台湾、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、タイ、バングラデシュ、インド、ネパール、パキスタン、スリランカである。全体で300ページの大作だ。まだ全てには目を通していないが、日本の事例研究についてご紹介したい。読み進むごとに他の国の事例研究も紹介してゆきたいと思います。

・日本でも行われているネット世論操作
日本に関する研究は日本語以外で発信されることが少なく、科学的ではない(おそらく統計、定量的方法論に欠けているという意味)ものがほとんどという指摘をしている。これはまったくその通りで、今回の報告書のようなものが増えることを期待したい。
過去の資料から日本にもネット世論操作(本文中ではdisinformationが多く使われている)が存在することを示し、ボットやトロールが活動していることを紹介している。ただ、日本ではSNSでニュースに触れる率が低いことと、日本のメディアが比較的中立的であるという過去の資料をあげている。ここは法政大学藤代裕之のフェイクニュース・パイプライン(SNSで拡散した話題がヤフーニュースやテレビに取り上げられる現象)にも触れてほしかった気がする。
そして、誤情報をネットに流す政治家として安倍晋三とN国党の立花孝志をあげている。トロールとしてネトウヨ、在特会、自民党ネットサポーターズクラブを紹介している。
自民党ネットサポーターズクラブのツイッターアカウントを特定し(自称)、その発言を定量的に分析している。このレポートの分析にはKHコーダーが用いられている。

なお、日本国内で行われているネット世論操作については拙ブログ記事(メモ 記事日本におけるネット世論操作)もご参照いただければ幸いである。

・中国からの干渉
続いて、海外からの干渉の事例として、中国の関与が疑われるレコードチャイナとサーチナを取り上げている。KHコーダーによる分析を行い、レコードチャイナには日韓関係を毀損するような傾向が見られること、サーチナにははっきりとではないが親中国的傾向があることを明らかにした。

・日本の対策と今後の課題
現在、日本で行われている対策と今後の課題に触れているが、政府の対応も市民の関心もメディアもファクトチェック組織も問題山積みという感じだった。

日本のネット世論操作に関するレポートが日本語以外で発信されることは重要であり、今回のように諸外国の専門家との共同作業となればさらに価値がある。このレポートをきっかけに今後、こうした活動が広がっていくことを期待したい。


いくつか気になる点があったので最後に記しておく。分析手法に関しては私はKHコーダーを利用したことがないので、単になにかを勘違いしているかもしれない。

・対照群がほしかった
ほんとに欲張りな話ですが、レコードチャイナとサーチナの分析で、日本国内の他のメディアのアジアに関する記事、中国あるいは他のアジアの国の同種の記事と比較があるとより偏りがわかったと思う。いわゆる対照群としても意味を持つ。特にサーチナについては他メディアとの対比があると、より偏りがわかりやすかったと思う。

・もっとデータが欲しかった
これは完全に私の趣味です。結果だけわかればいいという人には全く必要ない話です。

たとえばサーチナの記事に韓国を示す言葉は何回出て来たのか? 少なくともトップ10には入っておらず、日本や中国を示す言葉よりははるかに少ない。Jaccard指数がすごく低いので、おそらく他の指数ならもっと高い数値になったはず。あの手の指数は手計算できると思うので、元の数値があれば他の指数をためしてみれる。

コレスポンデンス分析がよく使われているのですが、これって記事を1サンプルとして主成分分析や因子分析にかけて複数の要因相互の関連をみれないものですかね? レコードチャイナに関しては日本、韓国、中国はひとつの記事に複数回登場しているのも珍しくないはず(データを見る限りでは)。複数回ってことは定量分析にかけられる。これに肯定・否定の形容詞(これも1記事に複数回登場する可能性が高い)なども含めてその結果要約された1軸と2軸の内容と布置を見るといろいろおもしろそうと思ったんです。


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