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パン屋日記 #47 立派なコックさんと熱帯魚のぶくぶく

パン屋に併設のレストランに、

「シェフ」こと
立派なコックさんが入りました。

年配の人なら誰でも知っている
立派なレストランの、
総料理長だった人です。

シェフは、
社歴が長いほかの社員を
一足飛びに追い越し

最初からトップオブザコックさんとして
入社しました。

つい先週まで、

「豚肉の生姜焼き」
「牛肉とごぼうの柳川風」

なんかを出していた日替わりランチが

ある日突然、

ガチのフレンチに切り替わりました。

●何とかとプティトマトのアーリオオーリオ
●何とかと何とかのポワレ赤ワインビネガーソース

ミートソースパスタは、
「ボロネーゼ」でさえありません。



「ポロネース」です。



フランス語では、
ポロネースと言うのだそうです。



ある日社長が、

新卒採用の新入社員を
本店のレストランに呼び

営業時間外に、晩餐会を開きました。

シェフ以外のコックさん2人は
さっと帰宅。

毎日、朝早くから働いているので、
こんなことにまで付き合っていられないのです。



晩餐会の食事は、
フレンチのフルコースでした。

「これ、全部一人でやるの? 大変ですね」
と声をかけると、

シェフはちょっとだけ恥ずかしそうに

『好きだから、大丈夫です』
と言いました。

『デザートが2つ余るんだけど…いる?』
と尋ねられ、

わたしは食い気味で
「ハイ」と答えました。

濃厚でなめらかな
手づくりのミルクプリンに、

さわやかな風味のふわっふわの泡が
こんもりとのっています。


「この泡、どうやって作ったの?」

とシェフに尋ねると、

『それは、ミント。
 熱帯魚の、ぶくぶくするやつがあるでしょう。
 あれにミントと大豆のレシチンを入れると、
 そうなります』

と教えてくれました。


すごいし、面白いし、
おいしかったです。


今日だけのために作られた特別コースは

旬の食材がふんだんに使われた
明るく喜びに満ちたお品書きで、

新入社員歓迎する会に、
あまりにぴったりでした。

わたしは斜に構えたような気持ちが
すっかり無くなり

今ではうっかり、
シェフの大ファンになってしまったのでした。

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