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ジャジャからの贈り物

その日は、太陽がキラキラ輝く真っ青な空が美しい日で、夫と私は敷地内にある温室でラベンダーの繁殖作業をしていた。
遠くから、飼っている犬のジャジャの吠える声が聞こえたけれど、繁殖の真っ最中だったし、ジャジャは家の前を散歩で通る犬たちに吠えることがあって、その犬たちが通り過ぎればいつも吠えるのを止めるので見に行かなかった。
しかし、ジャジャは吠えることを止めず、ずっと吠え続けていた。
様子がおかしいので、夫が様子を見に行き、戻ってくると、その手の中には小さな生き物がいた。


ジャジャ

これは私の愛犬ジャジャが与えてくれた素敵な贈り物の話です。
ジャジャは私にこの世界は人間だけのものではないと教えてくれた。
私たちはたくさんの命と共に生きていて、すべての命は大切だと。
私は犬が大好きで、子供の頃からずっと犬を飼っていたけれど、猫には縁がなく、正直に言うとあまり好きではなかったのに、ジャジャが私にくれた贈り物とは… そしてそれが私の人生を変えることになるとは…

その晴れた日、私は夫の手の中にいた小さくてふわふわの生き物が、泥だらけで、傷ついていて、片目が開かずにいるのを見ていた。
言葉を失っている私の隣にジャジャが来て、私をじっと見つめていた。
「その子猫を助けて」
ジャジャが私に話しかけたような気がしたので、私はその子猫を傍に置いて繁殖作業を続けた。
ジャジャは、また庭へと戻っていった。
そして数分後、ジャジャがまた吠え始めた。
今度はすぐに夫がジャジャの元へと走っていった。

夫が戻ってきた時、その手の中には別の小さな生き物がいた。しかも今度は2匹!
ジャジャは、また私をじっと見て「頼んだよ」と言っているようだった。

3匹の子猫たち

夫は、その3匹の子猫たちを抱えて家の中へ連れて行き、濡れたタオルで子猫たちを拭いてキレイにし、子猫の餌を買いに行った。その間、私はただただ子猫たちを見ているだけだった。
私は子猫たちをどうしたら良いのかわからなかったけれど、夫がいろいろやってくれていたので、3匹の子猫たちと一緒に暮らすことにした。

3匹の子猫たちは、あっという間に私を虜にした。
猫と暮らした経験がなかった私は、猫の気まぐれさ、愛らしさ、そして生まれて数週間なのに独立独歩で生きている姿に驚いた。
猫たちが生み出す距離感が私にとっては何とも言えず心地よかった。

三ヶ月後、夫と私は19日間日本へと一時帰国した。
その時、私の心は子猫たちと離れる寂しさで胸が締め付けられた。日本滞在中も考えるのは子猫のことばかり…
そう、私はいつの間にか猫が大好きになっていたのだ。

ジャジャと3匹の子猫は、いつも一緒だった。一緒に遊んで、寝るのも一緒。子猫たちはジャジャが大好きだった。


ジャジャと猫たち

しかし、その時は来た。
2021年2月6日
ジャジャはこの世を去った。

ジャジャは老衰だったけれど、私はものすごく落ち込んだ。ジャジャは私にとって心の支えだったから。
3匹の子猫たちもジャジャはもう帰ってこないことを知っているかのようで、落ち込んでいる私の元へ来て、
「私たちがいるよ!」
そう言って励ましてくれているようだった。

落ち込んでいても人生は続いていく。
2021年4月19日、1匹の猫が裏庭にやってきた。
その猫は、住み家を見つけたと言わんばかりに、裏庭で寝起きをし始めた。
3匹の猫たちはその猫に興味津々で、網戸越しにコミュニケーションをとり、良い関係を築き始めていた。


猫たちのコミュニケーション

三週間後、その猫を動物病院に連れて行った。この辺の飼い猫(特に外飼いする猫)は、マイクロチップを入れる。マイクロチップが入っていれば、飼い主を特定し、迷い猫を飼い主の元に帰してあげることができるからだ。
その猫は、マイクロチップを確認したらなかったので、飼い猫ではないことが判明し、健康診断、予防接種も済ませ、私たちの家族の一員になった。

その翌年、黒猫とキジトラ猫が私たちのラベンダー畑にいるのを見かけた。
私は猫好きになってはいたけれど、野良猫に関しての知識は全くなく、お腹が空いていそうだからと、その猫たちに餌をあげ始めた。日を追うごとにごはんを食べにくる野良猫たちの数が増えていった。私は野良猫たちを観察するのが楽しくて好きだった。
ある日、2匹の子猫を連れた母猫がごはんを食べに来た。
その子猫たちを捕まえて保護しようと決めたけれど、所詮素人の私たちには1匹の子猫しか保護できなかった。


2匹の子猫たち(右がセビーチェ)

その子猫はセビーチェと名付け、セビーチェもまた私たちの家族の一員になった。
5匹の猫たちとの暮らしが始まった。
5匹ともみんな性格が違い、とてもユニークで可愛い。ますます猫の虜になっていった。

そして昨年の夏、裏庭で6匹の子猫を見つけた。
私たちはいくつもの保護施設などに連絡を取ったけれど、どこも猫たちでいっぱいいっぱいだという回答だった。
私たちは、その6匹の子猫たちを保護し、今は11匹の猫たちと暮らしている。

そんな中、私はセビーチェの妹(前年に捕まえることができなかった子猫)が、再びごはんを食べに来てくれている姿を見つけた。痩せっぽちで汚れていた。
その時、私の頭の中に一つの疑問が浮かんだ。
「どうしたら、セビーチェの妹は安全な環境で暮らすことができるの?」

私は野良猫について調べ始め、アメリカ、ミネソタ州にあるキャット・サンクチュアリーを見つけた。数百匹の行き場のない猫たちがケージのない安全な環境で、お腹いっぱいごはんを食べられて、生涯を終えることができる。まるで野良猫たちのリゾートのような場所だった。

そのキャット・サンクチュアリーを見つけてから、多くの場所にキャット・サンクチュアリーが存在し、多くの行き場のない猫たちが生涯安全にお腹いっぱいで過ごせる場所を作っていることを知った。
そして、私たち夫婦は今、キャット・サンクチュアリーを作ろうとしている。

私が猫好きになって、猫たちを保護するなんて思いもしなかった。

あの日、もしジャジャが3匹の子猫たちを見つけなかったら、私の人生は全く違っただろう。

ジャジャがこの道へと導いてくれた。

ありがとう、ジャジャ。

ジャジャ、あなたがいなかったら私は猫の美しさを知ることがないままの人生を送っていただろう。

ありがとう、ジャジャ。ありがとう。






#創作大賞2024 #エッセイ部門

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