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パン屋日記 #10 まぶしいのはあなた

チャラチャラしたおじいちゃんが大好きです。
使う言葉が、とにかく明るいのです。

そのお客さまは、
いつも窓際のお席に座られます。

お年は、なんとなく70代前半くらい。

「まぶしくないですか。
 カーテンお下げしましょうか」

とお声がけすると、

「いやあ、まぶしいのはあなただけ!
 ありがとう!」

と言って新聞を読まれます。

「いやあ、あなた、笑顔がいいねえ!」

と言う日もあれば、

「あなた最近、
 横顔が綺麗になったんじゃない?」

なんて言う日もあります。

お客さまがめずらしく
ジャケットを着て来店された際、

「今日は、いつもと雰囲気が違いますね。
 お似合いです」

とお声がけすると、

お客さまはピカッと笑って、
ジャケットの襟元をキュッと整え

「あなたに会うために、
 オシャレしてきましたよ!」

と、言ってくださるのでした。


そのお客さまを
初めて店外でお見かけしたのは、

広島大学病院の待合室でした。

わたしは、大学病院というのは

風邪をひいて来るところではないと
知っていますし、

お客さまが順番を待たれていた
「脳神経内科」には、

難しい病気が多いことも知っていました。

声をかけずにそっと病院を後にし、

そう、またいつも通りの

「パン屋さんの世界」が始まります。

お客さまはやはり今日も、
陽がさんさんと降りそそぐ窓際の席に座り

「いやあ、あなた、ほくろの位置がいいね!」

と言って

ピカッと笑うのでした。

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